陰陽少女VS魔法少女?
「波動を受けただけかと思ったら、まさか侵入されていたとはね」
智夏は後ろに跳ね飛び、鬼と距離を置いた。鬼は似合わない、ミニのドレスをはためかし、智夏を威嚇する。
「そうだな、だが、こうなった責任は智夏にあるぞ」
「わかってるわよ。あすこで腕だけ切り落としたのは失敗だったわ」
智夏は呪符を口元に近づける。
「オン・ソンバ・二ソンバ・ウン・バサラ・ウンバッタ!」
マントラを唱え、鬼に向かって
鬼は左腕で火矢をはねのけた。左手にはステッキが握られている。
「何! 今の?」
智夏は信じられないという表情で、さらに鬼から距離を置いた。
「攻撃の無効化だよ」
いつの間にかコリコが智夏の肩に乗っていた。
「無効化?」
「そうだよ。あのステッキは、自分に向かってくる力を、一振りで無効化できるんだよ」
肩の上で飄々と説明する小動物に、智夏は少し腹を立てた。力を与えたと思われる本人(人ではない?)が、見ず知らずの智夏に、寝返ってきたような感じがしたからだ。
「どういう仕組みなの?」
しかし、今は腹を立てている場合ではない。気持ちを切り替えて、新しい呪符を取り出し、対策の為に聞いてみた。
「この星でいう、原子、元素からの話になるけど」
「…… もういいわ」
物理、化学を、学校の授業でしか習わない智夏には、仕組みを聞いても、対応策は浮かばないと判断した。
「あの、大きいやつは使わないのかい?」
コリコが夜空に浮かぶ、低い雲を見ていた。
「九はだめ。力が大き過ぎるから、モモちゃんごと消滅させてしまうわ」
「宝の持ち腐れだね」
「うるさいわね!」
「他に魔法はないのかい?」
「私のは魔法とは違うの!」
智夏は二枚の呪符に素早く念を込め、空に放った後に印を結んだ。
「六根清浄急急如律令!!」
呪符は二頭の虎になり、左右から鬼へと攻撃を仕掛けた。
鬼は左側の虎にステッキを振り下ろす。虎は素早くステッキをかわし、後ろに回りこんだ。
もう一匹の虎が、右腕めがけて牙を立てる。が、虎の
鬼はその虎めがけて、ステッキを棍棒のごとく振り降ろした。
虎は一瞬で消滅した。
残った虎が、鬼の隙をついて攻撃を仕掛ける。
鬼は降り下ろされたステッキを、素早く振り上げ、虎の喉元に差し込んだ。
二匹の虎は消滅し、河川敷が静寂に包まれる。
鬼が、ゆっくりと智夏に近づいて行く。
「ゼーーンーパ~~~イ~~~」 「 ウ~~~~デーーー~~~~」
虎と対峙していた時の素早い動きではないが。じわじわと智夏を追い詰める。
「右腕は私が封印したままなのね」
「そうみたいだな」
九の声がした。智夏を安心させる声だ。
「右腕は使えない、なら左腕を集中攻撃するわ」
「できるか」
「するわ」
智夏が十二枚の呪符を空高く放った。
「オン・クビラ・バサラ・メキラ・アンテラ・アニラ・サンテラ・インダラ・ハイラ・マコラ・シンダラ・ショウトラ・ビカラ・ソワカ!」
早口でマントラを唱えた。呪符が、神将へと変化して、鬼を囲み次々と攻撃を掛ける。鬼は左腕のみで防戦するが、ステッキはなかなかヒットしない。
「この星でいう、集団リンチだね」
小動物が、智夏も少し心をかすめた言葉を口にした。
「仕方ないでしょう。あのステッキをが悪いんだから。あんたのせいよ」
鬼が連続攻撃の効果からか、ステッキを落とした。
コリコと揉めかけていた智夏だが、このチャンスは逃さない。
「ナウマク・サマンダバザラダン・カン」
新たに呪符を鬼めがけて放った。呪符は業火となり、鬼と神将を巻き込んで燃え上がる。
不思議な事に河川敷の雑草に火が移る事はなく、炎の映像を河川敷に被せているよな光景になる。
「オン・バサラダルマ・キリ」
智夏はもう一枚呪符を業火めがけて放った。
火は徐々に鎮火していく。業火の中で最後に放った呪符だけが燃える事なく旋回を繰り返していた。
旋回をやめた呪符が、ひらひらと落下していく。
呪符は、裸の小さな少女の胸に落ち、静かに消えていった。
不動明王の業火が、魔法少女のドレスを消滅させたしまったようだ。
静寂を取り戻した河川敷に、鬼の姿は見えなくなっていた。
「凄い魔法だね」
「だから魔法じゃないの」
智夏は、裸の少女に自分のジャージを着せ、抱き上げた。
「先輩・・・」
裸の少女は薄く目を開けたが、直ぐに気を失った。
「で、あんたはいつまで私の肩に乗っているの」
「仕方ないだろう、このままモモの家まで頼むよ」
陰陽少女は益々この小動物が嫌いになった。
朝日を頬に感じ、モモは目を覚ました。
いつも起きる時間だ。久しぶりに、ぐっすりと眠っていたような感じがする。
「うーーーーん」
ベッドの上で伸びをした。その時初めて違和感に気付いた。
「あれ、私なぜ裸なの?」
少女は昨晩の記憶を探る。
「確か変身して先輩の家に行ったような・・・」
うっすらと記憶は蘇るが、鬼に浸食されている間の記憶は無い。
最後に覚えているのは、夢うつつの中、先輩に抱かれていた自分だった。
「コリコ、
「うーん。
「萌える夜?」
「熱々だったよ」
「裸で、萌えて、熱々・・・」
モモは両手を頬にあて、顔を赤くした。
「シャ、シャワー浴びてくるわ」
モモはバスタオルを巻いて、いそいそと浴室へと向かった。
コリコはモモの後ろ姿を見送りながら、可愛らしく首を傾けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます