14-1 : 望むものと、望まぬもの
――“明けの国”、“騎士
数日前に起こった、南部襲撃事件の犠牲となった騎士たちを弔う国葬の最終日。
死者の
石扉の左右に立つ、
それを合図に、国葬の参列者たち(国王、宰相ボルキノフ、司祭、騎士団長)が
――。
「……
国葬の全行程を終え、“騎士
「失ったものは、計り知れぬ……」
国王の落ち込み様から、“失ったもの”の中に、シェルミアへの信頼が含まれていることは明白だった。
騎士団長は、国王のその弱々しい声音が気に入らなかった。
「陛下、お気を確かにお持ち下さい」
騎士団長が、国王に寄り添いながら語りかける。
「逆賊は、シェルミアは、騎士団から追放されたのです。もはや我らに害をなす
「……そう願っておる……」
「国王陛下、御安心下さい。私も微力ながら、新たな騎士団長の助力となりますゆえ」
宰相ボルキノフが、騎士団長に並び立って言った。
「ボルキノフ……よろしく頼む。騎士団長の……“アランゲイル”の、良き助言役となってくれることを、期待しておるぞ」
国王が、騎士団長の権限を委譲された兄王子アランゲイルを見やりながら言った。
「言わずもがな。アランゲイル殿下は優れた指導者にございます。支援は惜しまぬ所存にございます。頼もしい騎士たちも、殿下の下で勇猛果敢に己の責務を全うするでしょう」
そう言いながら背後を振り返ったボルキノフの視線の先には、“騎士
「そう、だな……それでこそ、明けの国騎士団である……。少し疲れた……。アランゲイル、この場は任せるぞ……新たな騎士団長よ……」
それだけ言うと、国王は司祭に同伴されながら、ふらふらとおぼつかない足取りで“騎士
この場に残っているのは、新騎士団長アランゲイル、宰相ボルキノフ、2名の祭礼騎士の4人だけとなる。
「……国葬の儀、お疲れにございました、騎士団長」
ボルキノフが、肩を並べて横に立つアランゲイルに向かって、労を
「ああ」
アランゲイルは、ボルキノフの言葉に対して関心を示さず、聞き流すように
「……今の御気分はいかがにございますか? アランゲイル様」
オールバックにしている髪を両手で寝かしつけ直しながら、ボルキノフが尋ねた。
その問いに、しばらくの間アランゲイルは無言で返していたが、やがて静まり返った“騎士
「……ふっ……ふふ……ははは……これは、なかなか、いい気分だ……“騎士
アランゲイルが、笑い顔を隠すように片手で顔を覆って、肩を震わせて感嘆の声を漏らした。
「私がずっと、畏怖と尊敬の目で見上げてきた我が父……
呪縛から解き放たれたように、アランゲイルの顔は晴れ晴れとしていた。ただ、余りに長きにわたって嫉妬と憎悪という感情を抱えてきたアランゲイルの顔の下には、
その影は、この程度のことでは消し去ることなどできない。
「明けの国の騎士が命を落とすたび、ここに“水晶花”を手向けるのは、
「そうだな……そうだ、“私の役割”だ。才に
そう言うアランゲイルの目には、幾年月にも渡って
「多くの騎士が死にます」
ボルキノフが、どこか面白がるような調子で言った。
「そういうことだ。“水晶花”とは、そういう意味だ。それこそ騎士の本懐であろうよ。戦場で武を示すことこそ、騎士の誉れ……己の
“もう誰にも邪魔はさせん”と、アランゲイルの目が語っていた。
「
ボルキノフのその言葉を聞いて、アランゲイルが執念に燃える目で宰相を
「ボルキノフ……“第1王子”はよせ……“第1位”だの“第2位”だの、もはやそんな呼び方は不要。“逆賊”シェルミアは、
それを聞いて、ボルキノフがわずかに口元を好奇の感情で
「なるほど、確かにその通りにございます。アランゲイル“王子”殿下」
「……」
アランゲイルとボルキノフの会話を遠巻きに聞きながら、祭礼騎士の
***
――祭礼終了後。明けの国騎士団兵舎。
「はーぁ、殿下も閣下も、陰謀ごっこが好きだよなぁ、ほんっとに」
祭礼騎士の兜を小脇に抱えて、兵舎内の通路を歩きながら、ニールヴェルトがこぼした。
「お前もそう思うだろぉ? なぁ?」
ニールヴェルトが、連れだって歩いている祭礼騎士に顔を向けて、同意を求めるように言った。
「……」
ニールヴェルトの連れは、祭礼用の
「おーい、聞いてんのかぁ?」
ニールヴェルトが足を止めた。物言わぬ祭礼騎士は、数歩余分に前を歩いた後、ニールヴェルトを振り返る。
「……」
振り返っただけで、やはりニールヴェルトの連れは、何も口にしない。
「何っだよ。聞こえてんなら『聞こえてる』ぐらい言えっつぅんだよぉ」
ニールヴェルトが鬱陶しそうに、連れの頭を兜越しにコンコンとノックするように小突いた。
「祭礼騎士っだの、“総隊長”っだの……面倒事は俺の仕事じゃねぇって言ってんだろうがぁ。あ?」
「……」
目の前にまでニールヴェルトが突っかかってきたが、祭礼騎士は
「……チッ……。お前といると、ほぉんと調子狂うわ……とっとと宿舎に戻れぇ、うすのろ」
「……」
ニールヴェルトに
「
ニールヴェルトが何度か舌打ちを漏らしながら、憎らしげに、羨ましげに
「……ま、指揮官は俺だぁ。戦場じゃ、腰抜かして悲鳴上げるゴミより、よっぽど信頼できるぜぇ。……よろしくなぁ……」
無言の祭礼騎士の後ろ姿を見送りながら、首を斜めに曲げたニールヴェルトが、口元と目元をニンマリと
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