南方戦役
16-1 : “暴蝕の森”
“東方戦役”と日を同じくして、“宵の国”、南方――。
時刻は、昼と夕暮れの
宵の国の南方に広がる、広大な“
ふと、その鳥の目に、“森”の
その虫たちの塊を
大形の鳥にふさわしい、鋭い爪の生えた脚を前に出し、虫たちを
鳥の翼の先端が、
途端に鳥は揚力を失って、枝の先に片方の翼を絡ませたまま宙
しかし1度付着した粘菌は、鳥がどれだけもがこうとも決して振り払えず、むしろ暴れるほどに鳥の全身に付着していった。そして一定量の粘菌が全身の羽に付着した瞬間、それまで全く動く気配のなかった粘菌が一斉にさっと
翼はおろか、脚も
――。
……“
――。
§【――その特徴的な補食を行う粘菌に、我々は“
溶解液で溶けていく鳥の羽が、プクプクと粘菌の膜の内側で泡を立て続けている。
§【――“
木々の間から差し込む陽光で、鳥にまとわりつく粘菌の膜が透けて見える。その内部に閉じこめられた鳥の影は、羽を
§【――しかし、“
陽光で透ける粘膜の内側で、捕らわれた鳥の影が少しずつ原形を崩し始める。肉が溶け落ち、骨の影が見えるようになり、やがてその骨も形を
そしてグズグズのヘドロ状になった骨と肉の混合物が、粘菌の膜からすり抜けて、
「ぎゃあぁぁぁ……!」
ヘドロの落下した位置から、人間兵の上げる悲痛な叫びが聞こえた。
§【――そのヘドロ状の獲物の
「あ、熱い……! 痛い……! は、早くこれをどかしてくレぁバ……?」
頭の上からヘドロを被り、兜の隙間から流れ込んだその腐食性の粘液に触れてしまった騎士は、パニックを起こして助けを求めた。周囲が事態を把握できない内に、騎士の容態は見る見る悪化していき、最後には
周囲の騎士たちが
§【――ああ、しかし“
「おぉい、後続ぅ、そこから早く離れた方がいいぞぉ?」
前方を行く総隊長、“
騎士たちがニールヴェルトの忠告に従うより先に、上空に高く伸びた枝の一角から、大きな虫の塊がぼとりと落下してきた。黄色や緑のけばけばしい体色をした、巨大な尺取り虫のような姿をした虫だったが、それはヘドロを被って絶命した騎士の死体の上に落下した瞬間、身体の一部が粉々に飛び散って、全身の形状も一瞬平たく変形したように見えた。
目を凝らしてよく見てみると、それは1匹の巨大な尺取り虫ではなく、それぞれが黄色や緑の微妙に異なる体色を持った無数の
§【――その
「その
「……ニールヴェルト」
隊列の最前列を行くニールヴェルトの後ろから、総隊長の名を呼ぶ声がした。
「本当に、この道で合っているのだろうな……?」
ニールヴェルトのすぐ後ろを歩く、“王子アランゲイル”が、
「問題ないですよぉ、殿下ぁ。言ったでしょぉ? ほら、俺、ここには何度か調査に来てますからぁ」
ニールヴェルトが振り返りもせず、後ろを歩くアランゲイルに手をヒラヒラと振って見せた。
「ただ、まぁ、道は間違いないですけどぉ、頭の上には御注意下さぁい。さっきの鈍くさい野郎みたいな目に遭いますよぉ? ヘドロが降ってきたらぁ、ちゃぁんとよけて下さいねぇ?」
ニールヴェルトが、ヘラヘラとした口調で言った。
「……よけるだと? この私がか?」
アランゲイルが、相変わらずの不快げな声で言う。
「そのような不格好な
ふと、頭上に気配を感じた。ニールヴェルトが顔を上げ、それにつられてアランゲイルも顔を上げると、王子の頭上に、“
「……!」
先ほどの、腐食性ヘドロの犠牲となった騎士の悲鳴を思い出し、アランゲイルの身体が、無意識のうちにピクリと
その過程で、アランゲイルはニールヴェルトと目が合ったが、総隊長は王子の緊張した表情をじっと見て、面白がるように目をにんまりと細めているばかりで、助けようとする仕草も、
「貴様……!」
――ベチャリ。
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