19-14 : 憐れな無形
「貴様っ……これは…… 一体……っ」
「まだ
王子が、
「我が軍門に、下れ。“宵の国”の兵どもよ」
……。
……。
……。
――ズチャリ。
絡みついていた無形の物体が薄い皮膜の形に伸び広がって、腕の骨肉をすりつぶした魔族兵の全身をばくりと包み込んだ。
「モゴッ……! ムグゥッ!」
皮膜に飲み込まれた内側で、魔族兵がもがき叫ぶ気配がする。
「ゴブッ……ムゴッ、ゴボッ……!」
始めの内、魔族兵が暴れ回るのに合わせて皮膜が激しく縦横に伸び変形することが続いたが、それも長くは続かなかった。無形の物体に取り込まれた
「この私に、手間をかけさせるな。雑兵風情が……」
「理解したか?」
自分の背丈を
「これは決定事項である。貴様等に拒否権はない。魔族軍よ、我が
「私の言葉に、従え……」
……。
……。
……。
そして、服従の礼もなく、拒絶の言葉もなく、ぐっと踏み込まれ大地を蹴る音だけが、全てを物語った。
……。
……。
……。
切り込んだ魔族兵たちの目に映った人の王の子の顔に、ニィっと
ズチャリ。と、再び“それ”の
大半の魔族兵たちは、生暖かく弾力性のある固まった油のような感触に激しく殴打され、全身の勢いを相殺された上に後方へ吹き飛ばされた。
「むぅ……っ! “
数人の同胞が“それ”に
「ふん、こんな無様な畜生がそう何匹もいてたまるものか……」
魔族兵の
……メシリ。
……バキリ。
……ピシッ、バリン。
アランゲイルの背後、夜の闇の中で、木材が
「こんな醜いものは、たとえ1体でも我慢ならんというものだ……」
吐き捨てるようにそう言いながら闇の中へと振り返った王子の鼻先で、ボゴンっというくぐもった破裂音とともに砕けた木片とガラス片が飛んでいった。
――ズチャリ。
一際大きな
……。
……。
……。
「なん……だ……これは……」
“それ”の全貌を目の当たりにした
……。
……。
……。
ズチャリ。
それは、醜くブヨブヨに膨れあがった、直径5メートルほどの
骨格を持たない軟体質のみで構成されている“それ”は、自重を支える能力を持たず、肥大した自身の重みでベチャリと潰れ、割れた卵の中身のように半球状に伸びている。
“それ”は
総じてその外見を直視した第一印象は、“
――餌。そう、餌さえ与えられなければ、“それ”がこんな
その段になってようやく、魔族兵たちは思い当たる。醜悪な“それ”が粉砕した構造物が、建築物が、自警団の男たちの言っていた住民の避難先であったことに。
「
そう問いかける魔族兵の言葉に、アランゲイルが返答を口にする。が、魔族兵たちは、王子のその言葉を聞くより先に――。
「……
――その言葉を聞くより先に、アランゲイルのその
「分かっているな、“人間”……貴様に安楽な死は来ぬぞ……我らがそれを許さん……断じて……!」
「ふん……」
アランゲイルが、猛進してくる魔族兵たちの怒りの形相を鼻で笑った。
ズチャリ。
耳飾りの魔族の男の体内に潜伏し、紛れ込んだ集会施設の中で住民たちを喰らい尽くし、ブヨブヨに膨れあがった真紅の
「紫血を
……。
……。
……。
「……我が思念に、服従せよ……我が私怨に、
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