第2話 溜息
「よし、それじゃあ今日はここまでだな」
授業終了の鐘が鳴ると同時に、数学の担当教師は教室を後にする。一秒の狂いもない、いつもと同じタイミングだ。
そうして昼休みが訪れると同時に俺は深い溜息を吐く。いくら考えても、今朝自分の身に起こった事が現実だと考えることが出来なかったのだ。そのくせに、周りはいつもと同じように弁当を食う準備をしている。頭がどうにかなりそうだ。
「どうしたの、そんなに考えこんで。わからない問題でもあったのかい? それとも恋煩いでもしたのかな」
妙に落ち着いた声が後ろから飛んできたが、クラスメイトの守藤 滋郎はその落ち着いた声色とは対照的な俺にしかわからないであろうニヤニヤした表情で俺に近づいてきた。
俺は開きっぱなしになっている空白のノートを眺めて再び溜息を吐く。
「人の顔を見るなり溜息を吐くなんて、君はずいぶんひどいことをする」
滋郎はニヤニヤ顔を崩さないまま絡んでくるが、今は現実を繋ぎ止めてくれるこいつの戯言が頼もしく思える。
「そうか、気付いてないのか。その辺の女子に鏡でも借りてきたらどうだ」
「それはご遠慮願いたい。こうみえて厄介事は避けて生きているんだよ」
そう言って苦笑いしているが、俺もそれを解って言ったつもりだ。
「それじゃあ、俺が借りてきてやろうか? 滋郎が貸して欲しいみたいなんだけど、ってな」
「殴ってでも止めさせて頂くよ」
本当にうんざりした表情で首を振っているが、実際その軽率な行動がトラブルしか呼ばないのは目に見えている。
「生まれ持ったモノだろ、気長に付き合っていけよ」
「それが面倒なんだけどね」
諦めに似たような溜息を吐いているが、それは贅沢な悩みだろうといつも思ってしまう。誰もが振り向く美男子。道を歩けば芸能スカウトがここぞとばかりに寄ってくるくらいなのだ。他に夢を持っていて、そんなモノには微塵も興味の無い本人からすれば迷惑な話だろう。
「それで、この度はどのような厄介事を抱え込んでしまったんだい」
自分の話をするのが嫌になったのか、俺に話を振ってくる。まあ、元々それを聞くためにやって来たのだろうが。
「話して解決出来る問題でもないんだよ。今回は本当に厄介かも知れない」
「そんなのはいつものこと。話して」
滋郎の助言で何とかなることは多々ある。トップクラスの成績を持つ頭の回転力は、さすがとしか言いようがない。
「そう言っても――」
今回は無理だと、喉まで出かかった所で猫が言っていたことを思い出した。
“時間ができたら、また屋上に来い”
たしか、そんな事を言っていた。ただし、一人で来いとは言ってはいなかった。滋郎は言葉を詰まらせた俺を訝しい表情で見ているが、俺はそのイケメンの肩を叩いた。
「分かった。見て貰った方が早い。ちょっとついてきてくれ」
そう言って俺は、親友と弁当をぶら下げて足早に屋上へと向かった。
「案外早く来たのね」
俺の姿を見るなり猫は当たり前のように口を開く。その空間だけ時間が止まっていたのか、最後に見た姿と同じ体勢だった。
「さすがに驚きだろ」
目の前でしゃべる猫に対して目を見開いている滋郎は何も返してこない。代わりに猫から声が飛んでくる。
「それで、そいつは何なの」
表情こそは変わっていないが、猫からはほのかに敵意を感じる。
「こいつは俺の親友の滋郎、別に一人で来いとは言われてないんだからいいだろ」
「確かに、そんなことは一言も言ってないわね。それは私に非があるから、特別に許してあげる」
そう言って溜息を吐いているが、まるで猫らしくない仕草だ。今までの常識(リアル)を見事に打ち砕いてくれる。
「一種族の常識なんて興味ないわ。くだらない事考えてないで、早くこっちに座りなさいよ。お友達の方がよっぽど回転が速いのね」
一瞬、猫が何を言っているのか分らなかったが、隣で電柱のように固まっていた滋郎は、新しいおもちゃを買って貰った少年のような嬉々とした表情に変わっている。
興味のあるモノにはすぐに飛びつくのは、昔から変わっていない。それを見て、俺もようやく冷静になってきた。夢であってくれと願っていたが、やはりこれは現実だ。それを受け入れてから、猫が寝そべっている近くに二人並んで腰をおろした。
「それで、君は一体何ものなんだ」
待ち切れなかったのか滋郎がすぐさま口を開いた。それとは対照的に猫はゆったりした口調で話を進める。
「あんたも初めにそれを聞くのね。まあ、気になるのは分かるわ。普通の人間からしたら猫が人に理解出来る言語を使うなんて、物語の中でしか存在しないでしょうしね」
「ずいぶんと勿体ぶった言い方をするな。その言い草だと、お前は異世界から来た、とでも言うんだろ」
「あら、よく分かっているじゃない。それとも早く話を進めたいから、適当なことを言っておいて私の口から答えを言わせたかっただけかしら」
猫は俺の心を見透かしたかの様に不敵に笑っている。そのどちらも半分ずつ当たっていたが、実際はほぼ確信していたから口に出したまでだ。あんなモノを見せられたら誰だってそう思う。
「そうだ、こっちは時間がないんだ。話すなら簡潔にしてくれ」
「時間の心配はしなくても大丈夫よ」
手品の種を明かすかのようにつまらなそうに言ってくるが、何が大丈夫なのか俺にはまったく分からない。問いただそうとする前に、隣から声が聞こえた。
「確かに大丈夫そうだね。これ見て」
滋郎は腕に巻かれていた、なんたらとかいう有名メーカーの時計を俺に向けてくる。それを覗きこんでから俺は猫の言葉をようやく理解する。ポケットから携帯を出して確認してみるが、いつもは動いている数字は止まっていた。
「簡単な事よ。さっきいた場所から私達を切り離しただけ、ここは……そうね、分かりやすく言うと、時間っていう概念の存在しない場所。さっきの場所に留まっているよりはよっぽど時間に余裕が出来るわ。あまり長くいると同調しちゃうし、残ってる魔力がもったいないから話は手短にするけど」
周りを見ると、いつの間にか景色というものは無く見渡す限りの黒だった。それなのに、猫と滋郎がはっきりと見えている――いや分かる。
「どういうカラクリだよ」
「光が存在しない空間に送り込まれたってところかな」
本当に混乱してきた俺と違って滋郎は冷静だった。すぐに今の状況を把握したようだ。だけど、言っている事はわからなかった。
「貴方、なかなかセンスが良いわね。正確には動くっていうモノが無い空間かな」
「そうか――なるほど。今実際に話しているのも、信号でしかないのかな」
何が分かったのか俺には理解が出来ないが、それは後で説明して貰うとしよう。今、肝心なのは何故こんな所にいるかって事よりも、早くこんな所からおさらばすることだ。
「分かった――正直分かってはないが、今それは置いておこう。ここがどこでも良いから、早く話を進めてくれ」
「そんなに急かさなくても、話は聞いて貰うから」
大きなあくびをしながら言われても全く説得力がなかったが、話を聞けと言いだしたのは猫だ。黙って話し始めるのを待つことにする。しばらく沈黙が流れて、ようやく猫は口を開いた。
「まず、私が何モノかってことを話そうかしらね。二人揃って、それが聞きたいみたいだから」
「そうだね、確かに疑問だ。君はどんな種族に当たるのかな」
次に発せられる言葉に予想は付いていた――いや、知っている。
「悪魔――だろ」
「ご明察。そう言われるのはあまり嬉しくはないんだけどね」
興味なさそうに呟いている。おそらく、俺が知っていることに気が付いていたのだろう。
「それはあくまで人の認識で言うところの悪魔ってことでいいのかな」
「それも正解」
滋郎は滋郎なりに何か理解したようだが、これまた俺にはさっぱりだ。しかし、滋郎が正しい考えを持っているのも間違いないようだ。
「それで、そんな悪魔様が俺にいったい何の用なんだ」
自分で悪魔だと言い張っている生物が、道で偶然出会っただけの高校生に用があるとは思えなかった。
「自分では気付いてないようね。お友達の方は――聞くまでもないわね」
滋郎の方に目をやると、両手のひらを天に向け肩をすかして見せる。どっちとも取れる仕草だったが、おそらく何か気付いているんだろう。昔からおそろしく勘の働く奴だからな。
「まず、私が何で自分世界――魔界って言った方が分かりやすいかしら、魔界からこちら側の世界に来たのかって事を話すわ」
長い時間に感じられるような一呼吸置いてから猫は話を始めた。
「私たちの世界では、二つの大きな勢力が存在していたの。私達は<新>と<旧>と呼び合っていたわ。初めは別に争いとかはなかったけど、その内にどちらが上か下か言い始めちゃって。使っている魔具が違うってだけの話なのにね」
聞きなれない言葉に思わず顔をしかめる。
「マグ?」
「そう、力を使う時に媒体とするモノね。自分の中にある魔力を外に引き出す為に使う道具のこと。私の場合はこのリングね」
猫は右前脚を上げて見せてくる。そこには見なれないピンク色の宝石のついた黒いリングを見せてくる。
「たまに、こういうのがなくても自分の魔力を引き出しちゃうのもいるけど、それは例外ね。そういう奴らは決まって<独>になっちゃうし。群れなくても負ける心配がほとんどないからね」
群れるという言葉に妙な違和感を覚えた。なんと言うか、仲間意識が感じられない。
「それは、初めから存在しているのかい」滋郎も似たようなことを思ったらしい。
「それっていうのは派閥の事かな。初めはなかったみたいね。でも、いつしか持っている魔具の特性の差によって、お互いどちらが優秀かと競うようになってきたみたいね」
「なってきたみたい?」過去形なのが気になった。
「ああ、それの発端みたいなのは私が生まれるずっと前の話みたいだから。私が生まれた時にはすでに戦争は起きてしまっていたわ」
大きなため息を吐いているから、それが大変な事はわかった。だけど――
「それでお前はその戦争から逃げ出してきて、そんな愚痴を聞かせるためだけに、俺を捕まえたのか」
「それだと私も助かったんだけど、現実はそうも上手くいかないわ」
俺を小馬鹿にした態度で首を横に振っているのが腹立たしいが、その言葉が意味している事はトラブルの匂いしかない。
「つまり、戦況があまり良くないってことなのかな」
滋郎は、当たり障りの無い言葉を選んで核心をつこうとしている。
「ああ、その戦争は別に大したことなかったのよ。この間私たち<旧>が圧勝したから。長いこと戦ってはいたけど、こっちは守ってるだけだったから」
それを聞いて俺達は顔を見合わせる。話がまたわからなくなってきた。そんな俺たちをみて、猫はわざとらしく溜息を吐く。
「問題はその後。勝ったのは勝ったけど、少なからず残党もいるわ。そいつらがとんでもない暴挙にでたの。まあ、別に害なんてないだろうって放っておいたのもいけなかったんだけどね」
「自爆テロでも始めたのか」
冗談で言ったつもりだったが、的は射ていたようだ。猫は自嘲気味に鼻を鳴らす。
「少し違うけど、似たようなモノね。どうして私たちがあなた達人間から悪魔と呼ばれているか、わかるかしら」
「人に害を与えるからじゃないのか」適当だ
「人の心を奪って、それを操るから。もちろん、それは等価交換なんだろうけどね」
滋郎の方がまともな回答をした。猫は出来の良い生徒を見るような表情になる。
「どちらも正解――だけど、完璧じゃないかな。私たちは今回みたいな例外がない限りは、自らこちら側の世界に来ることは皆無に等しいの。それじゃあ、いったいどうやってこっちに来るのか」
それは予想が出来た。
「黒魔術って奴だろ。生贄を捧げてって感じの」
「基本的にはね。一応それ以外にも私たちを呼ぶ方法はあるんだけどね。人類って成功したモノにすがる生き物だから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど……」
妙に馬鹿にされている気分だったが、否定することも出来ない。どこを見ても右に左に前に後ろに倣うのは、確かに人間の専売特許だ。中には新しい事を始められる天才も存在するのだが。
「それが何か関係するのか」
「関係も何も、何故私たちがこちらの世界に呼ばれるか。何故、それを黒魔術と呼ぶのか。何故、悪いイメージしか与えないのか。考えて見た事は無いの」
そんな縁遠いモノにイチイチ思考を廻らすことなんてある訳がない。だけど、言われてみると確かに不思議なモノだ。
「つまりは、人が悪用することにしか使わないから、悪っていう言葉しか付かない」
俺が考え始めると同時に滋郎が意見を述べる。
「そう。本来、私たちの力は人を助ける為にあるモノ。ああ、これは私達からって意味でね。私たちは契約した人を助ける。だけど、その人は何に使うかはその人次第って訳」
なるほど。過去に悪魔と契約した人間が全て悪事に使ったかは分らないが、人には成し得ない悪魔のような行動をとった人間は、例外なく悪に身を染めていたのだろう。善に使った例があったとしても、探しても出てこないだろう。
「今の話から察すると、君たちは基本的に呼ばれない限りはこちら側には来られないってことだよね」
「少し違うわね。来られないんじゃなくて“来ない”の」
どうにも気になる言い方だった。
「上から言われているのは気のせいかな」
滋郎が俺の靄を代弁してくれるが、猫も当たり前のように頷く。
「何故私たちが下から請わなければいけないのよ。私たちの力はこの世界だと過ぎた力よ。例外はあるにしてもね」
「その例外って言うのが、今回ってことかな」
「そうね。これも悪い例外ね。本来なら、こちらは頼まれての契約を行うわ。契約内容はそれぞれだけどね。命を貰うのもいれば、無償なのもいる。制約を付けるのもいる。だけど、今回はそれが逆になってしまった」
猫は大きく溜息を吐いた。
「なるほどな。それはお前たちじゃなくて、その戦争で負けた連中がってことか」
俺の言葉に猫は大きく頷く。
「そういうこと。勝ったと言っても、すべてを制圧するのは不可能。その残党が巻き返しを謀るためにこの世界にやってきたってこと。魔界の掟を破ってね」
「掟? その言い方だと、やっぱりいつでも来れる訳でもないのか」
上からモノを言っていたくせにと思うが、猫は首を振る。
「もちろんいつでも来られるわよ。だけど、安易にこの世界にきてバカスカと契約したら、ここは一体どうなるのよ。少しは考えてみなさい」
「魔界での法律ってことだね」
「そこまで、大層なモノでもないわよ。もともと魔界に法律なんてモノはないしね。あくまで自主規制程度ね」
「そんなことだから、そういう奴が出てきたってことだな。まったくどうにかしてるな」
法律が無いことには驚いたが、定めないといけないモノを定めない魔界の長が悪い。
「そうかしら、私から言わせれば法律とかで縛られないと、平和に生きていけない世界の方がよっぽどどうにかしていると思うけど」
くだらないドラマを見ているかの様な目で言ってくるが、どんな世界にもルールは必要だ。
「確かにそうかもしれない。ルールがなくても平和に生きていけるぐらい、賢くて理性を持っている生物から見れば、そう見えるのかもね」
皮肉にも聞こえるように滋郎は言うが、そういわれると正論だと思ってしまう。しかし
「でも、お前らも戦争してたんだろ」
「まあ、どこの世界にも問題は山のようにあると思うけどね。その方向性が違うってだけの話よ」
確かに、実際ルールで束縛されてるこの世界でも戦争は起きている。
「そうだな――お前らの問題は概ね分かった。戦争に負けた国の残党を捕まえに来たんだな。それで、なんで俺なんかに用があるんだ」
「そう、それが問題なのよね」
偉く神妙な面持ちでうなだれる。何がそんなにまずいのだろうか。
「こっちの世界は、魔界と違って私たち自身が魔力を使うことが出来ないの。だから、あなたの力を私に貸して欲しい」
俺はイマイチ理屈が把握できないが、滋郎は理解したようだ。
「何らかの制約があるせいで、魔族単体では本来の力を使えない。だから、人と契約を結ばないと駄目ってことかな」
「まあ、そんなところね。概ね正解」
でも、そうなってくると一つ矛盾が生じる。
「それじゃあ、朝に俺をここまで連れて来たのは、どういうカラクリなんだ。それにこの空間も」
「あれは特別な方法――と言うよりサービス魔法。魔法を実際見せるために一度だけ使えるのよ。そうでもしないと人間って契約してくれないから。この空間に関しては説明すのが面倒だらか、機会があればね」
「確かにそうかも。何事も実演販売している方が分かりやすくて売れ易いからね」
妙に納得した声音で滋郎は頷いている。
「それは分かったが、どうして俺が契約しないといけないんだよ。実演された所で、その力が必要なければ断る権利ぐらいあるんじゃないのか」
一方的に話を進められても、こちらとしては迷惑なだけだ。
「だから、一度しか使えないのよ。この先誰かとあった所で、実演なしじゃ契約なんてしてくれないわよ」
「ちょっと待て! 一回ってのは本当に初めの一回しか使えないのか!」
「もちろんよ。そんなにたくさん使えたら、制約の意味を成さないじゃないの」
「そんなモノをあっさり使っちまったお前の問題だろ」
ずいぶんと間の抜けた悪魔がいたもんだ、と思ったが滋郎はそう考えなかったようだ。
「君は随分と策略家なんだね」
「やっぱりあなたは随分と頭が回るようね」
二人の間でなにやら不穏なやり取りが行われている。何かはわからないが、俺にはデメリットしかないような会話に聞こえる。
「待て、別に契約が難しくなるだけで、取れなくなる訳ではないだろ。他を当たってくれ」
そんな厄介事に巻き込まれたくはない。
「あら、そんな事言っても良いのかしら。その一回限りの魔力を使ったのは貴方の為なのに」
ぬけぬけとそんな事を言い放つが――
「原因はそもそもお前だろうが、お前が俺に絡んで来なかったら遅刻なんてしなかった」
「私は別に絡んでなんていないわよ。あれは独り言よ」
のんびりした口調で話しながら、前足で顔を掻いている。何の説得力もない。嘘八百もいいところだ。
「じゃあ、あれは俺も独り言だったんだ」
事実そうだ。
「でも、その後貴方は私をジロジロといやらしい目で見て来たわ。つまり、突っかかって来たのは貴方の方からになるわ」
「いやらしい目では見てねーよ!」
「あらそう。でも、貴方からって言うのは認めるのね」
その原理で行くなら、そうなるが何か納得いかない。
「その猫も、自分の声が他人に届くなんて思ってもなかったなら、確かに独り言だよね。それに声を掛けたんなら、事の発端はやはり君からということになるんじゃないかな」
どちらの味方なのか、滋郎はニヤニヤしながらそんな事を言ってくる。俺のトラブルを楽しんでいるようにしか思えない。
「確かに、今こういう状況に置かれているのは他でもなく俺の責任だ。それは認めよう。あの時間にあの場所を歩き、あのタイミングで呟いた俺を責めるべきだ。それはわかっちゃいるんだが……」
さすがに事が大きすぎる。魔界だか何だか知らないが、一つの世界の一大事に俺なんかが力を貸した所で事足りるのか、疑問でしかない。
「あら、それは大丈夫よ。その辺に転がっている人間なんかより、よっぽど適性があるわ」
「何を根拠に――」
俺の疑問を打ち消すように滋郎が口を開く。
「それなら、僕も保障しよう。真佳の正義感は誰にも負けない」
「いつも言っているだろ、俺に正義もクソもない。俺が思うように動いているだけだ」
何度したか分らないやり取りをして俺は溜息を吐く。
「あら、そこまで資質があるなら問題ないわね」
「だから、勝手に話を進めるんじゃねえ!」
俺の怒鳴り声にも微動だにせずに、猫はこちらをまっすぐと見据えてくる。これまでには無い真剣な眼差しだ。
「ほら、真佳。彼女は本気だよ。協力してあげなよ」
「お前、他人事だと思って……おい、猫、少し考えさせてくれ。明日には返事してやる。だから少し待て」
「分かった。それじゃあ、明日まで待ってあげるわ。その位ならまだ代わりを探す時間もあるだろうしね」
そう言って猫は瞼を閉じる。それと同時に暗闇は消え、見慣れたコンクリート世界が広がる。
「いい返事を期待してるわ。なるべく早く決めてくれると助かるんだけどね。それじゃあね」
最後のそう言い残して、猫は転落防止の柵を飛び越して行った。
「なんで俺なんだ……」
隣でにやけている奴の肩を一度殴ってから、俺は溜息を吐く。
「とりあえず、ご飯でも食べようか」
滋郎はわざとらしく肩をさすってから、弁当を広げ始めた。
「そうだな」
ぐだぐだ考えても仕方ないので、俺もそれに倣うことにした。疲れた脳が糖度を求めていたのか、いつもと変わらない弁当が格別にうまく感じた。
海馬がまったく働くことなく授業も終わり、我ら学生の日課が終了する。教師たちのありがたいお言葉が頭に入ってこなかったのも、全ては訳の分らない猫に惑わされているおかげだ。一刻も早く家に戻り頭を整理したかったので、早足に学校を去ろうとしたのだが、それは叶わなかった。教室を出た瞬間に横から腕を掴まれた。
「ちょっと、どこに行くつもり」
子供の頃から嫌と言う程聞き飽きた声が飛んできてげんなりとする。小さな手のひらに込められている力はいつも通り相当強かった。逃がさないという意思が多いに表れていた。
「サクラよ。今日は本当に勘弁してくれ、俺は今とてつもなく重大な危機に見舞われているんだ」
わざとらしく溜息を吐いてみたが、まったく効果を発揮しない事はわかっていた。
「まーた溜息なんて――幸せが逃げるわよ」
満面の笑みでありきたりなセリフを吐いているが、突っ込み所が的を射ていない――それどころか、銃口が的に向いてすらいない。
「お前が俺を待ち伏せなんてしていなければ、そもそも溜息を吐くこともなかっただろうにな」
棘をむき出しにして放ってみるが、サクラの鋼鉄の心臓には刺さることはない。
「だって、待ち伏せでもしないと、すぐに逃げるんだもん」
「そんなヒョットコみたいな顔しても無駄だ。なんの義理があって毎度毎度荷物持ちをせにゃならんのだ」
何やら口を尖らせながら、ごにょごにょと口篭もっている隙に、おでこに軽い平手打ちをくらわす。奇妙な悲鳴を上げて、サクラはヒョットコからタコに進化した。ゆるくなった手を力ずくで振り解きダッシュで逃げる。
「あっ! コラー逃げるな! あとで覚えてろよー」
何やらおっかない声が後ろから飛んでくるが、アイスの一つで元に戻る機嫌なんかに振り回されている暇はない。
――すまん
心の中では謝罪をしながら、一人の空間を与えてくれる己の城へと直行するのだった。
「あら、早かったのね。おかえりなさい」
一人暮らしのマンションのドアを開けた瞬間に、あたり前のように俺の帰りを待っていたモノがそう言い放った瞬間、悲鳴を上げそうになった。
しかし、それ以上の驚きが勝り、声にはならなかった。幸い今日一日――いや、この半日で驚くべきことが多すぎたせいか、それを把握する程度に脳の処理速度が上がっているようだ。しばらくして、黒い悪魔に問いかける余裕は出来た。
「お帰りじゃねーよ。なんでここが俺の家だって分かったんだよ」
何故初めにそんな言葉が出てきたかは分らないが、俺の第一声は思ったよりも冷静だった。
「そんなの決まってるじゃない。貴方の魔力は一度感じてるんだから、それと同じ魔力がより濃く流れている空間を探すだけ。簡単に見つけられたわ」
何が決まっていて、何が決まっていないのかは俺には分からないが、どうやら成功率百%のストーキングスキルを持ち合わせていることだけは分かった。性質が悪いにも程があるだろう。
「つーかよ。そんなスキルあるなら、その反対勢力とかの魔力を探して、さっさと倒しちまえばいいんじゃねーの」
猫は虫でも見ている様な目をして首を横に振っている。
「説明聞いてなかった? 私達はこっちの世界じゃ単独で魔法を使えないって、契約者が必要なのよ。見つけた所で、どうやってやっつけるのよ」
「そういえば、そんなこと言ってたな」
「だから、早く契約して貰えるとありがたいんだけどね」
期待の眼差しを向けてくるが、俺に何が出来るというのか疑問だ。それに、何故そんなに急いでいるのか……一つの疑問がよぎる。
「つーかさ、そのお前らの対抗勢力って言うのが今どれくらいの数の契約をしているか分かってるのか? そもそも、敵と味方ってどれくらいいるんだ」
「それが分らないから、急いでるんじゃない」
猫は残念そうに溜息を吐いた。だが、状況を把握できてないって事はまだ大きな動きがないってことじゃないのか。それならば、急ぐ必要もないのではないかと思う。
「こっちの世界の生物――あなた達人間は、いつもそうやって目の前の危険を無視してはとんでもない事件に発展しているのに、まったく学習しないのね」
またもや俺の心を読んだのか、そんな事を言ってくる。少し慣れてきたが、どうにも腹が立つ。ただ、猫の言っていることが事実なのは否定しない。
「確かにな。変な宗教があるけど、今のところ害はないから放っておこうっていう考えが大量殺人を呼ぶ世界だからな」
「あら、案外物分かりが良いのね。頭は少し足りてないと思ってたんだけど」
勉強嫌いの俺は、その言葉には何も反論出来なかった。テストがあれば、いつも下から数えた方が早いからな。
「でも、知識と知恵は別物だからな」それが俺の信条だ。決して言い訳ではない。
「良いこと言うじゃない、見かけによらず。でも、どちらも持っているに越したことはないわよ。荷物になることがないから」もっともだが……
「まあ、その内な」
明かに適当な俺の言葉に、猫は呆れたように首を振った。
「そんな逃げの言葉ばかり使ってるから、馬鹿面なのよ」
「さっきから、外見の事ばっかり言うんじゃねーよ! そんなに言うほど馬鹿面してないだろうが!」
「あら、一度鏡見てきた方がいいわよ。整ってはいるけど、知的さは微塵も感じられないわ」
あまりにも当然のごとく言ってくるので、返す言葉もなかった。それは俺も承知しているところだったからだ。一度溜息をついてから頭の熱を下げる。
「まあいい。話が逸れたな。つまり、火は小さい内に消しておこうって寸法なわけだな。ってーことはだな――お前らの敵はまだ、そこまでの戦力が整っていないってことだよな」
「そうね。憶測の域を出ることはないけど、私の考えではまだ契約を交わしている奴らはいないと思っているわ」
そこで、一つの疑問を抱いた。
「まあ、それは魔力探知とやらで分かってんだろうけど、この広い世界全部を把握できるのか」
「それは簡単よ。この世界の生物全ての魔力を探ることができるわ。元の魔力さえ解っていればね。それに、こっちの魔力と魔界の魔力じゃ少し違うから、すぐにわかるわ」
ならば、ならばと思う。
「今、俺が契約して、その力なき残存勢力とやらを倒してしまえば、俺達の世界に被害が出ることは無いってことだよな」
さらには、もう付きまとわれることも無くなるってことだ。
「まあ、そういうことになるわね。今の状況ならそんなに時間も掛からないだろうし、簡単なことよ」
「だけど、敵は世界中に散らばってるんだろ。どうやって倒しに行くんだよ」
「貴方ね、今日遅刻しなかった理由を忘れたの。契約したら、あんなの使いたい放題よ」
それを聞いた時点で、答えは出た。
「わかった、手伝ってやる。一週間で終わらせてやるよ」
「そう。助かるわ」
猫は、その答えが返ってくるのを知っていたかの様に冷静な返事を返してきた。
「それじゃあ、契約に取り掛かりましょうか」
「そういえば、そんなこと言ってたな。いったい何をするんだ」
「すぐ済むから、動かないでね」
ゆったりと立ち上がり、こちらに近づいてくる。今朝と同じように俺の肩に飛び乗り、俺の口元に顔を近づけてくる。
「ちょっと待て! いったい何すんだよ!」
思わず顔を反らして叫ぶ。
「何って、キスよキス。そうしないと契約出来ないんだから、仕方ないじゃない」
猫なので表情は読み取れないが、いやらしく微笑んでいる気配が垣間見える。
「それとも、初めてだったりするの」
「ばっか! おま……」
図星を突かれて動揺してしまう。
「そうなんだ。かわいいじゃない」
「ちげーよ! 猫とキスなんてすることに抵抗があるんだよ!」
「ふーん。この姿とじゃあ、嫌って訳ね」
猫はさらに表情を緩ませて、肩から降りていく。一度体を震わせたと思った直後に、猫の体から光が放たれた。全てが真っ白に見えるくらい、強烈な光だった。
眩しさに負けて目を瞑っていると、さっきまでとは若干質の違う、妙に大人びた声音が聞こえてくる。
「うーん。やっぱり、元の姿って楽ね」
どうやら、発光の原因は猫が元の姿とやらに戻ったせいのようだ。どんなモノか拝んでやろうと、瞼を開く。
「なっ……!」
まったく言葉にならなかった。目の前でとんでもない美女が背伸びをしていた。
「あら、どうしたのよ、黙りこんじゃって。もしかして、タイプだった」
人と全く同じ作りをしている……その上に、かなり整った顔立ち、ハリウッド女優にも負けずとも劣らないグラマラスな体に呆然としてしまった。その顔はいやらしく笑っているが、それは女子高生の作れるモノではないように思った。
「お前、そんな歳だったのか!」
「トシ? ああ、生きてきた期間のことね。そんな基準私たちには無いわよ。こっちで言う時間とかって、要は空間と物体の動作関係でしかないし、魔力さえあれば生き続けられる私たちからすれば、必要ないのよね」
よくわからないことを言っているが、今理論は滋郎にでも聞くとしよう。それよりも――
「なんで、俺の学校の制服着てるんだよ!」
「今日見た中で、この服が一番可愛かったのよね。似合ってるでしょ」
そう言ってくるりと回っている。その姿を見ると、学校の生徒にしか見えない。そして、悔しいことに見蕩れてしまう程、似合っている。
そんな俺を見透かしたかのように、猫から変化を遂げた美女はこちらを向きにんまりと笑う。
「これで文句はないんでしょ? それじゃあ早速、契約に入りましょうか」
それを聞いた瞬間に体が硬直する。まるで魔法にかかったように、自分の意志で指一つ動かない――気がした。
とりあえず逃げようと頭が考え着いた時には、整った顔がもう目の前まであった。思わず悲鳴が出そうになったが、俺もそこまで間抜けではなかった。
「ま、待て。やっぱり猫の姿のほうが良いだろ、ほ、ほら、そのほうがさ、なんていうか……」
何とか言いくるめようとしている俺を無視して、どんどん顔は近づいてくる。必死の抵抗で体を反らす。その勢いで、後ろにあったベッドに倒れこんでしまったが、そこで体が動く感覚を思い出した。
これでなんとか抵抗出来ると思ったが、女の行動は早かった。
「もしかして、逃げられるとか思った?」
俺の逃げ道をふせぐように覆いかぶさるように立ちはだかる、体を起こそうとした状態で身動きが取れなくなる。目の前にやたらと柔らかそうに膨らんでいる山が立ちはだかっていたのも、俺の思考を止めるには十分な破壊力だ。
「おい、やめろ……」
徐々に近づいてくる顔に向かって言ってはみるが、その声にはまったく力がこもっていない。その口が相手の口で塞がれようとした瞬間、部屋の中にインターフォンの間抜けな音が流れ込んできた。
「マサヨシ! いるのは分かってるのよ。観念して出てきなさい」
ドアを叩く音と共に、サクラの怒声が聞こえてくる。何を思ったのか家まで追いかけて来たらしい……今のその執念に感謝したいと思ったのも束の間、今度はドアノブが回る気配を感じた。
その瞬間、いつもなら部屋に入るなりすぐに掛けるはずの鍵を、非常事態により掛け忘れていたことに気付き、さらに今の俺の状況を確認する。
「あれ? 珍しく開いてるじゃん」
「サクラ! ちょっと待――」
嫌な汗を掻きまくった俺の悲鳴は誰にも届く事はなく、ドアは開かれる。
「マサヨシ、さっき逃げたのは許さ……」
ぶつくさと言いながら、部屋に侵入してきたクラスメイトは俺の――俺達の姿を見て、靴を脱ごうとした体勢のまま硬直した。その瞬間、空間が止まる気配を感じた。
しばらくの無音が過ぎ去ってから、サクラが俯きながらフルフル、ワナワナと震え始めた。
「そういう事するなら、鍵ぐらい閉めなさいよ!」
「そこかよ!」思わずツッコミを入れてしまう。
サクラは先程開けた筈ドアを再び開けて、突風のように部屋を飛び出していく。それを見て体から力が抜けるのを感じた。
「まあ、この状況見ると勘違いもするか」
先ほどまで動かなかった体が、嘘のように軽くなっている。
「やりすぎちゃった?」
目の前の美女は悪戯がばれた子供のように舌をペロリと出した。そんなのはいいから、早く退いてくれ――そう言おうとした瞬間、再び玄関からドアノブの回る音が聞こえる。俺の頭も再び真っ白になる。
「ちょっと真、いつも言ってるけど、部屋にいる時でも鍵は閉めなよ」
俺のお説教を食らわせながら靴を脱ごうとしている。その片手にはいつも様にスーパーの買い物袋が持たれている。
「なんだよ、姉貴か。驚かせるなよ」
思わずホッとしてしまった。
「むしろ、こっちが驚いてんだけど。それ、一体どういう状況なの。さっきサクラちゃんが泣きながら走って行ったのと無関係じゃ無さそうだね」
むしろ泣きたいのはこっちだと思ったが、言われて見てからはっとした。いくら姉貴でもこの状況はマズイ事に今更気が付く。
「これには深い訳があるんだよ。話せば……」分かる。
そう言いたいのは山々だったが、いったい何をどう話すのか。正直、この姉に絶対話したくはない。
「何? もしかして、話すつもりは無いの」
軽蔑と好機の視線を向けてくるが、話せないモノは話せない。厄介な事にしかならないのは目に見えている。
「ってか、その前によ。今日は来る予定でもなけりゃ、そんな連絡を貰った記憶もない。急にどうしたんだよ」
大学生の姉は本来なら毎週水曜日に俺の根城に乗り込んで来る。しかも勝手に。
「今日はバイト先で肉が安かったから買って来てあげたんじゃん。それが来てみればこの有様ってどういうこと」
いつもより鋭さを増した目で見てくる。何をどういえばいいのか考えていると、急に目の前から溜息が聞こえてくる。
「すいません、ちょっとした事故なんです」
先ほどまであった肌の温もりが急に遠のいて行く。その根源であった悪魔は姉貴の前に立ち口を開く。
「実は私、今日この街に引っ越して来たばっかりで近くを探索してたんです。その時に彼と出会ったんです」
とんだハッタリをかまし始めたが、勘の鋭い姉貴にそれは通用するとは思えない。
「そうなの。でも貴方みたいに綺麗な娘が、わざわざこんな出来そこないの弟なんかに声をかけるとは思えないんだけど?」
「そうでしょうか? 私には優しそうな方だとお見受けしましたが? こうして必要な教科書も教えて貰いましたし」
そう言いながら、一枚のメモを見せ始める。
――いつの間にそんなモン用意してやがった。
「ちょっと確認していいかしら。私もあそこの卒業生だから、嘘ならすぐにわかるわ」
そのやりとりを見て気付く。確かにそのメモに、本当に必要な教科書が記されているとは限らない――いや、記されている筈がない。教えてないんだから。
「ええ、構いませんよ」
悪魔はにっこりと微笑み、潔くメモを渡す――その瞬間に俺は終わったと腹をくくる。
怒りに震えた姉貴の怒声が聞こえてくると身構えたが、いくら待てども恐怖は訪れなかった。代わりに聞こえてきたのは、小さな溜息だった。
「なるほどね。この話に関しては本当みたいね」
何が本当だって? 思わず聞きそうになったが、声は喉の奥で踏みとどまった。
「わかって貰えたようで光栄です」
その二つの顔は表面上だけ微笑んでいるが、その背後には黒いオーラが渦巻いている。
「それはわかったんだけど、その出会ったばっかりの男女がベッドの上で何をしようとしてたのかも教えてくれると、お姉さん嬉しんだけど」
まだ、白旗は上げてないぞと、最後の急所を突いてくる。確かに、あの状況は言い訳が出来ない。実際に押し倒されたわけだしな。
「あの時は、必要な教科書も教えて頂いたのでそろそろ帰ろうとしていたのです。それでお礼をしようと思って」
何の弁解にもなっていない、無理な言い訳にしか聞こえなかった。思わず目を覆いたくなったが、姉貴もこの失策を見逃さない。
「ふーん。それじゃあ、貴女は体でお礼しようとしてたわけ」
「あら、それは勘違いもいいとろですよ。私は、お礼しようと立ち上がったんですが、バランスを崩して彼を巻き込んで転んでしまったんです」
にっこりとほほ笑みながら、さらりと嘘を吐いている。そんな分かりやすいウソを姉貴が信じるとも思えないが、悪魔は続ける。
「それに、もしそんなことするんなら、鍵ぐらい閉めてするものだと思いますけど。それとも、貴女は――」
そこまで言ってから、いやらしく微笑む。その微笑みだけ見れば、高校生だと誰が信じるだろうか。しかし、その言葉は姉貴を黙らせるには効果的だったようだ。若干頬を赤らめ口が固く閉じられている。
「わかった、それじゃあ貴方は早く帰りなさい。帰る所だったんでしょ」
どうにも納得していない様子だったが、ようやくといった感じで言葉を発した。
「ええ、もちろん。もう用事はすみましたから」
悪魔はにっこりと微笑んで、玄関の方に向かう。
「それじゃあ、マサヨシ君。また学校で」
不吉な事を言い残して、悪魔は俺の部屋からいなくなった。これでようやく頭を整理出来ると思っていたが、姉貴がそうはさせなかった。
「いったい、どういうことか説明して貰うから」
――悪魔の次は鬼かよ
そんな事を考えながら、今日も素敵に愉快などうしようもない一日は過ぎていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます