PM16:30

 放課後、マリは被服室に行った。そこにもうカズコは居ないことは知っている。でも、行かずにはいられなかった。

 開けっ放しになっている被服室の出入り口から室内をのぞくと、窓際の机に瀬戸が居て、ひとりで作業をしていた。

「あ、逢沢先輩。ちょっとこっちに来てください」マリの姿に気付いた瀬戸が、マリを招き入れた。「ほら、これ見てください」

 瀬戸はマリの目の前にテディベアを置いた。赤いチェックの布やグレーやペイズリー柄の布が組み合わされた、今までに見たこともないテディベアだった。

「やっと完成したんです。かわいい……、かどうかは人によるでしょうけど、おもしろいでしょ」と瀬戸は自慢すうるように言った。そしてつぶやくように、「部長の……、島田先輩の形見です」

 これが瀬戸の死の受け入れ方なのだろう。マリはそう思った。

「もしよかったら、逢沢先輩、この人形もらってくれませんか?」

「ううん。それは瀬戸さんが持ってて。私、カズコちゃんのお母さんから、いろいろもらったから」

「そうですか……」瀬戸はテディベアの頭に手を置いて軽く撫でた。

 自分より年下なのに、気丈に振る舞っている瀬戸をマリは立派だと思った。午前中の自分の狂態を思い出して、反省を繰り返す。

「今日で、手芸部は廃部です」唐突に瀬戸が言った。「部員が一人になったから」

「そう……。もしよかったら、卒業するまで私が入部しようか?」

 瀬戸は顔を上げて一直線にマリを見たが、すぐに俯いて、

「いえ、いいんです。実は私、そんなにお裁縫が好きだったわけじゃないんです。島田先輩の近くに居たかった。それだけだから……」

「ごめんね」ほかに言葉が見つからない。

「なぜ、謝るんですか? 私、島田先輩とたくさんの時間を過ごせて、本当にしあわせでした。本当に」

 瀬戸の目尻に涙が光っていた。

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