17-9 : 怖い顔
「あらあら……ふふっ、思っていたよりもよい勝負になっていますわね」
先陣部隊と“
「人間をおちょくってばかりいると、痛い目見るぜ、魔女さんよぉ!」
大槍を持った“
ローマリアの姿は見あたらず、ただその声だけが、大聖堂内の巨大な空間に響き渡っている。
「あんた、相当性格ねじくれてんな! 自分は隠れて、おもちゃの兵隊で“戦争ごっこ”なんてなぁ、これが魔族の、四大主のすることかよ!」
ゆうに30人を超える部下の犠牲を払いながら、隻眼の騎士が叱責するように言った。白亜の石床の上には、“
荒くれ集団である隻眼の騎士たちにも、曲げては通せぬ信念があるようだった。真正面からの小細工無しのぶつかり合いをよしとする戦士たちにとって、ローマリアの立ち振る舞いは許せないものだった。
「あらあら、性格が
“
ローマリアは浅く腰掛けた
「手駒を動かすばっかりで、自分は高みの見物か……俺が1番嫌いなタイプだぜ、あんた!」
「ふふっ、人間とはいえ、出会ったばかりの殿方に嫌われてしまいましたわ……ふふっ」
「
自身の膝を抱き寄せて、身を縮こまらせた魔女の顔に朱が差しているのを目にした隻眼の騎士は、身体の芯からぞわりと
「ぐあぁぁっ!」
そうしている間にも、残り少なくなった“
その断末魔と血に染まった大聖堂を、
「
ローマリアの美しい顔立ちが、そこに浮かぶ嘲笑によってグシャグシャになったのを見て、隻眼の騎士は全身が熱くなるのを感じた。
それは、侵し
「……“風陣:
天井の
「……あら?」
背後を振り返った魔女の目の前には、中性的な顔立ちの、切り
“左座の盾ロラン”が手に持つ大盾の裏側では、人間1人を十数メートルの高さにまで吹き上げた強風が渦を巻いていた。
ロランの冷たい灰色の
「……ふふっ。
ローマリアが、頬に右手を当ててクスクスと笑った。
「……アはっ」
魔女の顔に一瞬、嘲笑を通り越え、狂気じみた愉悦の表情が浮かんだ。
「“風陣:
大盾に風を受けて、天井の
――ズバッ、ズバッ。
真空の斬撃が、大聖堂の
「
ローマリアの背後を取っていたロランの、更にその背後、天井を支える別の
「……。魔法使いたちの言っていた通りだね……今の一瞬で、転位魔法を使うなんて」
目を見開いているロランが、ズタズタになった
「ふふっ。お褒めいただき、光栄ですわ。風を
別の
「さあ……
「そんなことを
固い意志を宿したロランの目は、ただローマリアの姿だけを捉えている。地上から十数メートルに位置する足場の悪い
ロランが足を踏み出すと、
「ふふっ、単純な好奇心ですわ。
ギシリ、ギシリ。ロランの足下で
「僕が欲しいものは……皆と同じ……魔女の、四大主の、命だよ」
「ふふっ……いいえ、そうではありませんでしょう? わたくしの命を奪って、
……ギシリ。と、
「
ローマリアが抱き抱えていた膝を離し、演劇の舞台役者のような手振りと口振りで、
「
「……黙れ」
「わたくし、これまでにたくさんの……本当にたくさんの書物を読んで参りました。ですけれど、こんなに心揺さぶられる物語は知りませんわ……」
「……黙れ……」
「
ローマリアが、悩ましげな吐息を漏らして、自分の肩に両腕を回した。頬は紅潮し、
「
魔女が、身をくねらせながら、満面の嘲笑を浮かべた。
「もしも、
「……黙れ……殺すよ……?」
ロランの顔から、一切の表情が消えた。口は堅く真横に結ばれ、瞳から感情が欠落する。人間味を失って、ガラス玉のように透き通った目には、相手がどんなに苦しもうが、泣き
それは、エレンローズが“怖い顔”と呼んでいた、ロランに宿っている
「
「さあ、いらっしゃい……わたくしを、殺して御覧なさい……?」
「……」
魔女を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます