19-13 : 人の特性
「ニールヴェルト総隊長」
集落の中で何隊かに分かれて個別に行動を取っていた“明けの国”の騎士たちが、次第に静まっていく周囲の気配に状況が終わりつつあることを感じ取って、集結を始めていた。それに一足遅れて、騎士団総隊長“烈血のニールヴェルト”が、その集団に合流する。
「よぉ。調子はどぉだぁ? “増え”はしてもぉ、まさか“減って”はねぇよなぁ?」
「損害無しとは参りませんでしたが、それを補って余りある増強となりました」
「あぁ、そぉ。いいんじゃねぇのぉ?」
集結した騎士たちの顔ぶれを見渡しながら、ニールヴェルトが間延びした声で言った。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……あぁららぁ。だぁいぶ、編成が変わったなぁ、ははっ」
騎士たち1人1人を指さしてその数を数えながら、ニールヴェルトが面白がるように続けた。
「銀色いのが、また減ったなぁ。
“明けの国騎士団”総隊長の前に整列している騎士たちの内訳は、“明けの国”正規兵の
「これじゃあ“
「御冗談を」
「あぁ、やっぱ駄目かねぇ? 割と俺、本気で言ってんだけどなぁ、ははっ」
ニールヴェルトの冗談とも本気ともとれない言葉に、銀の騎士たちが笑う気配があった。その銀色の集団を囲うようにして整列する
「さぁてとぉ、それじゃあそろそろ、うちの殿下をお迎えに上がるとしますかねぇ……」
銀と
主君に、次代の王に、血塗られた力を求めた者に、奉ずる
***
「……ほぉ」
近づいてくる気配と足音に振り返った“王子アランゲイル”が、落ち着き払った声で、珍しいものを見るように声を
アランゲイルの視線の先では、夜の影に半ば溶け込むようにして、およそ30名の魔族軍の兵士たちが、武器を手にして戦闘の構えを取っていた。
「貴様等が、“宵の国”の正規兵たちか……」
多勢に無勢の状況の中、王子が動じぬ声音で魔族兵たちに語りかける。
「……“
統率役と見られる
「ふん、まぁそんなことは、
「……」
およそ30人の巨体を誇る魔族兵の殺意を一斉に向けられると、壁そのものが迫ってくるような威圧感をびりびりと感じた。その圧迫感は情け容赦のない戦場の空気そのもので、王城の中に籠もりがちであった時分の王子であれば、耐えかねて助けを呼び叫んでいても不思議ではない重圧だった。
「……。ふむ……」
しかし、それはあくまで“当時のアランゲイルであったなら”という仮定にすぎない。
「さすがに、それ相応の訓練と実践を積んだ兵の放つ闘気というものは違うな。“
“宵の国”の南の
「辞世の句はそれか? “人間”よ……」
じりじりと、しかし確実に近づいてくる魔族兵の巨体が、王子の視界を埋めていく。恐らく巨人の類いに属する
「……辞世の句だと? 笑わせる」
顔を上げて
「我が名はアランゲイル。騎士団を率いる
そして王子が口にした言葉は、命乞いでもなく、交換条件でもなく、威嚇でも、虚勢でもなく――。
「――我が軍門に下れ」
――有無を言わさぬ、“命令”だった。
「……」
「愚かな“人間”よ……死を
巨大な戦斧が振り下ろされ、ゴウと風が押しのけられる音がした。
……。
……。
……。
「……ぬっ?!」
しかし、戦斧の刃がアランゲイルに届くことはなかった。
“それ”は、液体とも粘土とも言えない無形の存在だった。自在に形を変える“それ”が無数の蛇の尾のように伸び、
「……ふん」
――ボキッ。
無形の物体に腕を封じられた魔族兵を見やりながら、王子が鼻で笑うと同時に、骨がへし折れる鈍い音がした。
「ぐあぁぁ……っ!」
絡みついた無形の物体の信じられない力によって両腕の骨を砕き折られた魔族兵の口から、
1度締め上がり出した“それ”は、
「聞いていなかったのか? 私は尋ねたのではない、“命じた”のだ」
動きを封じられた
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