PM12:41

 昼休み。カズコは体育館の前でマサシを待っていた。

 先週末、告白されたときに、朴訥という言葉がこれほど似合う男子のほかにいないだろうとの印象をカズコは持っていたが、交際の申し込みを承諾したとき、想像以上にマサシは情熱的に喜んだ。「俺、ぜったい幸せにするから」とずいぶん気の早いことを言っていた。

「島田さーん」と手を振りながら、遠くからマサシが駆け寄ってくる。

 カズコも手を振り、それに応えた。

「どこで食べよっか」お弁当の包みを手に持ったカズコが聞いた。

「一緒に食べられるなら、どこでもいい」

「じゃ、向こうの体育館横の段差になってるところでいい?」とカズコが言った。

「うん。あの……」マサシが黒い顔を緊張させながら言った。「ありがとう。その、俺を選んでくれて。ぜったい幸せにするから」

「うん」とカズコは笑顔を作って見せた。

 かつてマリとそうしたように、カズコはマサシの横に並んでお弁当箱を開いた。野球部だったマサシのお弁当箱はとてつもなく大きなもので、ひょっとしたら電話帳と同じくらいの大きさがある。

 カズコにはひとつ気になっていたことがあった。それをマサシに聞こうか聞くまいか悩んでいたが、愚直なマサシに引き摺られるに、つい口が軽くなる。

「ねえ、司馬君。私に告白する前、私たちのウワサ、気にならなかったの?」

「ウワサ? 何、それは」白飯を口のなかにかき込みながらマサシが言った。

「あ、いや……。知らないなら、それでいいの」

「そういえば、島田さん、うちのクラスの逢沢と友達だよな」

「え……」

 カズコは今朝のマリの様子を思い出して、箸を持つ手が止まった。

「俺、島田さんと逢沢が商店街の近くで、自転車二人乗りして帰ってるの、何回か見たことあるんだ。俺の家、あそこらへんだから。いくら仲良くでも、あんなことしちゃ、いけない。第一、危ないじゃないか」

「うん」

 もうマリと、二人乗りで帰ることもないだろう。

「もし迷惑じゃなかったら、今日、俺と一緒に帰ってくれない? 商店街の入り口まででいいから」

「え、でも、手芸部の部活あるから……」

「待ってる。何時までも」

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