シング・マイ・ボイス

 放課後の職員室。


「じゃあ、この仕事受けるってことでいいんだな」

「はい、やってみます」

「ふぅん……まあ、いんじゃないの。とはいえ、一応まだ学生なのでってことで連絡はこっち経由にしてもらったから、これからはそういうことな」

「自分で個人的に連絡とったりはなしってことですか」

「細かい打ち合わせとかはいいんだけど、金に関わる根っこの依頼に関しては一応、学校と親御さんの許可はとってなって話」

「あ、そういうことですか。わかりました」

「そんじゃ、伝えておく」


 そのまま私は職員室を出る。


「やっ」


 そこにはなぜか彩花が待機していた。


「なにしてるのよ」

「いや、今日は暇だったから。それに、朝からずっとそわそわしてたし」

「勘がするどいのか私がわかりやすいのか、微妙なところね」

「それはどうだろうね~」


 私は、ひとまずあの仕事を受けることに決めた。

 普通科に来たはずなのに、なんでこんなことになっているかはわからないけど……私に直接きたってことは、それに意味があるはずだから。


「ふっふ~」

「何よ」

「いやー、なんか楽しそうなことが起きそうだなって思ってね。春香もなんかやる気だし」

「……そうかもね」

「おや、珍しい。こういうこというと、いつも否定するくせに」

「うっさい! それより今日はどうするの? なんかしたいことでもあるの?」

「ちょっと小物買いにモールに行きたい!」

「それじゃ、早く荷物とってきて行くわよ」

「もう、恥ずかしがっちゃって~」


 恥ずかしがってないし。早歩きになってるのは、そういう気分なだけだから。


 ***


 時間はあっという間に過ぎて、当日になった。

 今日は彩花もいないし、1人だ。

 私は予定の時間の30分前ほどに、スタジオのある建物の前にたどり着いた。

 だけど、こういうのって早過ぎるとそれはそれで迷惑だったりする気がするのよね。どうしようかしら。

 よし、時間つぶして15分前に入ろう。

 思いの外こういう時の15分は長く買ったけど、私は今度こそスタジオのある建物の自動ドアをくぐった。


 予定の部屋にはしっかりとたどり着くことができた。


「おはようございます」


 でも挨拶したらこっち見られてしまった。

 あれ、私おかしな事いったかしら?


「おはようございます。プロデューサーの羽崎です」


 少し固まった空気の中ひとりの男性がそう言って、名刺を渡してくれる。

 たしかメールでやりとりしてたひとだ。


「あ、いえ。えっと、赤坂です。多分、そっちも伝わってると思ってるので」

「はい、学園の方からかねがね」


 ていうか、そうよね。こういう時って普通はネットの名前を名乗る……でも、公式場でそれだと失礼に当たるのかしら。芸名ってほどだいそれたものなわけでもないし。

 その他のひとにも挨拶をした後に、説明があって収録が始まった。

 今回のメンバーは最近人気が出たりした人が多かったらしい。スタジオの使い方や収録方自体に慣れてるのが私含めて数人で、そういう意味では少し時間がかかった。

 私の収録自体は、思いの外綺麗に終わったわ。

 今、脱力感がすごいけどね。

 収録が終わって、編集やMIX待ちの間に休憩室にいると、ひとりの男性がきた。

 たしか、動画サイトの運営の岸辺さんだったかしら。


「どうも、お疲れ様でした」

「あ、はい」

「お若いのにすごいですね」

「まあ、一応そういう場所に行ってますので」


 普通科でも授業があるから、技術は身につくのよね。


「そうでしたね。では、今回は仕事を受けていただき本当にありがとうございます。今後の活動も期待しております」


 岸辺さんはそう言って、戻っていく。

 ……なんだったのかしら?

 この行動の意味はよくわからなかったし、本当にただの挨拶だったのかもしれないけれど、ひとまず収録は無事に終了したわ。発売は来月末の動画サイト主催で行われる会場で先行販売した後に、いろいろなお店で販売開始だとか。


 それにしても、思いの外疲れたけど、ちょっと楽しかったわね。

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