16-7 : 怖気立つ景色
ごうごうと炎が燃え盛る“支天の大樹”の枝の間で、“森の民”たちが上げる無数の威嚇するような声が聞こえる。それは、火に
「所詮は人間でも魔族でも、魔物でもないただの獣だなぁ! 獣は火が怖いってぇ、相場が決まってるよなぁ! はははぁっ!」
ニールヴェルトが高笑いして、カースを挑発するように言った。
「ニールヴェルト! 奴らを不要に
銀の騎士たちが“溶鉄
「……あぁ? 殿下ぁ。殿下の方こそ、いらないこと言わないで下さいよぉ……死人みたいに黙ってろっつっただろうが……萎えるんだよ、お前の
顔を不機嫌に引き
「っ……!」
ニールヴェルトに
……そのことが、火矢を放って以来カースの姿を捕らえ続けていたニールヴェルトの視線が
アランゲイルを黙り込ませ、ニールヴェルトはすぐさま樹上に視線を戻した。が、燃え盛る炎で照らし出された枝葉の間には、カースの姿も“森の民”たちの影もなかった。
「……人間……私は四大主“
ニールヴェルトの直上、まだ火の燃え移っていない“支天の大樹”の枝陰から、カースの冷淡な声が聞こえた。
フィィィー、と、カースが夜明け前の闇の中で口笛を吹いた。
そして、闇に溶け込んだ枝葉の上で、“森の民”たちが一斉に身体を上下に揺らし始める。
ボトリ、ボトリ。“森の民”たちが激しく揺らす樹上から、何かが降ってくる。
ボトリ、ボトリ……ブクブク……。
それは、肉と骨を溶かす、腐食性ヘドロだった。
“支天の大樹”の枝先に密集する、数え切れない“
「ぎやあぁぁぁ!」
「あ、脚が……脚が溶けるぅ……!」
「ニールヴェルト隊長ぉ……! アランゲイル様ぁ……!」
野営陣地の至る所から、腐食性ヘドロに触れてしまった銀の騎士たちの悲鳴が上がった。
腐食性ヘドロの雨を浴びながら、地面に倒れ助けを求めて手を伸ばす騎士は、
腐食性ヘドロの雨が降り注ぐ、野営陣地の中央部に構えていた騎士たちは、ほぼ壊滅状態であった。辛うじて被害を免れたのは、野営陣地外周部にいた少数の騎士たちだけだった。
……そんな中、腐食性ヘドロが降り続ける野営陣地の真っ
「ひははっ、くそったれがぁ……えげつないことしやがるぜぇ……」
動物的な直感で、腐食性ヘドロが落下してくる直前に危機を感じ取ったニールヴェルトは、一瞬の
ニールヴェルトの身代わりとなって腐食性ヘドロを浴びた“溶鉄
“溶鉄
腐食性ヘドロを浴びて溶けていく“溶鉄
「くくく……ははは……あーははははぁ! やべぇ、やべぇ、やべぇ! だーいピンチだぜぇ! ひは、ひははは! “これ”だよ、“これ”ぇ!」
まさに今この瞬間、“溶鉄
生命の危機に立たされて、溶けて小さくなった“溶鉄
「“死”がすぐそこにあるのが分かるぜえぇぇ! でもなぁ、俺は生きてるぅ! まだ生きてるぜえぇぇ! ここで俺は死ぬのかなぁ!? それとも生き残るのかなぁ!? 堪んねぇなぁ! この感じがよおぉぉ! あーははははぁぁぁ!」
“溶鉄
――ガシャガシャガシャガシャ。
ニールヴェルトが肉の盾を失うのと同時に、十数人の
その光景は、
ニールヴェルトとアランゲイルを
***
「何だ、貴様らは……」
“
ニールヴェルトとアランゲイルに折り重なった者たちとは行動を別にして、数十人の
腐食性ヘドロを浴びながら、
全身から、ブクブクという溶解音が聞こえていたが、
両手の平が溶け落ちようと……腕が肩から崩れ落ちようと……腐食が骨にまで到達して、体重を支えきれなくなった脚がボロリと千切れようと……
「気でも振れたか……?
カースが樹上から見下ろす先で、
肉も鉄も溶けて、形の崩れていく“
ズチャリ……ズチャリ……。
――それでも、前に進むことを、止めなかった。
溶けた紅色の
ドサリ……ドサリ……。
“紅色の
そして次の瞬間、その炎の中から、火の塊となった人のような形をした何かが、四つん
その“何か”たちは、火だるまの身体で“支天の大樹”に素早くよじ登り、カースたちめがけて
「貴様らは、何だ……“本当に、人間か?”」
全身を炎に包んだ“何か”たちが、一目散に足下に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます