3-2 : “蝕みのカース” と “渇きの教皇リンゲルト”
「? この城の使いの者だと思っていたのだが?」
ゴーダはその男の存在を大回廊にやってきた時点で気づいていたが、城の
ローマリアが“あらあら”と口に手を当てて、声を潜めて笑った。そして身体が触れるほどにゴーダに近づいてきて、顔を寄せ、小さな声で耳打ちした。
「……カースですわ」
ローマリアの吐息混じりの
「……何? また
ゴーダは鳥肌が立つのを感じたが、ローマリアにそのまま話を続けさせる。
「そのようですの。自由なものですわ……あれの考えていることなんて、わたくしたちには分かりませんものね。あんなものに南の
「何か仰られたか? ”三つ
柱の根本に立つ男が、ローマリアの言葉を
「いいえ、お気になさらないで下さいまし」
ゴーダの肩に身を預けたまま、ローマリアがクスクスと嘲笑を込めた声で返す。
「
その言葉を聞いて、男が数歩前に出る。
「それは侮辱と捉えてよろしいか?」
男は複雑な
「話すことはない、と言いましたわよ? それにしても、“侮辱”だなんて、随分と難しい言葉を御存じなのね。虫けらの分際で」
ローマリアが、そのか細い身体を寄せているゴーダの肩越しに、更に言葉を重ねた。
「ローマリア、悪ふざけが過ぎるぞ」
ゴーダがローマリアの両肩を
「この場での面倒事は看過できん」
いきなりゴーダに両肩を
「いやですわ。陛下の
ローマリアがしなやかな指をゴーダの腕にかけ、肩から手を放させる。
「……聞いていたな? ここは”
男の方を振り返りながら、ゴーダが有無を言わさぬ声音で言った。その右手は刀の柄に添えられている。
「……そこの魔女がいらぬことを言い出す前に止めていただきたいものですな。まあいいでしょう……陛下にお見苦しいところを見せずに済みました」
男の方もショートソードの柄に手をかけていたが、ゴーダの忠告を素直に聞き入れると、先ほどまでいた柱の根本に、先ほどと同じ姿勢で居直った。
***
「ぎゃんぎゃんと騒がしいぞ、若造どもが」
ゴーダ、ローマリア、カースと呼ばれた男の背後にある、大回廊の入り口の巨大な扉がわずかに開き、その隙間から声が聞こえてきた。
扉が更に数メートルほどの隙間を作るまでに開くと、そこには赤い
金糸の
帽子の下に
「老骨に
「遅かったな、リンゲルト。ふだんなら我らより先にとっくに着いているだろうに」
ゴーダが大扉を支えてやり、大回廊の中へ入るよう、リンゲルトと呼んだ
「ふん、馬が立ち往生しおったのよ。貴様等のように、転位するだの飛んでくるだの、
リンゲルトが、大扉の外を振り返る。そこには2頭の馬に引かれた馬車があった。馬は2頭とも皮膚の乾ききったミイラで、
「いつものことながら、その馬車での長旅は感心いたしますわ。御老体」
ローマリアが口元に指を添えてクスクスと笑った。
「小娘が……ぴぃちくぱぁちくと。年寄り扱いするでないわい」
リンゲルトが貧乏揺すりをするように、
短気を起こして機嫌を損ねかけているリンゲルトだったが、大回廊の柱の根本に立っているカースと呼ばれた男に目を
「……んん? はて? 貴様は……見ん顔じゃな?」
「……“
カースと呼ばれた男が、やれやれと
「……おお! そうじゃそうじゃ。その民族衣装、カースか! ふむ、また変わっておったから分からんかったぞい」
リンゲルトがカラカラと白骨化した
「この服飾を見れば、たとえ変わっていようと分かるものだと思われるが。まあ、いいでしょう……」
カースと呼ばれた男が再び大きな
「……ふふっ。あら、失礼」
ローマリアが、カースと呼ばれた男を見ながら嘲笑を漏らしたが、それを
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