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翌日、僕らは早朝に町を出て、車を東へと走らせた。

ユタに来て最初の訪問先に選んだのは、ブロークン・ボウと呼ばれるアーチだった。州道12号を町から5マイルほど走ると、ホール・イン・ザ・ロック・ロードと名付けられた未舗装道路に入る分岐点があり、ここからさらに47マイルほど走った先にトレイルヘッドがある。この道になぜこのような名前が付けられているかというと、その昔、1800年代の終わりごろに、モルモン教徒が自分たちの居留地を広げようとしたことに由来している。彼らは何台もの幌馬車に荷物を載せ、家畜も引き連れて移動したのだが、途中コロラド川の手前で大きな岩山に行く手をはばまれた。そこで、岩を削って穴を開け、道を作ったことから、ホール・イン・ザ・ロック(岩に開いた穴)という奇妙な名前で呼ばれるようになったそうだ。


この道路にはたくさんの脇道があり、たいがいのトレイルヘッドはそれらを入った先にあるのだが、ブロークン・ボウも例外ではなく、車一台通れるかどうかという狭い脇道を行かないとトレイルヘッドには辿り着けない。僕らは脇道に入る手前で車を置き、そこからトレイルヘッドまでは自転車で行くことにした。自転車なら対向車が来ても簡単によけられるし、何より雄大な景色を満喫できるような気がしたからだ。ただ、実際に自転車を走らせてみると、道は荒れていて走りづらく、まわりの風景を楽しむ余裕などなかった。油断していると窪みに車輪をとられて転倒してしまう。地面の凹凸をできるだけ避けようとするのだが、それだけで体力をかなり消耗してしまった。それでも、なんとかトレイルヘッドまで走り切り、そこに自転車を停めて、眼下に広がる谷を眺めた。

このトレイルはとても人気が高いと聞いていた。途中、岩を登ったり、川を渡ったりするような面倒な箇所がないのと、ルートが谷に沿っており、地図を見なくても比較的わかりやすいからだ。ただし、日陰になる場所がほとんどないので、晴れているときは暑さ対策が必要だった。僕たちは水を入れたペットボトルを何本もリュックに詰めた。

「楽しみだな」

そう言うスチュの顔は、まるで遠足に出かける前の子供のようだった。

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