16-13 : 南の不条理
……ボルキノフの蔵書のひとつである、かつて“
§【――……(欠落)……――】
§【――……あぁ、何と言うことだ……“森の民”とは……“カースの揺り籠”とは……あの寄生虫……“カースの
「……供物、ヲ、
カース――“カースと呼ばれた女”――“カースの揺り籠”が、“それ”を
§【――この“
“支天の大樹の
§【――“
「つ……カえ……ヌシ、さま……」
カースの声は、ほとんど
§【――“先導するもの”……? “覆い隠すもの”……? “嵐を産むもの”……? いや、どれも違う……“あれ”の名前は、“彼ら”がとっくに、教えてくれていた……――】
寄生虫“カースの
§【――“あれ”の名前は……“
「……――カース ”……」
§【――……(欠落)……――】
――バクンっ。
“支天の大樹の
「……は、はは……」
その様子を見ていたニールヴェルトが、気の抜けた笑い声を漏らしながら、ジリジリと後ずさりを始める。
「……クロロロロォ……」
巨大な
「……はは、ははは……何だぁ、こりゃあよぉ……悪い冗談だぜぇ……」
ニールヴェルトが、ゴクリと固唾を飲んだ。
「クロロロロロォ」
巨大な
「……はは……やぁっぱり、“森”に入っておいて、正解だったなぁ……」
翼が、途方もなく巨大な翼が広がり、“支天の大樹”の枝葉から漏れ差すわずかな陽光までも完全に遮って、辺りを闇で包み込む。
「……“遺骸”なんてよぉ……誘い出すだけだぁ……それ以上は、どうしようもねぇ……どうしようもねぇよぉ……こんなのを誘い出して、どうしろってんだぁ……」
……バサリっ……バサリっ……。
巨大過ぎる翼の羽ばたきで、周囲に突風が吹き荒れた。
「――クロロロロロロォォォッッッ!」
「……っ!」
耳をつんざく鳴き声と、全てを吹き飛ばす嵐を巻き起こして、“仕え主”――“真の
「うっ……おぉ……!?」
大嵐の前に、“
そして、逆巻く風で吹き飛んできた拳大の岩が眼前に迫ってきた記憶を最後に、ニールヴェルトの意識は消し飛んだ。
***
「クロロロロロォ」
“誘導作戦”の劇的成功に沸き立っていた部隊が、しんと静まった。
見張り台の上に立つ監視兵が、誰よりも先に、大規模魔方陣から
初めの内は、それが翼だとは分からなかった。突然、“
それは、余りにも、余りにも巨大過ぎた。それが生物の一部だなどと、信じられるはずもなかった。目に映る光景に理解が追いつかず、何が起きているのかと思考することもできなかった。
次に監視兵が感じたのは、奇妙な浮遊感だった。目の奥が重たくなり、視界がぐるぐると回って、
その感覚が、“畏怖”だと理解したころには、朝を迎えた“森”の外周部に、夜の
「クロロロロォ」
天から、“
途方もなく巨大な翼が、昇りゆく太陽を覆い隠し、周囲を夜に逆戻りさせていた。
「……隊……長……」
目を見開いている工作兵長が、青白い顔で上級騎士を呼んだ。
「……諦めるな……」
指揮所の中で、上級騎士がぽつりと
「……あきら……めるな……」
上級騎士は、机の上で祈るように手を重ね、肩を落として目を閉じながら、
その手は、ぶるぶると小刻みに震えていた。
――。
「……あ、あ……“森”が……」
見張り台の上でがっくりと膝を落とした監視兵が、
木々が
「……大規模魔方陣……再起動、用意……」
上級騎士が、目を
「……了、解……」
工作兵長が、深く息を吸い込みながら復唱した。
その場にいる誰もが、人間の作り出した物で“
だが、その場にいる誰もが、手を動かさざるを得なかった。たとえ無意味であったとしても、何か僅かでも意味を見い出せる行為をしていなくては、その“絶望”の声を聞いてなどいられなかった。
「――クロロロロロォ……」
“
ゴオォォォー。
……ゴオオオオオオォォォォォォォッ。
それは、人間にはどうしようもできない、“天災”の音だった。
指揮所の中で、上級騎士が、指を重ね組んだ手を額に当て、何もかもを諦めた声で、ひっそりと
「……ああ……すまない……すまない、みんな……。何もかも……全くの、無駄骨だったな……」
……。
……。
……。
――ドッ。
“
“爆風”とでも言うべき風圧が、見張り台も、指揮所も、大規模魔方陣も、人の作り出した物を
空高く吹き上げられたそれらが、広い大地に点々と落下していき、バラバラに砕け、破裂した。
そして、移動を続ける“森”が、大地もろとも、その全てを
……。
……。
……。
「クロロロロロォ」
“
……。
……。
……。
欠落した“手記”の、消失した最後のページには、こう書かれていた。
§【――……人間の知恵など……人間の道具など……ここでは、一切通用しない……。ここは“
……。
……。
……。
――怪鳥“真の
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