12
彼があまりに大きな声を出したので、僕は思わずのけぞった。その真剣な表情を見て、僕はもうそれ以上、何も言えず、この後どうしたらよいか考えた。
こうなったらレイクパウエルまで彼を連れて行くしかないか。しかし、ここからどれだけ歩けば着くのだろう。そもそも、月が昇っているうちに辿り着くことができるだろうか?
だが、そんなことを心配している場合ではなかった。僕には選択肢が残されていないように思えた。
「行こう」
僕がそう言うと、ジョッシュは驚いたように顔を上げ、「えっ?」と小声でつぶやいた。彼自身、この足では歩けないことがわかっているのだろう。
「さあ、立って」
僕は彼の肘をつかんで引き上げた。
最初は彼を背負って行こうと思ったが、早々に諦めた。彼が予想以上に重たかったのと、自分が担いでいたリュックを手に持たねばならず、とても体力が続かないと思ったからだ。彼が怪我をしたのは右足だったので、僕が彼の右側に立ち、肩を貸す格好で並んで歩いた。
彼の話を100%信じたわけではなかった。でも、少なくとも夜になるまでは彼と一緒にいようと思った。ここまで来て、彼を置いて戻ることはできないし、それに何より、彼の話が本当かどうか確かめてみたかった。
スチュのことが頭に浮かんだ。彼を待たせた時間は、もはや30分どころではなかった。この分だと日付が変わってしまうだろう。長く待たせてしまうことは後で謝るしかないが、遭難したと思われて警察にでも通報されたりしたら後がやっかいだ。もしジョッシュの言うことが本当だったとしても、それを警察に説明したくはなかった。きっと頭がおかしくなったと思われるだけだろう。
僕たちが進むスピードはかなりゆっくりだったので、湖に着いたときには日が沈みかけていた。湖畔にソフトクリームみたいな奇妙な形をした白い岩が見え、その脇を抜けると広々とした台座のような岩場に出た。リュックを脇に放り出し、僕たちはそこにへたり込んだ。僕自身、かなり疲れていて、口を利くこともできなかった。本当は彼からもっといろんな話を聞きたかった。君のお父さんやお母さんはどんな人なの?兄弟はいるの?普段は何をしているの?学校には行っているの?・・・いやいや、そんなことよりもまず、君の言うアーチの向こう側にはいったい何があるの?どのような光景が広がっていて・・・。いろいろ思いを巡らせながら、僕は仰向けに寝転んだ。
やがて完全に日が沈み、オレンジ色に照らされていた周りの岩山が徐々に輝きを失っていった。空には白い雲がポツリポツリと浮かび、ゆっくりと、とてもゆっくりと流れていった。東の空が鮮やかな紫色に染められていく。
それにしても、空はどうしてこんなきれいな色になるんだろう?
どうやら人は、いくつものことを同時には考えられないものらしい。ジョッシュのことが気になりつつも、まるでこの世のものとは思えない美しい空を眺めていたら、その不思議さが僕の頭の中を満たしていった。そして、疲れもあってか、いつの間にか眠りに落ちていた。
夢を見た。
スチュと二人、名前も知らないナチュラル・アーチを探す夢だ。僕たちはとてつもなく大きくて深い谷を下りていく。ひたすら歩き、やっとのことで谷底に着くと、両側を垂直に切り立った崖に挟まれた場所に出た。崖があまりにも高いので、陽の光が入らない。見上げると、2つの崖に切り取られた細長い青空が見えた。それはまるで、空を流れる青い川のようだった。
暗い谷をしばらく行くと、開けたところに出た。そしてその奥に、これまで見たこともないような大きなアーチが姿を現した。スチュと僕は感嘆の声を上げ、急ぎ足でそのアーチの方へ向かう。すると突然、先ほど通り抜けた谷の方から”ゴーッ”という地鳴りのような音が聞こえた。振り返ったちょうどその時、崖の間から凄まじい勢いで泥水が噴き出した。”鉄砲水だ!”そう叫んだ瞬間、僕たちは鉄砲水に飲み込まれ、流された。
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