てんぱる、魔法少女

 「モモじゃない、レナ、今日は学校で何かあった?」

ステッキにまたがる少女の肩で、小動物がバランスよく乗っている。

見た目はリスのように見えるが、銀色の毛並みで、目がウサギのように赤い。

そして特徴的なのが、リスよりもかなり大きな、垂れた耳だ。

 「変身している時はレナでしょ、コリコ。何でそんな事聞くのよ?」

 「いや、変な奴が家に近づいて来たからさ」

コリコと呼ばれた小動物は、口を開いているわけでは無いのに、声を発しながら可愛く首を傾けた。

 「変な奴?」

 「そう、変な奴」

 「覚えがないわ」

 「・・・・・・・」

コリコはもう一度、無言で首を傾けた。

 「そんな事より、ポイントはまだ貯まらないの?」

 「まだ半分も貯まってないよ」

 「もうー どれだけ良い事をすれば夢が叶うの」

 レナはステッキを操りながら天を仰いだ。

 「言っただろ、貢献度でポイントは変わるんだよ。レナがしている事は確かに良い事だけど、ポイントが低いんだよ」

風で揺れる耳が少し気になるのか、コリコが初めて表情を出した。

 「高ポイントの良い事って何?」

 「それは僕にも分からないよ」

 「コリコの役立たず」

魔法少女と、小動物は仲が良いのだろう。「役立たず」と罵る方も、罵られる方も、いつもの掛け合いのように、ほのぼのした雰囲気だ。

 「今日は何処へいくんだ」

小動物の問に、レナはスマホを見せる。

 「警察無線を傍受してたら、高速道路で10台以上が絡む事故らしいの。助けに行くわ」

 「スマートホンは便利だね」

 「便利なのは、魔法のおかげよ」

レナは無表情な小動物にウインクをした。



 高速道路上で数か所、赤いランプが光っている。トンネル内に続く事故で救出が難航しているようだ。

 「大変だわ!」

レナがステッキを操り、トンネルに入って行った。魔法少女の出現で、事故現場がざわめき出した。

 「レナちゃんが来てくれたぞ!」

 「おー!!」

 「これで救助が進むぞ!」

トンネルの外では、歓声と共にレナコールが始まった。

トンネル内の数か所で、小さいが火の手が上がっている。

スプリンクラーの水で身体を濡らしながら、レナがステッキを操る。

ステッキが放つ輝きが、トンネル内の色を一瞬だけ変えていく。

 「レナ、また見られているぞ」

 「さっきの変な奴?」

 「そうだと思う」

小動物は、レナの肩でバランスを崩す事なく、無表情で式を目で追った。

式は先程の鳩ではなく、蜂の姿をして、空中で浮いているように見える。

 「今は救助に集中するわ」

魔法少女は車に閉じ込められている人達を、次々と外に運びだし、救急隊員にゆだねていった。

 「あと一人で、救助は終わり」

少しだけ安堵の表情を浮かべながら、横転している車へと急ぐレナの前で火柱が上がった。車から流れ出したガソリンに火の子から引火したのだ。

レナはステッキを振りながら、何とか前に進もうとするが、黒煙に阻まれて進めなでいる。

 「コリコどうしよう?!」

 「もっと魔法力を集中させるんだ」

必死でステッキを振りながら弱音を吐くレナに対して、黒煙を浴びても、無表情で指示をだすコリコ。表情には出ないが、バランスを崩してレナの肩に何とかしがみついた。

今までの救助活動で経験した事のない状況に、魔法少女と小動物の息が乱れる。

 「ナウマク・サマンダバサラダン・カン!」

真言マントラを響かせ、空中で停止していた蜂が業火をまとい火柱に飛び込んだ。

火柱が一瞬で飛散して、事故車への道が開いた。

 「レナ!」

 「うん!」

魔法少女が閉じ込められていた人を助け出し、トンネルの外へと連れ出した。

太陽が沈んだ道路上では、惜しみないレナコールと、拍手が響いていた。

レポーターがレナの元へと走って来た。

しかしレナは、いつもの笑顔を見せる事なく、暗い夜空へと消えて行った。



 「コリコ、変な奴はいない?」

 「そうだね、見当たらないな」

散りばめられた星明かりの中を、ステッキに跨った魔法少女が家路を急ぐ。

良い事をして、ポイントアップに繋がっているはずだが、気分は冴えない。

 「じゃあ、家に入っても大丈夫ね」

 「だと思うよ」

レナは窓から部屋に飛び込み、魔法を解いた。

パジャマに着替えて、ベットに潜り込む。

 「どうしたレナ?」

 「もうー 魔法を解いたらモモよ」

モモは天井を見つめて、溜息をついた。

 「コリコが言う変な奴がいなかったら、今日の人助けは失敗だったわ」

 「そうだね」

 「簡単に相槌を打たないでよ」

 「落ち込んでるの?」

この小動物は、人間の感性を理解しているのだろう。可愛い仕草で首をひねり、モモのベットに滑り込んだ。

 「少しね。これから先、私魔法少女やっていけるのかな」

小動物の頭を撫でながら、不安を口にする。

撫でられているコリコは、気持ちよさそうに目を細めた。

 「明日、僕も学校に行くよ」

 「変な奴の調査?」

 「うん」

 「姿を見られないでよ」

疲れているのだろう、モモはウトウトしながら、夢の世界に入った。

夢の中で、小さな男の子が泣いている。

 「どうしたの?」

モモは男の子に近づき、しゃがみ込んで、目線を合わせた。

しかし、男の子の顔はぼやけて分らない。だが泣いているのだけは分かる。

 「どうして泣いてるの?」

モモは男の子の顔を覗き込んだが、顔はやはりぼやけたままだ。

 「無いの」

ぼそりと声がした。

 「何が無いの?」

泣いている男の子の頭を撫でる。

 「持っていかれたの」

 「何を持っていかれたの?」

モモの脳裏に何故か、あの風呂敷包みのイメージが浮かんだ。

 「分ったわ、お姉ちゃんが取り返してあげる」

モモは立ち上がり、任せなさいと胸を張った時、顔に光を感じて目を覚ました。

ウトウトのつもりが、ガッツリと眠っていたようだ。

カーテンの隙間から、朝日がモモの顔を照らす。

眠っていたはずなのに、眠っていたような感覚が無い。何故か、身体がだるい。

シャワーを浴びればスッキリするだろうと思い、重い身体を引きずりながら、バスルームへと向かった。

ベットの上では、首をかしげながら、コリコがそんなモモの背中を見つめていた。







 


















 


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