17-7 : せんそーごっこ
「わたくしの独奏、お気に召していただけましたでしょうか……ふふっ」
手で摘んだローブの裾をわずかに持ち上げ、深くお辞儀をした姿勢のまま、ローマリアがクスクスと笑い続けていた。
「申し遅れました……わたくし、名をローマリアと申します。“三つ瞳の魔女”の二つ名を頂く、“宵の国”の
大聖堂を背景に、優雅に振る舞うローマリアの姿には、侵し
「あれ、が……あれが、魔女、か……」
先陣部隊の集団の中から、誰からとは言わずそんな言葉が漏れ聞こえた。
戦士の声には、ローマリアの美しい
その
魔女が
「
ローマリアが、クスクスとからかうように笑いながら、右手を自分の頬に当てる。
「あなた方が
「……
緊張した表情を顔に貼り付かせて、隻眼の騎士が口を開いた。
「ふふっ……いいえ? わたくしは、ただお待ちしていただけですわ。あなた方が扉を開けるまで、わたくし、全く気がつきませんでしてよ? 隠匿の術式、お見事でした……明けの国の魔法使いも、存外優秀ですのね?」
待ち伏せられたと警戒していた隻眼の騎士から、ほんの一瞬だけ
「――ですけれど」
魔女が、頬に当てた右手の陰で口元をにんまりと
「ですけれど……
「……へっ、
隻眼の騎士が、
「ふふっ。さぁ……騎士と魔法使いの方々……あなたたちの望むものは、なあに?」
ローマリアが、目元までも嘲笑に
「“魔女の命”なんて言ったら、あんたは笑うんだろうな! 魔女様よ! でもな! 俺たちは本気だ!」
隻眼の騎士が、背後の戦士たちに向けて怒声を飛ばす。
「野郎ども! もう一生分
「「「「「おおぉぉぉぉォォォ!!!」」」」」
戦士たちが
隻眼の騎士が率いる部隊は、恐怖を捨て去るその術に
「あらあら、随分と野蛮ですのね。ふふっ、押し倒されてしまいそう……」
ローマリアが嘲笑を浮かべながら、わざとらしく
「続けえぇぇぇ!!」
隻眼の騎士を先頭に、豪傑たちが突撃をかける。
「
戦士たちによる“魔女狩り”が始まると同時に、魔女は声だけを残して、姿を消した。
しかしだからといって、その開かれた戦端が、収まることはない。
標的を消失した戦士たちの前に、新たな“敵”が、ちょこんと姿を
「何して遊ぶ? 何して遊ぶー?」
「せんそーごっこ、せんそーごっこー」
「ボクが隊長、やるやるー」
「ボクが槍兵、なるなるー」
「ボクが剣士、するするー」
数十体の小さな人形たちが、“魔女の演奏会”の客席の陰から頭を出して、斬り込んでくる戦士の集団を「むむむ」と見やった。
「たいちょー! 敵はっけん、敵はっけんー」
「よーし、とつげき、とつげきー」
「ぜんたーい、すすめー」
「「「わー」」」
パーラパーラパッパラッパ、パッパラッパ、パッパパー。
“隊長役”の人形が、小さなおもちゃのラッパを取り出して、楽しげにそれを吹き鳴らした。
「そんなモンにイチイチ構うな! 蹴散らせ!」
「チビ人形?! あの魔女、舐めるんじゃねぇぞ!」
隻眼の騎士の部下数人が最前列に展開して、きゃっきゃと子供のような笑い声を上げながらトコトコと走り寄ってくる人形たちに向かって、大剣を振った。
「あぶない、あぶなーい」
「よけろよけろー」
「せーの、ジャーンプ」
「「「わー」」」
おもちゃの槍を持った人形たちが短い足でピョンと跳んで、大剣の横薙ぎをかわした瞬間――戦士たちの眼前で、大槍の鋭利な先端が鈍い光を放った。
「……は?」
――ドシャリ。
そして次の瞬間には、顔面を貫かれた数人の戦士が白亜の石床に
その
「なっ……?!」
そのすぐ横にいた戦士が、何が起きたの分からず、顔を凍り付かせる。
灰色の服とつば広帽子と手袋と靴――3頭身ほどの愛くるしい姿の状態では判然としなかったが、それは
――ズシャッ。
“
「やっつけた、やっつけたー」
「わーいわーい」
「まだまだいるよ、たくさんいるよー」
「みんなみーんな、やっつけろー」
「ぜんたーい、とつげきー」
「「「わー」」」
パーラパーラパッパラッパ、パッパラッパ、パッパパー。
再び“隊長役”の人形がおもちゃのラッパを吹き鳴らして、人形たちが前進を再開する。
「くっ……! 各騎、最寄りの人形を包囲しろ! 陣形を作らせるな、各個撃破していけ!」
隻眼の騎士が戦士たちに指示を飛ばし、戦場と化した大聖堂内は、巨漢の騎士たちが数人がかりで1体の小さな人形を取り囲むという奇妙な様相を呈していた。
「かこまれた、かこまれたー」
「もっと遊んで、もっと遊んでー」
「えい、やー、とー」
1体ずつに分断された人形たちが、きゃっきゃと同時にはしゃぎ声を上げた。小さな人形に対してどう攻め込むか考えあぐねている隻眼の騎士に向かって、おもちゃの剣を握った人形が飛び込んでいく。
――ギュオンっ。
人形がおもちゃの剣を振り下ろす動作中、その一瞬の間だけ、小さな人形が、等身大の“
「……っ!」
激しい
そして、きゃっきゃというはしゃぎ声とともに、“
「こいつら……! 膨らんだり縮んだり……歩幅も間合いもめちゃくちゃだ……! 下手な兵士相手よりよっぽど厄介だぞ……!」
隻眼の騎士の頬に、不快な冷や汗が流れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます