17-11 : “巨人の魔力”
「……っ!
500人の魔法使いたちが束ねた“巨人の魔力”が、人形に突き立った“魔法使いの短刀”に達した。膨大な魔力が、“
「……こ、れは……
大聖堂の
大聖堂の内部には依然として強い魔力の発光が満ちていて、ほとんど目を開けていられない状況だった。
そんな中、閉じた
「“風陣:
ロランの大盾の内側に風の塊が発生し、それを持つロランの身体もろとも、重い盾を
「……っ!」
宙を漂いこちらに向かってくるロランの姿を捉えて、ローマリアが顔を引き
ヒューヒューと息を漏らしながら、無防備に身体を横たえているローマリアに向かって、ロランが空中で身体を
「ここで死んでよ、西の四大主……お前が死ねば、あいつはシェルミア様を
大盾の内側で渦を巻く風が突風に変わり、突進の推進力となる。
「シェルミア様が……“シェルミア”が釈放されたら……! もう、姉様があんな悲しい顔を、しなくても済むんだ……!」
――だから、僕はお前を殺さなくちゃいけないんだ……アランゲイルの
突風を
しかしその破砕音の中には、肉の潰れる音も、骨が粉砕される音も、混ざってはいなかった。
「……うぐっ!」
ロランの足下で、ローマリアの
大聖堂内に
ロランが見ている先で、落ちていく魔女の姿が消失し、少し離れた位置の壁面に出現する。消失と出現の過程で、下方向への落下の勢いが横方向に入れ替わっているらしく、ローマリアのか細い身体が大聖堂の壁に
「ぐっ……!」
そして再びローマリアは落下していき、またわずかな距離だけ転位して、壁に身体を打ち付ける。どうやら魔女は、制御の効かなくなった転位魔法を虫の息で使用し、落下の勢いを殺しながら、脱出を試みたようだった。
そうして何度も何度も、ローマリアの身体が壁に
それと同時に、大聖堂全体が、波立つ水面に映る虚像のようにフラフラと揺れだした。荘厳なステンドグラスが
しかしそれは、ステンドグラス自体が、石柱自体が
大聖堂をそこに据える空間自体がグニャリと
荘厳な作りの大聖堂は見る影もなく消滅し、騎士たちの目の前に、途方もなく高く渦巻く巨大な
ローマリアの魔法によって、内部の空間そのものが置換されていた“星海の物見台”が、人間たちの前に初めて、本来の姿を見せたのだった。
ロランは先ほどまで、大聖堂の天上を支える
大聖堂の石床の上に落下したはずのローマリアの姿は、空間置換が解除された今は、ロランよりも数巻き分階下となる
隻眼の騎士たちの姿は、それよりも更に下方、
――ピクリ。
最下層部に立つ隻眼の騎士たちも、
それと同時に、それまで静寂に包まれていた周囲が騒然となった。“先陣部隊”が突入の道を開いたことを知り、進撃を開始した本隊が“星海の物見台”の正門に押し寄せた音だった。
「おぉ……! す、すばらしい……! これが、“星海の物見台”……この膨大な書庫に納められた、すべてが魔法書……! 魔族の
魔法使いたちの、歓喜に震える声も聞こえる。
ローマリアの頭上にロランが陣取り、階下からは隻眼の騎士たちが追撃をかけ、後方からは本隊が雪崩込む――それは、魔女にとどめをさす、千載一遇のチャンスだった。
――ピクリ。
再び、ローマリアの身体がわずかに動き、いうことを効かなくなった自身の肉体を引きずって、
そして――。
「……!」
ロランが踊り場を後にして、魔女に引導を渡すべく、
魔女を討ち取るまで、あと一手――弱りきっているローマリアに向かって素早く駆けていくロランの脳裏には、しかし奇妙な焦燥感があった。
震える手を右目の眼帯に伸ばしていくローマリアの姿に、なぜそれほどの焦りを覚えたのか、ロラン自身にもよく分からなかった。
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