転校生は勇者?

 月曜日の朝、智夏はいつもの時間で登校してきた。

正門の前でモモが手を振っているのが見える。

智夏は少々うんざりしながらも、笑顔を魔法少女見せた。

 「お姉さん、昨日は寂しかったですー」

モモはいつものように、智夏の腕にしがみついてきた。

土曜日に散々モモに振り回されたので、日曜日の誘いはさすがに断った。

正門から、それぞれの校舎までの短い間だが、モモはひたすら喋り続ける。

他愛のない話だが、よく喋る事があるなと感心する智夏。まあ可愛い妹が出来たと思えばいいかと前向きに考える。

 「じゃあお姉さん、また放課後、正門で待ってまーす」

可愛い妹が手を振っている。が、やはり少々うんざりする智夏だった。



 「お姉ーさん!」

教室に入ると、友理奈が近づいて来た。

 「もう、それはやめて」

 「ハハハ、ごめん、ごめん。それでね、今日転校生が来るんだって」

友理奈は誤りながらも、悪ぶれる素振りもなしに、脈略もなく話題を変えた。

 「転校生?」

 「そうそう、それもクォーター」

 「クォーター?  祖父か祖母が外国人だってこと」

どこから情報を仕入れるのか、友理奈は智夏に報告を上げる。

 「本人も、最近まで外国に住んでたんだって」

本当に、何処で情報を仕入れるのか、よく知ってるなあと感心する智夏。

 「でねでね、ここだけの話。学年同じだけど、歳は一つ上らしいよ」

 「あんた、どうしてそこまで知ってるの」

智夏は呆れながら訪ねた。

 「えっ! 本人から聞いたから」

あっけらかんと答える友理奈の顔を見て思い出した。この友人は、面白そうな話題があれば、張り込みも辞さないという事を。

恐らく、今日友理奈は、転校生が早めに登校すると察して、待ち伏せして友達になったのだろう。

あれやこれやと転校生の話をする友理奈。結構、転校生の事を気に入っているのだろうと思う。

 「あっ‼  智夏の事も言っといたから。取っ付きにくいがいるけど、いい子だからねって」

 「あ、・・・ありがとう」

悪気はない。悪気はないんだと自分に言い聞かせながら、笑顔を友理奈に見せる智夏だった。



 「山加やまかミリカです。ヨロシクお願いしまっーす」

黒板の前で背の高い女生徒が外国人なまりの日本語で頭を下げる。今朝、友理奈が言っていた転校生だ。

綺麗でロングな黒髪が、お辞儀をした時に、重力でサラサラと乱れた。

智夏は少し戸惑い気味に彼女を見る。

一つ年上と聞いていたが、クォーターのせいか、二十歳と言っても通用しそうな雰囲気をもっている。

智夏が戸惑ったのは、見た目の事ではない。黒板の前で頭を下げた女生徒は、結界を切ったと思われる女性だったからだ。

ミリカは緊張した面持ちで、指示された席に腰を下ろした。

智夏も神経を張り詰めながら、彼女を観察しようとしたが、昼の休憩時間に友理奈がミリカを引っ張ってきた。

 「この娘が、智夏だよ」

 「OHー!智夏ですか。友理奈から聞いてまっーす。よろしくお願いしまっーす」

ミリカは外国人のように、自然な仕草で握手を求めて来た。

 「・・・こっ こちらこそよろしく」

智夏は苦笑いを浮かべながら、握手に応じた。

 「ねえ、これからミリカに、校内を案内するんだけど、一緒に行こうよ」

 「校内の案内?」

 「そーでぇーす、友理奈は優しいでーす。転校で友達できなーい。これが一番不安でぇーす。その不安を朝一で取り除いてくれまーした」

やっぱり、朝に待ち伏せして、友達になったんだなと智夏は確信した。

 「そんな友理奈の友達と、是非仲良くしたいでぇーす」

 「うんうん、智夏もいい子だよー」

自分もよい子だけど、友達もよい子だよと頷きながら言っている友人に呆る智夏。

 「じゃあ、行こうか」

しかし離れて観察するより分かりやすいと思い、席を立った。

 「山加さん、食事は?」

 「オー 、ミリカでいいでぇーす。パンでも買おうかと思ってまーす」

 「私も智夏でいいよ。じゃあ案内がてら食堂に行こうか」

 「OKでぇーす」

天女高の食堂は一階にある。中等部も中等部専用の食堂が設置されているて、モモと会う事はないので、智夏は安心(?)して食堂に向かった。

 「どう? うちの食堂は?」

 「ハイ! メニューもいっぱいで嬉しーでぇーす」

三人が座っているテーブルには、五人前の定食が並んでいた。

これも、あれも美味しそうと、ミリカが自分の分として三人前注文したのだ。

しかも、残す気配は無く、次々と皿を空けていく。

 「ミリカは良く食べるね。昼からの授業眠くならない?」

うどんを食べ終えた友理奈が、皆の分のコーヒーを運んできた。

 「サンキュウ友梨佳。大丈夫ですよ、ハラハチブンメでぇーす」

 「それで、八文めなの?」

オムライスを食べ終えた智夏が、コーヒーを受け取る。

 「イエス!  ここの美味しい定食なら、あと三人前はいけまーす」

 「太らない?」

 「そーですねぇ  最近ブラがきついので、太ったかもしれませーん」

 「・・・・・」

智夏はミリカの胸と、自分のスレンダーな胸を比べて落胆し、言葉を無くした。

これから、ミリカに何処を案内するか話合っていると、校内放送が響いてきた。

 「二年二組の佐伯友理奈さん。至急、図書室におこしください」

ゆっくりと、書かれた文字を読み上げる放送が流れる。

 「いっけない!  私、図書委員で呼ばれてたの忘れてた」

友理奈は、ホットコーヒーを、ふーふーと冷ましながら、飲み干した。

 「ごめん!  智夏、案内を頼むね」

短いポニーテールを揺らしながら、友理奈は食堂を出て行った。

 「OH!  友理奈は忙しいでっすね」

 「忘れてる友理奈がいけないのよ」

 「智夏は厳しいーですねぇ」

 「そうかなー  普通だよ。  じゃあ、図書室から案内しようか」

 「オーケェねぇ」

智夏と、ミリカも食堂を後にした。

図書室は別棟になっていて、中等部と兼用になっている。

別棟に向かう途中には渡り廊下があり、廊下から見える庭の角に、智夏が「吹き溜まり」と呼んでいる場所があった。

吹き溜まりは、霊が集まりやすく、霊感の強い人が入り込むと、霊障を起こす危険があるので、智夏が人祓いの結界を張っていた。

渡り廊下の途中で、ミリカが吹き溜まりを気にしているのがわかった。

 「どしたのミリカ?」

智夏は白々しく確認をとった。

 「オー  智夏。何でもありませーん」

 「そう。この先が図書室だから。急ごう、昼休み終わっちゃうよ」

ミリカの反応を確認して、わざと急がせるように、図書室へと足を速めた。

別棟は職員棟と呼ばれ、文字通り中等部、高等部の職員室が設けられていた。

三階建で、一階が中等部と高等部の職員室になっていて、三階に校長室と役員室、会議室があり、二階の全フロアーが図書室になっている。

 「オー  凄い本の数ですね」

図書室に入って、ミリカは驚きの声を上げた。

 「そうね、蔵書の数なら、市立図書館に負けてないかもね」

 「本好きの私には、嬉しいー事でぇーす」

 「中には、持ち出し禁止の本もあるけど、閲覧は自由だから」

 「オー  早速、放課後にでも借りにきまーす」

 「次は体育館と移動教室を案内するわ」

二人は職員棟を離れ、体育館に向かう。途中、先程の渡り廊下に足を踏み入れた。

 「智夏、私やっぱり無視できませーん!」

 「えっ!  何が?」

智夏の問を聞かずに、ミリカは廊下を外れ、吹き溜まりへと走り出した。

 「幾多の英霊が使えしやいばよ、我ミリカの力となりて、敵を討ち果たさん。来たれ、ソーード!」

ミリカは走りながら詠唱を唱え、何もない空間に右腕を上げた。

右手が空間の穴に入ったかのように、こぶしが消え、次に出て来た時は、剣が握られていた。

日本刀のような細身の剣ではなく、刃幅のある洋剣だ。

 「キェーーーーーーーーー!!」

ミリカは両手で剣を握り、吹き溜まりへと振り落とした。

  ピキーーーーン

一瞬青白い電気のような光が走り、直ぐに消えた。

ミリカはその場でへたり込んだ。

智夏は慌てて駆け寄り、ミリカを抱え上げた。

 「ちょっと、ミリカ。何してるのよ!」

 「オー  疲れました」

 「もうー  聖剣を振り回すからよ」

 「・・・・・・・」

ミリカ急に黙り込み智夏を凝視した。

 「どうしたの?   ミリカ」

ミリカはフラフラと立ち上がり、智夏の両肩に両手を置いた。

 「智夏ー、  今・・・・ 聖剣と言いましたねっ」

陰陽少女はしまったという表情を出し、迂闊な自分に叱咤した。

 「えっ   わたし・なにか・いったかしら」

とぼけようとしたが、声が裏返り、思うように言い訳できない。

 「智夏は聖剣を知っているのでーすか?」

陰陽少女は諦めの溜息をついた。

 「もうー ミリカは、私が張った結界を切ったのよ」

 「ケッカイ?」

 「そう、ここは霊が溜まりやすいのよ」

 「レイ?・・・ゴースト?」

 「霊障を受ける人がでないように、私が人祓いの結界を張ってたの」

 「ワンダフル!!」

ミリカがぎゅうっと智夏を抱きしめた。

 「なっ!  何するのよ!」

 「オー   智夏!    智夏!」

ミリカは抱きしめる力を緩めず、今度は頬ずりをしてきた。

 「もうー  いい加減にして!」

智夏はミリカの頭に、げんこつを飛ばした。



 「ソーリーね。智夏」

吹き溜まりの騒動の後、二人は教室にもどって来た。

興奮さめやらぬミリカを連れて、学校めぐりをするのは、智夏には荷が重いと感じたからだ。それに校内にはまだ、結界を張っている場所もある。

「無視できませ-ん!」と結界を切られるのは、なるべく避けたいと陰陽少女は考えた。

 「もう、いいわよ」

 「ソーリー。 私、聖剣認められたの初めてよー   だから嬉しくて」

 「だから、もういいって」

 「トモダチ、解除しないでくださーい」

涙目で哀願するクォーター娘に智夏を微笑みを返した。

 「ミリカ」

 「What?」

 「聖剣とか、結界の話は、友理奈にはNGよ。ややこしくなるから」

 「モチのロンね」

委員会から戻らぬ友達の名前をだすと、ミリカは久しぶりに笑みを見せた。

 「智夏。今日の放課後、私の話を聞いて欲しいね」

 「今日かー」

智夏の脳裏にモモの笑顔が浮かんだ。

 「ちょっと待ってね」

智夏は携帯を取り出し、画面を確認するとモモからラインが入っていた。

         お姉さん、今日居残り

         になりました。

         先に帰ってください。

         グッスン

液晶画面に、泣きべそをかいている、アニメの魔法少女が動いていた。

 「あっ  今日大丈夫だわ。でも友理奈がなー」

 「私がどうしたの?」

智夏がボソリと名前を出した時に、友理奈が唐突に顔を出した。

ビクリとした智夏だが、聖剣の件について、聞かれていた様子はないので、慌てずに切り返す。

 「あっ!  今日の放課後、ミリカに街を案内しようと思っているんだけど、友理奈も行けるかな?と」

 「ごめん!  今日の放課後、委員会なの。昼休みで終わらなくて」

 「わかったわ。じゃあ、私がミリカを案内しとくね」

 「オー  智夏。お願いしまーす」

何故か今日は、とんとん拍子で話が進むなあと、違和感を覚える智夏だった。



 放課後、智夏とミリカはいつかのファーストフード店にいた。

智夏の鞄には、いつの間に忍び込んだのか、コリコがぬいぐるみの如く顔をだしていた。

 「おー  可愛いマスコットでっすね」

 「そ、そおね。気にしないで」

智夏達のテーブルには、ハンバーガーが十個積まれていた。

 「ミリカはよく食べるわね」

 「ノーノーノーよ、日本のハンバーガーは小さいですからね。よかったら、智夏もどうぞ」

 「ノーサンキュウよ」

 あっという間にハンバーガーをたいらげるミリカ。「次はポテトねー」と言って、カウンターにむかった。

この隙にと思い、智夏はコリコの耳を掴んだ。

 「何であんたがここにいるのよ!」

 「モモの居残りより面白そ、・・・いや、今朝から、不思議な波動を感じたからだよ」

なんなんだ、この小動物は。まるで芸能レポーターみたいだなと思う智夏。益々嫌いになる。

 「不思議な波動って何よ」

陰陽少女が小動物の耳を引っ張っていると、ミリカが大量のポテトをトレーに乗せて帰ってきた。

 「智夏はぬいぐるみと仲良しですねー」

 「はははは」

智夏は赤い顔をして、ぬいぐるみにデコピンを入れた。



 「で、話って何?」

智夏は、ミリカの空腹が満たされたと思ったので本題を切り出した。

 「オー!  そうーです。私、ハンバーガーを食べにここに来たの違いまーす」

散々食べといて、何を言っているのかという突っ込みはやめて、次の言葉を待つ智夏。少し冷めたコーヒーを口に運んだ。

 「私のこの力。お爺ちゃんから受け継いだのでーす」

 「お爺ちゃん?」

 「そーでーす。私のお爺ちゃんは、この次元の人ではありませーん」

 「次元?」

突拍子のない話だったので、思わずワードが口から出てきた。

 「お爺ちゃんは、違う次元から、こちらに飛ばされたと言ってましたー」

 「飛ばされた?」

 「信じられないのは当たり前でーす。お爺ちゃんの話を信じているのは、聖剣を受け継いだ私だけでーす」

 「・・・・」

 「お爺ちゃんがこの世界に来たのは、戦後でバタバタしてる時と言ってました」

 「戦後?」

 「第二次大戦後でーす。そのいざこざの中で、戸籍等を所有出来たと聞いてまーす」

 「なるほどね」

智夏とは違う声がした。テーブルの上にコリコがチョコンと座っている。

智夏は慌てて鞄を机の上に置き、他の人から見えないように小動物を隠した。

 「智夏、ポテトを一つもらえるかい」

 「何がポテトよ」

智夏はコリコを鞄に押し込めようとしたが、ミリカがそれを制止ポテトを与えた。

 「ありがとう。本当はたこ焼きの方が好きだけどね」

一本と言ったくせに、五本程ポテトを満足気にたいらげた。

 「何ですかー  これは?」

当然の疑問を口にするミリカだが、さすがに聖剣の持ち主は、動くぬいぐるみを見ても、動じる事はない。

 「まあー あんたの聖剣みたいなものよ」

 「オー  なるほど!   智夏のですか?」

 「私のじゃ無いわ。その内に紹介するわ」

小動物は鞄の影で、チョコンと首を傾けてミリカを凝視した。

 「ミリカと言ったね」

相変わらず、上から目線の物言いが気に食わない智夏だが、こいつの分析も聞いてみたいので、陰陽少女は口を閉じる。

 「君の遺伝子情報には、この世界とは異なる部分があるね」

 「異なる部分?」

 「そう、この世界ではありえない異世界の情報が組み込まれているんだよ」

 「異世界?」

胡散臭うさんくさい宗教の勧誘みたいな物言いに対して、眉間にしわをよせる智夏。

 「異世界、異次元、平行世界。言い方は色々だけど、智夏が知らない世界があるんだよ」

地球の生物ではないコリコが言うと、説得力があるのか、智夏も思わず納得してしまった。

 「オー  こんな所にも理解者がいてくれて、嬉しーでーす」

ミリカは小動物を手の平に乗せ、頬ずりを始めた。

 「ミリカは何故、お爺ちゃんから聖剣を受け継いだの?」

 「お爺ちゃん言ってましたー。いつか必要になるかも知れないから、ミリカに託すと」

     「託した結果、私の結界が切られたんですけど」と内心ぼやく。

 「・・・・  そもそもミリカのお爺ちゃんは、なぜ聖剣を持っていたの?」

 「それは私もお爺ちゃんに聞きましたー」

 「で、何と?」

 「お爺ちゃん言いましたー    わしは勇者だと」

 「勇者?」

 「イエス!  そして、受け継いだミリカも勇者だと」

コリコをテーブルの上に置いたミリカは、親指を立てて、智夏にウィンクをした。


































    











 


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