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話はちょっと脇道にそれるが、一言にナチュラル・アーチといっても、実際にはいろんな形がある。

最も一般的なのはロック・シェルター型と呼ばれるもので、洞穴が開いた岩の上部の隙間に雨水が入り込み、徐々に浸食されて薄い板状になることでアーチができる。

他には、岩が浸食される際に、硬い部分だけが取り残されてできるフリー・スタンディング型というのもある。アーチーズ国立公園にある有名なデリケート・アーチや、キャニオンランズ国立公園のドルイド・アーチなどが、その例だ。それ以外にも、アルコーブ型、ケーブ型、フィン型など、その形状やでき方によっていくつものタイプに分けられるのだが、ポットホール型と呼ばれる天井に穴が開いたタイプのもの以外、たいがいアーチの穴は水平方向に開いたものが多い。だから、例えば空から写真を撮ったとしても、どこにナチュラル・アーチがあるのかを見分けることは難しい。つまり、衛星写真で地球上をくまなく撮影できるようになった現代においても、まだ誰にも発見されていないアーチが、どこかにあるかもしれないということだ。特にユタ州南部のこの一帯は、人がなかなか踏み込むことのできない険しい地形が続いており、歴史的にもアメリカの地図で最後に埋まった地域だと言われている。根気よく探し続ければ、誰にも知られていないアーチを新たに発見できるかもしれないのだ。


そんなことを一人考えながら、どこまでも続く谷をはるか遠くまで眺めていたのだが、そこであるものが視界に入り、一気に現実に引き戻された。

さっき、岩山の中腹で一瞬見かけたと思った少年の姿が、そこにあったのだ。彼のいる場所は、今、僕が立っているところからかなり離れており、はっきりと見極めることはできなかったが、ベージュ色の服に黒い髪が見えたので間違いないと思われた。彼は谷の間を飛び跳ねるようにして下りていくところだった。僕の鼓動は急に激しく高鳴った。


僕は思わず少年を追おうとしたが、慌てて足を止め、後ろを振り返った。

「スチュ!ちょっとそこで待ってて」

僕は大声で彼に向かって叫んだ。

「何だって?」 彼が聞き返す。

「そこにいて!すぐに戻るから」

「なんだ、いったいどうした?」

僕は何と答えていいかわからず、黙ってしまった。ありのまま答えればよかったのだろうが、さっきのスチュの反応を思い出し、躊躇してしまったのだ。

「あっ、いや、何でもない。とにかく、ちょっと待ってて!」

そう言い放ってアーチに背を向けたが、数歩進んだところでもう一度振り返り、こう付け加えた。

「もし30分経っても戻らなかったら、先に戻ってて!」

スチュが僕の背中に何か言葉を投げかけたが、何と言ったのか聞き取れなかった。その言葉を確かめることもせず、僕は少年を追い始めた。彼を捉えるには、相当なスピードで追わないといけないだろう。しかし、目の前の谷は蛇行している上に、岩場が多く歩きにくかった。先に小さく見える少年の姿が見え隠れするので、そのたびに僕は不安になった。


それにしても、彼はこんなところでいったい何をしているのだろう? 年の頃、まだ10歳前後のように見えるが、こんなところへたった一人で来ているとも思えない。両親も一緒だろうか? そもそも、さっきの場所からここまで、どうやって来たのだろう? そして、あのわずかな時間に、あんな遠くまでどうやって行ったのか? 疑問は次々に湧いてくる。僕は彼の姿を見失うまいと必死になって追ったが、やがて彼の姿は谷間に吸い込まれるようにして消えた。僕は彼が進んだとおりの道を、必死になって辿った。

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