8

やっと頂上に辿り着いた。僕は祈るような思いで、そこから見えるものに目を凝らした。左から右へ、そして右から左へと視線を送りながら、少しでも動くものがあれば何であれ捉えようと、集中力を研ぎ澄ませた。

しかし、残念なことに人らしきものは見えなかった。ただ、いま立っている場所が頂上なのではなく、ここからさらに奥の方に行くと、もう少し高い頂に続いていることがわかった。

“そこまで行ってみるか・・・” そう思ったものの、一方で “そこからまださらに高いところへと続いていたらどうするのだ?” という思いが頭をよぎった。”どこまで行ってもきりがない。同じことを繰り返しているうちに、遭難してしまうかも・・・”

いろんな思いが頭に浮かんだが、結局、もう一度だけ確かめてみたいという気持ちが勝り、その先の頂上まで行ってみることにした。“絶対にこれが最後だぞ“ と自分に言い聞かせながら、目の前にそびえるてっぺんを目指した。


目指すものが近づくと、普通は気持ちが高ぶって進む速さが増していくものだが、この時は逆にペースダウンした。きっと結果がわかってしまうのが怖かったのだろう。行ったところで何も見あたらず、苦労してここまで来たのに何の収穫もなく引き返す結果になることを僕は恐れていた。

やっとのことで登り切った時、幸いにしてこの先にさらに高い山はなく、ここが頂点であることがわかった。僕は冷静になるよう自分に言い聞かせながら、先ほどと同じようにゆっくりと周囲を見回した。

そして、その途中で僕の視線はピタリと止まった。無意識のうちに目を大きく見開いたのが自分でもわかった。奥に見える小さな岩山の麓に、あの少年の姿を見つけたのだ。僕の胸は急に高鳴った。


岩山を登ろうとする彼に向かい、思わず僕は大声で呼びかけた。

「おーい!」

一瞬、彼の体が固まったかのように見えた。そして、少しおどおどしながら、後ろを振り返った。

「おーい!」

僕は大きく両手を振りながらもう一度叫んだ。何だか、身に覚えのある動作だ。それが、先ほどブロークン・ボウでスチュに呼びかけた時とまったく同じ仕草だったことに気づき、自分でも少しおかしくなった。

どうやら少年に僕の姿が見えたらしい。スチュと同じように手を振り返してくれることを思い描いていたのだが、残念なことにその期待は見事に裏切られ、少年は慌てて先を急ぎ始めた。僕から逃げようとしているのだった。

“しまった!”

最初から黙って近づけばよかったと、今さらながら後悔したが、後の祭りだ。しかし、こちらとしても、この状況で引き返すわけにはいかない。僕は頂を急いで駆け下り、少年の姿を追った。


かなり急いだつもりだったが、少年の姿はなかなか大きくならなかった。それどころか、行く手には小さな丘のような岩のコブがいくつもあって、その岩を越えようとするたびに彼の姿が陰に隠れて見えなくなった。時々、後ろを振り返る彼を追っていると、まるで自分が犯人を見つけ出した刑事にでもなったかのような気分だった。何がなんでも彼を捕まえないといけない、そんな気持ちになっていた。

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