重なる夢と自分
家に帰って、どうするか悩んでいる私がいる。
「いや、どうするかはなんとなく決まったんだけど、そっちじゃなくて」
奏が何者か――でもなくて、私がなんであんな夢を見るかって話よ。
そもそも、ちゃんと出会う前から奏との夢を見てた。だけど、高校が違う時点で正夢なんてことはないはず。
これから転校する? 限りなく低いでしょう。
さっぱりわからないわね。
ソファの上でそんなことしてると桂がくる。
「なーに、1人でぶつぶついってんだ」
「1人でぶつぶつ言わないと落ち着かないからぶつぶついってんのよ」
「そうかい。あ、プリン買ってきたから食いたいなら勝手に食えよ」
「あんた、女子力高いわよね」
「んなことはないだろ」
料理できて、そういう気遣い力が強くて、家事全般ぶっちゃけ得意でって完全に高いわよね。
私も手伝ってるけど、こいつの手際みると限りなくレベル差を感じちゃう。
「あ、そっか。桂」
「なんだ?」
「だからさり気なく隣りに座ってくるのやめなさいよ」
「いいじゃねえか。呼んだのそっちだろ」
このマイペース差は男っぽい? いや、女子でもたまにいるかしら。
「あんたのクラスのさ、火狩さんってどんな子?」
「ん? あいつか……なんかこう、ラノベにいそうな誰とでも別け隔てなく付き合いができるタイプっつうの?」
「まあ、多分そんな感じよね」
「だからなのかはしらねえけど、逆に親友とかそう呼べそうなやつは見たことねえかな」
浅く広くってやつかしら。結構、私には深く食い込んできてた気がするんだけど……。
「知り合いだったか?」
「今日ちょっとね。なんか聞かれても変なこと言わないでよ!」
「へいへい、同じ家で生活してるくらいしか言わないっつうの」
「それはかなり問題だから言うな!」
理由理解してる人ならともかく、話すらしたばかりの人にそれ言ったら、洒落にならんわ!
「冗談だよ、冗談」
「心臓に悪い冗談はやめなさいっての」
「へいへい」
「口癖になってない?」
「なんだよ。Hey! Yo! とかのがいいのか」
「鳥肌たつからやめて」
見たこともないテンションを、脈絡もなく見せられると鳥肌ってたつのね。初めて知ったわ。
「まあ、何あったかしらねえけど。真面目に考えねえで、好きにやってみたらいんじゃね」
「何よ……私何も言ってないでしょ」
「悩んでるとすぐ顔にでるからな」
「なっ!? くぅ……余計なお世話!」
なんか見透かされたような気がして、思わず近くにあったクッションを投げつけてしまった。
「そうそう。俺とそうやって話す時みたいにさ。やりたいようにやってみたらいんじゃねって」
「わけわかんない!」
「あっ、どこいくんだよ」
「お風呂! 覗くな!」
「一度として覗いたことねえっつうの」
くそっ、桂の癖に唐突に何なのよ。しかも、ちょっとスッキリしたっつうか、ますますあいつのお陰みたいで、なんか納得いかない!
***
また夢を見た。
ただ今回は前までと違って、最初の夢で見た私――高校3年の私だけがでてる夢。
実家の私の部屋は2階にあって、小さくてもでられるベランダがある。
公立に通っている私は実家から学校に行ってるみたいで、その夢の中ではベランダにでて夜空を見上げていた。
『もう高校卒業か~。あっという間に、流された3年間だったかな~。楽しかったけど』
彼女はそんなふうにつぶやく。
その後すぐに
『あっ』
と声を出して空を見た。
私もつられてその空を見ると、流れ星がいくつも流れてる。
『過去に戻って、もっと挑戦する人生を遅れますように……なんてね』
後ろにいる彼女からそんな声が聞こえる。
そして彼女は部屋の中へと戻っていった。
ただ、いつもの夢とは違って、その後に夢がすぐに覚めることはなく。
どこかもわからない知らない空間に私はいた。
『まさか、こんなことになるなんて思わなかったけど。流れ星ってすごいのね』
「へっ?」
そこには私がいた。未来の私が、
『本当に過去に戻る……っていうのとは違うと思うのよ。だけど、私の記憶みたいなのが、過去に流れちゃったのかしらね』
これって夢なのよね。夢じゃなきゃありえないものね。
『でもま、あなたには私みたいにならないで、そのままいろいろしてみてほしいな。そのせいで、できてないつながりもあるかもしれないけど。別のつながりができたんだから』
「いや、これ、えっ……」
『いろいろやってみなさい! せっかくチャンスが舞い込んでくる場所にあなたは足を運んだんだから』
そういって、私は私の頭を撫でる。
もしも、さっきの言ってることや。今まで夢で見たことが本当だったら、私はそうやって生きていってたのかもしれない。
奏と桂と一緒の学校に行って、水花と別れて、彩花とも出会わない未来もあったかもしれない。
「だけど、それって私が歩いていくはずだった道を――」
『あなたは私だけど私じゃない。だから、間違ってもないし、おかしくもないのよ。だから、精一杯やりなさい。だけど、私みたいに流されてばっかりじゃなくて、たまには自分で決めてね』
その言葉を最後に、私の視界はまた光の包まれて――
「はぁっ!? ……朝?」
目が覚めた。
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