PM18:19

 商店街の入り口から海水浴場までの道のりは、徒歩で移動すると自転車に乗っているときよりもはるかに長く感じた。

 マリは砂浜の上の歩いて、波際のすぐ手前まで進んだ。靴のつま先を撫でるように海水が寄せてくる。遠くに沈んだ夕陽は、黄金の光を水平線の下から大きな扇を広げたように放っていた。

 今日からは、ひとりで生きていかなければならない。どんなに苦しくても、自分にとってあまりに残酷なこの世界で。

 海水浴場には誰もいない。風が冷たい。

 マリは虚勢を張るように胸を反らせて、心細さを抑え込んだ。そして、海に向かって大きな声で叫ぶ。

「カズコちゃんの、バカヤロー。デザート食べに行くって、約束したじゃない。また泳ぎに来るって、約束したじゃない。一緒の大学行こうって、約束したじゃない。死んじまいやがって、バカヤロー」

 マリは左腕に巻いている自分の腕時計をはずした。親友とおそろいで買った、税込み103円の、不思議な腕時計。最愛の人のいろんな姿を見せてくれた、魔法の腕時計。

 もう、タイムリープすることはないだろう。マリは腕時計を海に向かって思いっきり放り投げた。腕時計は山の低い放物線を描いて、音もなく波間に消えた。

 きっとどこかにある、幸せな並行世界。カズコちゃんはそこにいる。どんなに大きな声を出しても届くわけないけど、叫ばすにはいられない。

「カズコちゃーん。ありがとーう」

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