連鎖するチャレンジ

 あれから数日たって、発売予定日や完成品の、試作とは言わないけど標本のようなものが送られてきたりした。

 そして学校はというと、明日が終業式というわけで最終登校日。

 この学校にも、もちろん夏休みは存在している。芸能科の人たちはオーディションなり自主レッスンなり夏季レッスンなんてものもあるらしいけど、普通科はひとまずは2年以上にならないと夏期講習もない自由な休みになる。


「――のはずなのよね」

「突然、どうしたの」

「いや、明日学校きて授業なしで式やったら休みじゃない?」

「まあそうだね。あたしもそういう意味では少し不安が多いよ」


 放課後になって、私と彩花は職員室に呼ばれていた。

 理由にあてがさっぱりないのが、気がかりで仕方がない。

 私たちはノックしてから扉を開けて挨拶をして、呼び出した先生の元へと移動する。


「あぁ、きたか。お前ら」

「えっと、あたしたち何かしましたか?」

「いんや、何もしていないし、別に怒るわけじゃないからそう身構えるなよ」


 私と彩花は思わず「ふぅ」と息をついてしまう。


「そんなに威圧してたかな……まあいいか。あんたらさ、ネットサイトで動画上げてるじゃない?」

「そうですね」

「上げてますね」

「まあ、それで来月末に動画のイベントがあるじゃない」


 前に話していたイベントのことだ。でも、それが学校と何の関係があるんだろう。


「まあ簡単にいうと、それの出演依頼がきた。最後に一番大きい場所でやるライブ形式のあのやつに」

「…………」

「…………」


 私達は互いに顔を合わせた後――


「「えぇっ!!?」」


 声を合わせて、そんな反応をしてしまった。


「まあ、無理にとは言わないけど、折角だしチャレンジしてみたらどうだということと、学校から伝えないといけないことだから呼んだってわけだ。返事はまあ来週まででいいけど、夏休みはいるし明日くらいに言ってくれたほうが互いに楽だと思うから、そんな感じで考えてみな」

「は、はぁ……」


 若干頭の整理がつかない状態のまま、職員室を後にして教室に戻った。


「……ちょっと想定外ね」

「ちょっとどころじゃないけど、想定外だよ……なんだかんだあのイベント4回目で、規模も結構あるよ」


 実際に、幾つかのフロアが存在する大きな会場だけど、さいごのライブに関しては万人規模が入る上に、動画の生放送サイトのほうでもチケットでの生放送視聴があるようなものだったはず。

 少なくとも、素人がおいそれと参加できるものではない――けど、実際にあの出演者はセミプロとかはいるものの、表向きは素人というか一般動画投稿者もそれなりにでている。

 それと、私はふと気になっていたことも思い出した。


「なんか、日程と会場が被ってるんだよね……アイドル科の新人発掘オーディションと」

「えっ? そんなことありえるの?」

「普通はありえないから、気になってる……別会場で、同時っていうなら私は水花の応援に行きたい気持ちのほうが実は強いのよ」

「いや、春香のそれは正しいと思うよ。むしろこの状況を想定できるはずがないし!」


 彩花も結構な困惑気味のよう。


「……それで、彩花はどうする? 私に合わせる必要なんてないし」

「うぅん……そうかもしれないけど。やっぱり、あたしにアイドルとかって向いてないと思うからなー」

「今回の場合、アイドルとはちょっと違わない? プロデビューってわけでもないのよ」

「それもそっか……まあ、でも、やってみたい気持ちは強いかな。今後にこだわりのある夢持ってるわけでもないし」

「そうなんだ」

「まあ、テレビ関係につけたらいいかもな~くらいの気持ちはあるけど、裏方か表かも想像はしてないし大学は行きたいと思ってるし……でも、チャンスができたなら掴んでみようかなってあたしは思う」

「そっ……あたしは、そうね。この日付被りの件を聞いて、納得できたらでようかしら……やっぱり、水花のことは応援したいから」

「ふふっ」

「な、なによ」

「いや、春香って、すごい友達思いだよね~」

「わ、わるいの!?」

「別に~!」

「ちょっと、彩花!」


 なんとなく最期はグダグダになったけど、こんな風に方向性が決まった。

 そして終業式が終わった後の職員室。


「オーディション?」

「はい」

「あぁ……ちょっと、待ってな」


 先生は内線の受話器をとって電話をかける。おそらくアイドル科のほうの先生のいずれかだろう。


「ふむ。わかりました、ありがとうございます――間違ってないそうだ」


 受話器を机に置くと、私のほうに向き直ってそういった。


「それって、ブッキングってことですか?」

「いや、うちの学校って、あの動画サイトと一応繋がりがあってな。まあ、ようするにイベントの中でオーディションを行うそうだ。下手に審査員だけの場所ではなくて、不特定多数の人がいるところでポテンシャルを発揮できるかどうかの判断もしたいというのと、単純に面白そうと」


 最後の理由は本当にいいのかなって思うけど、たしかに不特定多数の前に出るということなら、うってつけの舞台だ。

 なにせ動画サイトの歌い手や踊りてなどのファンなどで数万席が埋まることが確定していて、その人達がアイドルの卵を知っている可能性は……低めなのは事実よね。


「……ってことは、これ下手したら、普通科の私達が出演者で、あっちがゲストみたいな扱いでばったりあう可能性もあるってことですか?」

「ばったりじゃなくて確実に挨拶とか考えたらあるだろうな」

「…………」


 思わず無言になってしまった。


「それで、どうする? 日原からはもう返事聞いてるが」

「私もでます」

「わかった。それじゃあ、近いうちに連絡行ったりすると思うから、こまめに確認するように」

「はい」


 結局、そういう事情ならでるのを拒否する理由も今はない。どうせ、今回限りの参加になると思うし、私は出演することにした。

 後日に、運営が出演者紹介の動画を出した時に、思った以上にコメントとか最近始めたブログにもコメントが来て、緊張が高まったのは後の話よ。

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