1994/10/24 PM12:10

 マリにとって、二度目となるテスト初日が終わった。物理と英語と日本史の試験だった。

 ここ数日、勉強ではなく答えの暗記に必死だったために、マリは家でずっと机に座っていた。持ち帰った問題用紙をもとに正答を作り出して、何度も繰り返し読んで記憶する。

 この単純な手法でいちばんやっかいなのは、「アからオのなかから選択せよ」という種類の問題だいだった。何せ、ひとつずれて記憶してしまうと、全部正解できるはずのところを全部はずしてしまうことにもなりかねない。

 チャイムが鳴ると同時に、シャーペンを置いた。すぐに机の列のいちばん後ろから、答案用紙が回収されていく。

 日本史はおそらく満点だろう。限られた答えを暗記するだけの社会科科目はマリの得意分野だった。

 英語は、聞き取り問題が出題されるので他の教科よりは苦手だったが、聞き取り問題の配点はせいぜい10点ほどなので、大きな障害にはならない。

 中村先生が問題を作る物理の試験は極めて難しいと生徒のあいだで評判が悪かったが、教科書に載っている例題をふたつ組み合わせて難しくしているというパターンが多く、一度解いてしまえば二度目は楽なものばかりだった。

 と言っても、テスト本番で二度目にその問題にぶつかるのは、マリ以外に誰もいないのだが。

 今日のテストは、三教科合わせて95%以上は取れたと踏んだ。

「さて。帰ろっかな。お腹すいた」マリは独り言を言った。

 父のもとに行った母は、まだ帰ってこない。最初は一日二回は国際電話を掛けてきていたものだが、最近では電話代が高いからという理由でその頻度はひどく落ちていた。もしくは、娘に電話を入れるのも忘れて観光を楽しんでいるのかもしれない。

 家に帰ってから何を食べようかと思案した。最近ずっと、コンビニの弁当かインスタント麺でごまかしている。

 一度だけ、冷蔵庫のなかのものを腐らせるのももったいないという理由で、野菜やら肉やらをフライパンに放り込んで怪しげな料理を作ってはみたのだが、調味料の量を間違ったのか、ひどく塩辛いものができあがった。仕方ないので砂糖をぶっかけて中和しようと試みると、さらにひどい味になった。申し訳ないと思いつつも、口に入れただけで吐き気を催すその限りなく毒に近い料理、あるいは限りなく料理に近い毒らしき何かは、結局捨てることになってしまった。

 あまりに自分の腕前が情けなかったので、テスト終わったらカズコに料理教えてもらおうとマリは思った。

「とりあえず今日も無難に、コンビニでお弁当買って帰ろう」

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