時代は陰陽少女なんだから!

あずびー

魔法少女なんて  フン!!

 「さあ次の話題にまいりましょう」

 「次は何ですか?」

 「火事ですね」

 「最近、異様に火災が多いですね」

繁華街に映る巨大画面に、ワイドショーが流れるている。

待ち合わせの場所なのだろう、画面の下ではワイドョーを所在なく見る人や、スマホをあやつる人の姿が見える。

 「火事も多いですが、その現場で活躍する魔法少女の話題です」

 「レナちゃん、また大活躍したのですか」

巨大画面には、ビル火災の場面が映る。消防士達が必至で消化活動を行う中、ミニスカートをひるがえしながら、場違いなピンクのドレスを纏った中学生位の女の子が、ステッキを操り、上層階に残された人達を救助していた。

 「レナちゃん、凄いですねー」

 「はい、これたけのビル火災なのに、レナちゃんのおかげで死者はゼロです」

画面には、ビル火災とは違う時に撮られた映像だろう、オドオドしながら、ステッキを両手で握りしめ、インタビューを受ける魔法少女の姿が映し出されていた。

身長は140cmくらいで、金髪、碧眼。まるでアニメから飛び出してきたような美少女だ。

レナと呼ばれた魔法少女は、二、三質問されると、顔を真っ赤にして、変形したステッキに跨り飛んでいった。

 「レナちゃん、可愛いですねー」

 「本当! 正体を知りたいですね」

 「次の話題です」

画面は違うトピックスに移っていた。

巨大画面の下で、一人の少女が食い入るように、ワイドショーを見ていた。

学校帰りなのか、ブレザーの制服を着ている。

 「何が魔法少女よ」

制服の少女は周りに友達がいるかのように呟いた。

 「そう言うなや」

返事がした。いや、少女にしか聞こえない声だ。

少女の周りには、友達らしき人はいない。

 「だってムカつくのよ」

 「レナだっけ? 頑張っているじゃないか」

 「目立ち過ぎよ」

少女の横を通り過ぎる人が一瞬怪訝な顔をするが、耳にかけられたイヤホンを見て、納得するかのように歩き去る。ハンドゥフリーで会話しているように見えたのだろう、だが少女の耳にさされたイヤホンからは、流行りの曲が流れているだけだ。

 「目立ちたいのか?」

少女にしか聞こえない声が、以外そうに尋ねた。

 「違うわよ! ここは日本よ、それなのに魔法、魔法って、バカみたい」

 「ははは、陰陽少女のやきもちか。智夏ちからしいな」

姿なき声が笑う。

 「ちっ 違うわよ! フン!」

智夏と呼ばれた少女は、図星だったのか、短か目の髪を跳ねさせ、顔を少し赤らめて歩きだした。

少女、倉橋智夏。制服なのだろう、えんじ色のブレザーに、膝下まであるチェックのスカートをひるがえして、目的があるのか、繁華街を少し外れた路地へと足を急がせる。

路地に入ると、普通なら途絶える事がない人混みが途絶えた。

 「人払いの結界が張られているわね」

 「はははは、当たり前だ。こんな所で鬼を飼う奴だぞ」

 「それもそうね」

少女が人気ひとけのない路地を奥まで進むと、違和感を覚える建物が現れた。

しゃれた店構えの並ぶ路地に、普通の家がぽつんと建っている。

二階建てで、駐車場スペースにママチャリが置かれており、住宅街に行けば、普通に見られる家だ。

少女が家の外壁に触れると、空間が波紋のように広がった。

 「異空間を繋げているみたいね」

 「気をつけろよ、引きずり込まれるぞ」

姿なき声が警告を出した瞬間、外壁から腕が現れ、少女の腕を掴んできた。

普通の女の子なら悲鳴をあげ、パニックに陥る所だろうが、智夏はその腕を逆に掴み返し、略式印を結ぶ。

 「オン、ソンバ、二ソンバ、ウン、バサラ、ウンバッタ」

降三世明王呪を唱え、手刀で腕を切り落とした。

家の周りの空間が歪み始め、穴に吸い込まれるように、家が消滅し、空き地になった。空き地には、売地の看板が立てられていた。

 「急げよ」

姿なき声が語りかける。

 「分かってるわよ」

智夏は素早く風呂敷ふろしきを広げ、腕を拾い上げようとしたが動きを止める。

 「どうした?」

動さを止めている少女に姿なき声が問う。

 「き、気持ち悪いのよ」

少女が美しい顔を歪めて、腕をつまみ上げた。

人間の物と思われていた腕は、青色に変色していて、太い剛毛が生えている。

指の数が四本で、長い爪はマネキュアを塗られたかのように、赤黒い光沢を放っていた。

 「早く風呂敷に包んで、結界を張れ。鬼が腕を取り戻しにくるぜ」

 「分ってるわよ、こんな人込みで鬼に暴れられたら、私一人じゃ無理だもの」

家が消滅してしばらくすると、人並みが路地に流れ込んできた。

少女は素早く風呂敷を鞄に入れ、路地を後に駅へと急いだ。

そんな智夏の後姿を見送る人影があった。

人影は、智夏と同じ制服を着ている。駅へと急ぐ彼女がその視線に、気付く事はなかった。



 「次の授業なんだっけ?」

 「現国でしょ」

 「食後の授業は眠いわ」

教室で、学校あるあるの会話がされている。

私立天神女子大学付属高等学校。ここら辺では、「天女てんじょ高」と呼ばれる、お嬢様高校だ。

 「智夏~ 宿題やった?」

 「見ればわかるでしょう。今やってるとこ」

二年二組の教室で、倉橋智夏がパンをかじりながら、ノートを広げていた。

 「やったー!  一緒やろうよ」

 「あんた、いつも写すだけじゃない」

 「ハハハ、いいから、いいから」

智夏の友達、自称親友の佐伯友理奈さえきゆりなが短めのポニーテールを揺らしながら、机をひっつけた。

二年になって一か月半。クラス変えもあり、智夏にとって友人らしい友人は、この友理奈だけかもしれない。

 「もう、間違ってても知らないよ」

 「いいの、いいの。智夏と私は一蓮托生! 怒られる時は一緒に怒られてあげるから」

 「写すだけの人が何を言ってるのよ」

怒っているような物言いだが、智夏はこの友理奈の事を結構気に入っている。

図々しい所もあるが、人の陰口は言わない、秘密は守る。親友ではないけど、信頼できる友人と思っている。

 「倉橋さーん。面会よ」

宿題を終わらせ、友理奈が写すのを見ていた時、教室の後ろから声がした。

見ると、扉の所で一人の小さな女の子がお辞儀をした。

 「中等部の美瑠木みるきモモです」

モモと名乗る少女は、少し顔を赤らめハニカミながら智夏の顔を見た。

ツインテールが似合う少女で、智夏には幼く見える外見を更に幼く演出しているように見える。初めて見る顔で、名前にも記憶がない。

 「何か用かな?」

自分を尋ねられる理由が無いので、不審に思う。

 「ハイ! 昨夜の繁華街の件をお聞きしたくて」

 「!!!!!!!!!!」

モモは声を潜める事もなく、先生に挨拶をするを一年生のように笑顔で答えた。

智夏は思わずモモの手を取り、人気が無い階段の踊り場に連れて来た。

 「はっ! 繫華街って何!」

気が動転してしまっているのか、少し声を荒げがちになる。

 「ですから昨日の件です」

 「昨日? モモ・・ちゃんもあすこにいたの?」

 「はい、お気に入りのお店に行こうとしたら、何故かお店に着かなくて、迷っていると先輩が路地から出て来るのが見えて、・・・その後、いつものお店に行けたんです」

 「ふっ ふ~ん 不思議な話ね」

 「はい! で先輩、あの風呂敷は何ですか?」

無垢な笑顔が智夏を問つめた。

       ドン!!

智夏が壁に手を荒くつけた。ツインテールの少女はたじろいて、壁に背中を預ける。

 「あなた、何時いつから見てたの?」

智夏の迫力に押され、モモは口を閉ざしてしまった。いや、怯えて何も言えなくなってしまったのだ。

 「あなた、何者?」

智夏が顔を近づけ、モモに迫る。

 「お、落とし物は・・け、警察に届けな・・いといけないと・・おもいます」

涙ぐみながら、震える声が吐息交じりで聞こえた。

 「あーっ 智夏! 女子中学生を襲っちゃだめでしょう」

階段の上で友理奈が、頬を膨らませているのが見えた。

友理奈の位置から見ると、智夏が後輩に壁ドンをして、キスを強要している姿勢に見えたのだろう。

 「あっ! ごめん!」

智夏は慌てて距離をとったが、ツインテールの少女は、泣きながら走り去った。

 「智夏はああいうが好みなんだ。大丈夫、私、くちかたいから」

友理奈はモモが走り去った方を見ながら智夏に近づき、彼女の肩に手を置いた。

智夏は厄介な事になったと内心思い、教室に足を向ける。とりあえず放課後までは動けないもどかしさを引きずりながら。



 放課後、智夏は屋上に上がり式を飛ばした。

 「どうだ、見えるか?」

姿なき声が語りかける。

 「ええ今、正門前で捕まえたわ」

 「見失うなよ、あのむすめが鬼の波動を受けた可能性がある」

正門を通り、ツインテールをはずませながら走る少女の頭上を鳩が飛んでいた。智夏が放った式だ。彼女は、式が見ている映像を受け止め、脳内で処理して具現化している。陰陽技術の一つで「遠見」と名付けられている術だ。

遠見には、式が持ち帰った映像を見る方法と、智夏が行っているリアルタイムで画像を見る方法がある。後者の方がより霊力を求められると言われている。

モモの家に近づいたのか、彼女は走るのをやめ速足はやあしで歩いている。

鳩は高度を上げ、モモから距離を置いた。

 「どうした?」

 「変なの、結界らしき物が張ってあるの」

 「鬼か?」

 「違うわ、見たことのない術式よ」

智夏は慎重に式を操り、モモに近づこうとした時、視界が急に弾け、屋上の景色に切り替わった。

 「私の式が潰されたわ」

言うや、智夏は階段を駆け下り、モモの家へと向かった。

初めての屈辱。そして焦燥感が智夏の足を急がせた。

今まで土御門家、本家倉橋家に対しても引けを取らずに生きてきた智夏。

家出同然で修行に入った高野山でも、血筋から疎まれた。

分家の分家という立場と、今までの境遇を逆境にしてきた彼女のプライドが一瞬で壊されたのだ。

 「確かこのあたりなんだけど」

式が消えた辺りに見当をつけ、周りを見渡す智夏。だが、家を突き止める前に式が潰されたので、だいたいでしか分からない。

焦る気持ちを抑えている時、凄まじい気の流れを感じた。

       「スィートマジカル!!」

     きゅるるるん!    きゃらら!!!!

智夏の背後で虹色の光が一瞬弾けたかと思ったら、二階建ての家の窓から、ステッキに跨った金髪の少女が夕空に飛んで行くのが見えた。

 「魔法少女! レナちゃん?」

智夏は、夕日に溶けて行く魔法少女に、怪訝な気持ちを抱きながらも、再び式を放った。











 








 


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