ニアミスする、魔法少女と勇者
「モモ、最近ポイントが増える事をしていないね」
モモが部屋で、お菓子をつまみながら宿題をしていると、コリコが寄ってきた。
「うん、お姉さんとの事があったし、テストも近いからね」
「テストはいつまでだい?」
「うーん 今月末までよ」
「そーかい」
モモはお菓子をコリコの口元に近づけた。小動物はお菓子を表情を変える事なく食べる。
「コリコ、放課後いなかったね」
「用事ができたんだよ」
「用事? 他の人に見つからないでよね」
「わかってるよ」
モモはペットボトルの紅茶を小さなお椀に注いだ。小動物はお椀に顔を入れ、ペロペロと舐める。
「明日も居残りかい?」
「明日は図書室に寄るわ。テスト前の調べ物があるの」
「僕は家にいるよ。学校は安全そうだし」
「クスクス、見たいテレビがあるんでしょ」
モモは笑いながら、コリコの頭を撫でた。
「お姉さーん」
正門前で可愛い妹の手を振る姿が見えた。
モモはいつものように腕にしがみつく。だがいつもと様子が違った。
少し涙目になりながら、上目遣いで訴えるよな視線を向ける。
「ど、どうしたの、モモちゃん?」
智夏は初めて見る妹(?)の様子に、少し慌てながら訪ねた。
「今日は放課後、図書室に行かないといけないんですー だから、だから、今日も、一緒に帰れません」
智夏は大きく溜息をついた。
「テストが二人の間を引き裂くんですよ」
「テスト前は勉強しないとね」
智夏はなだめるように、妹(?)の頭を撫でた。
「テストが終わったら、いっぱい遊びましょうね。お姉さん」
「はいはい」
モモはいつもの笑顔を智夏に向けた。
モモが放課後に図書室へ行くのは智夏にも好都合だった。
今日は退魔局に昨日の勇者の件を、報告に行かねばならなかったからだ。
中等部の校舎前でモモと別れて、自分の教室へと足を急がせる。
教室の前で、今度はミリカが手を振っていた。
「智夏! おはよー!」
「うん、おはよー」
愛想笑的な笑顔を見せたが、ミリカは気にする素振りもない。
「智夏、今日の放課後、空いてますかー?」
「ごめん、今日は用事があるのよ」
「オー 残念でーす 昨日のコリコの飼い主を紹介して欲しかったでーす」
「ごめんね」
智夏は誤りはしたが、正直魔法少女と勇者を引き合わせるのには気が引けた。
何か相乗効果が生まれて、とんでもない事件が起きそうな気がしたからだ。
「また今度、機会をつくるわ」
「サンキュウ 期待してるね」
智夏は自分の席に座るが、少し落ち着かない。違和感があるのだ。
予鈴が鳴り、間もなく先生が来る頃に、違和感の元が教室に走り込んできた。
「ハッ ハッ ハッ ハーー ぎりぎりセーフ!」
違和感の元、友理奈が智夏の隣の席に腰を下ろした。
「おはよー! 智夏!」
「おはよー」
今日は、朝から友理奈と顔を合わせていなかったので、違和感があったのかと、陰陽少女は思った。なんだかんだとこの友人は、自分の生活リズムに入っているらしいと認めてしまう。
「珍しいわね、友理奈がギリギリなんて」
「ちょっと情報取集にね。後で教えてあげる」
短めのポニーテールを揺らしながら、友理奈は智夏に笑みを見せた。
「また転校生なの?」
昼休み、昨日の三人でテーブルを囲む。
ミリカの前には、昨日同様三人前の定食が並んでいた。
「そーなのよ、通学は来週からみたいだけど」
カレーのスプーンを操りながら、友理奈が得意げに話す。
「オー、転校生ですか。私と同じでっすね」
「でも、三年生みたいよ」
「三年生が、この時期転校なんて、珍しいわね」
パスタを巻きながら、智夏は疑問を口にする。高校三年が受験まじかのこの時期に
学校が変わるのは、抵抗があると思ったからだ。
「でしょうー 私もおかしいと思って、探りを入れていたら、遅刻ギリギリよ」
探偵みたいな事をする友人に呆れながら、智夏は残りのパスタを口に入れた。
しばし転校生の話題で盛り上がるが、友理奈がトイレにたったので、陰陽少女は話題を変える。
「ミリカ、結界の件だけど」
「What?」
「学校に、私が張った結界が、まだいくつかあるのよ」
「Yes」
「だから、むやみに切らないでね」
智夏は、以前の中庭以外の場所にも人避けの結界や、悪霊を封印している所があると告げる。結界を切られたら、瞬時にどうにかなるという事はない霊障だが、万が一があるので念を押した。
「わっかりましたー 切る時は智夏を呼びますね」
「だから! 切らないで!!」
陰陽少女は頭を抱えながら、溜息をついた。
放課後、背の高い少女が図書室に向かう。大人びた顔立ちで落ち着きがある雰囲気。制服を着ていなければ、成人女性と間違われてしまうだろう。
しかし老けているという外見ではない。クォーターという血筋がそう魅せるのだ。
山加ミリカ、異世界人を祖父にもつ勇者の孫だ。
「今日は寂しーでーす」
「智夏も友理奈も用事で遊べないでーす」
よっぽど寂しいのか、声を出して独り言を呟いた。
「でもー 今日は 本を借りるでーす」
クォーター娘は、階段を上り、図書室に足を踏み入れた。
「ん~~ 本の香りがするでーす」
借りる本のジャンルを決めていたわけではないので、本棚の前をゆっくりと移動する。時間はあるので、焦る事もない。
「ねえー あの人うちの生徒かな?」
ミリカが本を選んでいる棚から、少し離れた所にテーブルと椅子が置いてあり、数グループの生徒が勉強していた。
「高等部の人みたいね。モモは見た事ある?」
本を開いて、ノートをとっているツインテールの少女に、質問がいった。
「うーん 見た事ある気がするけど・・・・わかんなーい」
語尾の最後で首を傾げるモモ。ぶりっ子は
「モモが追いかけてる先輩の知り合いかもよ」
「追っかけてないよ。相思相愛だもん!」
「はいはい」
中学生達は、しばしの雑談を終え、勉強に戻った。
そんな中、ミリカは本をチェックしながら移動していると、無視できない衝動にかられた。
本棚の一部に結界が張られていて、普通の人なら素通りしてしまう棚があった。
「こ、これは、無視できませーん。 しかしー智夏とのやくそっくがー」
葛藤するクォーター娘は、足を引きずるようにその場を離れたが、手にはいつの間に取り出したのか、聖剣が握られていた。
「ちかー ごめんなさーいーー 」
ピキーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンン
本棚の間から青白い光が漏れ、一瞬図書室の明かりが明滅したような感覚がモモを貫いた。普通の人には見えないし、感じる事が出来ない感覚だ。
魔法少女は席を立ち、光が漏れた本棚へと急いだ。
本棚に向かう途中、フラフラと図書室を出る人影が視界に入ったが、棚の方が気になったので、足を急がせた。
棚の前に立ったモモに、一冊の本が急激なアピールをしてきた。
もうモモには、他の本等、目に入っていない感じだ。
「しょう・かん・まじゅ・つ
モモは誘われるようにその本を取り出すと、席に戻り、他の参考書に混ぜた。
「どうしたの? 急に席を離れて?」
席に着いたモモに友人が訪ねるが、特別気にしてる風でもない。
「うーうん 何でもない。前見た参考書をチェックしたくなったから」
「そう。 じゃあ、あと少し頑張ろうね!」
モモ達は小一時間勉強した後、各々帰宅の途に就いた。
魔法少女は、一冊の本だけ貸出カードを作らずに、鞄に入れた。
その本の背表紙には、持ち出し禁止の印が押されていた。
「お帰りモモ」
玄関の扉を開くとコリコが鎮座していた。
「もうー コリコはお腹が空いた時だけ、私を出迎えるのね」
モモはキッチンに向かうと、冷蔵庫を開け、冷凍のたこ焼きを取り出した。
「すまないねー 自力ではなかなか冷蔵庫を開けられないんだよ」
「はいはい、今すぐ用意しますよ」
一見、呆れているようだが、内心モモは嬉しいかった。
お帰りを言ってもらう事。自分を頼りにしてもらう事。
実質モモはこの家で一人で住んでいる。離婚後、母親に引き取られたが、母は立ち上げたデザイナー会社の仕事で家に帰る事が少ない。
智夏がうさんくさと思うコリコは、モモにとって大事な話し相手、家族みたいな者になりつつあった。
自室でたこ焼きをコリコに与え、明日の用意をするため鞄の中にある物を机に取り出した。
「モモ、その本はなんだい?」
「あっ! これ? 今日、図書室で借りてきたの」
背表紙に持ち出し禁止の印を押された本を机に置いた。
「モモ、その本は開けない方がいいよ」
「なんで?」
「この次元にない力を感じるよ」
「魔術だよ。魔法少女の力を更に強くしてくれると思うんだけどなー」
「やめたほうがいいよ」
「うーん ・・・・コリコが言うなら」
モモは本を机の引き出しに入れた。そして、明日の時間割をチェックして教科書を準備する。
小動物は引き出しに視線を走らせた後、残りのたこ焼きに口をつけた。
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