3-1 : “三つ瞳の魔女ローマリア”
――“イヅの大平原戦”より3日後。深夜。“イヅの城塞”夜勤体制中。
いや、1か所だけ、
「では、留守を頼んだぞ、ベルクト」
全身に漆黒の
「承知いたしました。ゴーダ様御不在中の城塞の運用、お任せください」
ベルクトが直立した姿勢のまま応える。
「まあ、そう気を張るな。
「他方の“四大主”の方々も
「関係なかろう。お互いそれほど、話し込むほどの話題もない。それに皆、自分の
話しながら、ゴーダは壁際に立てかけていた刀に手を伸ばす。先日の戦闘で折れた刀の代用品である。
刀を腰に帯刀すると、ゴーダは執務室の出口へ向かって歩き出す。ベルクトはゴーダの後ろを無言で見送っている。
扉から3歩ほど離れた位置で、ゴーダが立ち止まった。扉は閉じられたままである。
「ベルクト。すまないが、扉の修繕を手配しておいてくれ」
そう言うとゴーダは、おもむろに刀の柄に手をかけ、閉じられたままの扉に向かって抜刀の姿勢をとった。
「はい、問題ありません。既に手配済みです」
ベルクトが淡々とした口調で応える。
「よろしい」
ベルクトの手際の良さに、ゴーダは兜の内で口元を緩めた。
窓から
「――“魔剣三式:
ゴーダが目にも止まらぬ速さで抜刀し、執務室の扉を斬った。木材が切断されるくぐもった音がして、扉が真っ二つに割れる。
扉の先には、城塞のそれとは明らかに異なる建築様式の、荘厳な作りの大回廊が広がっていた。
「行ってらっしゃいませ。ゴーダ様」
ベルクトが告げる。
「ああ、行ってくる」
ゴーダが壊れた扉を
「“
執務室に1人残ったベルクトが、小さく独り言を
***
――宵の国の中心地“
ゴーダの
まっすぐに
「あら。あらあらあら。ゴーダではありませんの。御機嫌いかが?」
“魔剣”によって扉ごと斬り開いた次元の
「……わざとらしい挨拶はやめろ、ローマリア」
ゴーダが刀を
「貴様のことだ。私がこの位置に“出てくる”と分かっていて、待ち伏せでもしていたのだろう?」
「あら、嫌ですわ。待ち伏せだなんて。それではまるで、わたくしがずっとここで、
ゴーダの背後から声が返ってくる。
「事実そうではないか」
「いえいえ、待ってなどおりませんもの。ええ、それはもう」
ゴーダの背後から、大回廊の大理石の床を歩く、こつこつという足音が聞こえてくる。その足音はまっすぐゴーダの背後に近づいてきて、それからゴーダの右側面に回り込んできた。
その間も、ゴーダはまっすぐ前を向いたまま、首を動かそうともしなかった。
やがて、ゴーダの横を素通りした足音の主が、視界の中に現れる。
「
ゴーダがローマリアと呼んだ
ローマリアは真っ白な絹のローブを
美しい容姿をしている分、その眼帯の
「勝手に競われても困るのだがな」
ローマリアが目の前にまで歩き寄ってきたところで、ようやくその女の方へ目を向けて、ゴーダが苦言を漏らした。
「あら、まあ、嫌ですわ。そのように
ローマリアが、わざとらしく“まあ”と口に手をやり、クスクスと笑った。
「
ローマリアのその言葉を聞いて、ゴーダが鼻で笑った。
「貴様はもう“師匠”でも何でもない。ただの
「
ローマリアが右目の眼帯に手をやり、わざとらしく悲しげな素振りを見せた。
「それに、
「……。時間の無駄だ。貴様と2人で世間話をするために、ここまで来たわけではない」
「まあ、ゴーダ、
ローマリアが、数メートル先の、巨大な柱の根本を指さす。そこには確かに、若い魔族の男が立っていた。
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