2、女の子のためのチョコレートケーキその2
カランカラン、と懐かしいような音を立ててドアが開いて本日最初のお客さんがやってきた。
「おはよう、店長さん。いつものと携帯用の軽食をくれないか」
「おはようございます、飲み物の方は飲み物のコーヒーでよろしいですか?」
「ああ」
この渋い良い声で『いつもの』を注文してくれるのはシヴァさん。全身をダークグレーの長毛で包み犬耳を生やしたまごう事なき獣人だ。顔は完璧に狼。犬耳ではなくて狼耳だったか。
大きな体を部分的に鎧で包み、腰にショートソードを装備したシヴァさんは漢のロマンとも言うべき職業『
サイフォンでコポコポと抽出したコーヒーを出すと、満足気に頷き一口。また一つ頷くと近場のダンジョンの地図を取り出して見始めた。
今日のコーヒーもお気に召してくれたらしい。
いつものモーニングセットを準備していると、ふと顔を上げたシヴァさんが何かを見つめた後、呟いた。
「……女の子のためのチョコレートケーキ」
「……気になりますか?」
衝撃で聞き逃すところだった。この渋いオジ様がこのメニューに興味を示すとは。驚いたが、できるだけ表情を崩さぬようにして落ち着いた声で話しかけてみた。
「ああ、甘味は好きでね。妻と娘に土産として持って帰ると喜ぶものだから、私もよく食べるんだ」
そういうと目の前に出されたモーニングセットのサンドウィッチを手に取りつつ、カウンター席の隣にあるガラスケースへ目を向ける。
「一つ、チョコレートケーキを貰っても?」
「はい、わかりました」
こうして、女の子のためのチョコレートケーキの記念すべき一切れめはオジ様に頂かれた。朝からケーキとはこの人実は奥さんや娘さんよりも甘いものが好きなんじゃないだろうか。
さらにシヴァさんは帰りに持って帰るからとケーキを二切れ予約して今日の仕事へ向かった。
ちなみに他のケーキ達は名前の通り女の子によって消費された。昨日騒いでいた子らは、
「え!店長さんヘルシーなケーキ作ってくれたの!?え〜すご〜いうれしー!!」
とか言いながらいつもより多く食べていった。結局摂取カロリーは変わらないどころか増えたんじゃないかという言葉を、この騒がしい常連さんのために飲み込んだのは秘密だ。
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