16-2 : 樹木の覇者
――ベチャリ。
アランゲイルの頭上に差し出された腕が、間一髪のところでヘドロを受け止めた。
アランゲイルの頬に、冷たい汗が一筋流れる。
「……。……おぉっとぉ、良かったですねぇ、殿下ぁ。ギリギリセーフですよぉ……」
その様子を何もせずにじっと見ていたニールヴェルトが、口角をニヤリと
「勇敢な騎士たちにぃ、感謝ですねぇ」
鮮やかな
「……ふん……。そうだ、“特務騎馬隊”、お前たちはそうして、私を守っていればいい」
アランゲイルが澄ました顔で、ヘドロを受け止めた
「……」
ヘドロの直撃を受けた
「……っ」
……ガシャリ。それは、ヘドロを受け止めた
その見るに堪えない重傷を負った
「だ、大丈夫か……!? うっ……こ、これは
サッ、と、
「……何だ? 何が言いたい?」
「……明けの国騎士団の手助けは不要だとでも言いたいのか……あのどこから来たとも知れぬ“独立部隊”は……」
アランゲイルとニールヴェルト、今や“明けの国騎士団”の総指令官と総隊長となった2人を指揮官に置いて編成された、南方攻略部隊。そこに漂う不調和の空気に不気味なものを感じて、銀の騎士はギリっと歯を噛みしめた。
***
“
“踏査部隊”の内訳は、“明けの国騎士団”に所属する銀の騎士たちが400人。“特務騎馬隊”に籍を置く
「目標地点はぁ、“道具を持った獣”どもの集落ですぅ。そこまで到達すればぁ、“外”の連中との連携作戦が始まりますんでぇ」
“
皮袋に、飲み水は十分にある。しかしだからといって、未知なるものへの恐怖からくる渇きが
周囲の空気は多量の湿気を含み、
森の地形は、“
地面を形成する粘土質の土は多量の水分を
「よぉし……“目印”、見つけたぜぇ」
“踏査部隊”の前方には、
ニールヴェルトが指さす先には、年輪に似た
「……ニールヴェルト……まさか、この沼を渡って、あの崖を登るとでも言う気か?」
何度も粘土質の地面に足を取られかけ、余計な体力を消耗したアランゲイルが、小さく肩を上下させながら、うんざりしたように言った。
「半分正解でぇ、半分不正解ですねぇ、殿下ぁ」
そう言いながら、先頭に立つニールヴェルトが後ろを振り返った。
ニールヴェルトが、指を1本立てる。
「まずは1つ、正解からぁ……
そしてニールヴェルトが、2本目の指を立てる。
「そして、不正解な点が2つぅ……
ニールヴェルトが、親指で背後の断層のようなものをくいっと指さした。
「“あれ”はぁ……この“
§【――“
アランゲイルが、途方に暮れた表情で、ニールヴェルトが樹木だと言った“崖”のようなものを上下左右に見やった。
「馬鹿な……これが……木だと……? 信じられん……」
§【――“支天の大樹”は、まさに途方もない大きさに育った樹木である。樹齢は全くの不明。樹種は、恐らく“
§【――“支天の大樹”に近づくほどに、“森”の中は昼間でも夜と見間違えるほどに暗くなる。信じられないことだが、測量によると、“森”に広がる巨木たちの天蓋の内、その2割が“支天の大樹”ただ1本から延びた無数の枝葉からなっていると計算された……。また我々は、“支天の大樹”の幹周りの長さの測定も試みたが、幹周りに歩き続けること3日目にして、それは断念された……――】
「ずっと大昔にぃ、この“
ニールヴェルトが、何やら古く分厚い書物を
§【――“支天の大樹”の幹周りに歩き続けること3日目、我々は、“大樹”の根本を1周する間近で、“彼ら”と遭遇した……――】
「“手記”を残した研究者の連中はぁ、どうやらあの“支天の大樹”を左回りに歩いて3日目にぃ、“道具を持った獣”どもの集落を見つけたようですぅ。なら俺たちはぁ、あの木を右回りに歩いていけば良いってことだなぁ」
ニールヴェルトが、“手記”をパタンと閉じながら言った。
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