夢の少女

 ――帰り道。

 特に寄る必要もなかったけど、気づいたら近くのショッピングモールに立ち寄っていた。

 本当にやることもなく立ち寄ってしまったせいで、何をする気も起きない。


 とりあず、中央にある噴水のふちに座る。

 うーん。そもそも私って歌が上手いのかしら。

 プロと比べればまだまだなのは当たり前だと思うのよ。だからこそ、今回のこれが1回限りなのかどうかっていう部分はあると思うのよね。

 最近CD出した歌い手さんがプロダクションと契約したりとかいう話も聞くし、一概にそうも思えないのよね。


 じゃあ、もしかすると自己評価が低いだけで上手いとかそういう落ちがあるのかと聞かれると、私の自己判断だとないわね。

 でも、これって自分に強い自信がある人じゃないと、肯定はしない気がするから決定打にはならないわね。


 じゃあ、どうすればいいのよー!!


 私は思考の迷宮に入って、完全に迷っている。そんな気分になっていた。

 頭を抱えていたそんな私。しかし、そんな私に話しかけてくる人がいた。


「あの、大丈夫?」


 顔を上げるとそこには緑髪――奏がいた。

 いや、親しげに呼んでるとかじゃなくて、この前その名前しか聞いてなかったからそう思っただけなのよ。


「えっと、大丈夫よ」

「本当に? あ、隣いい?」

「構わないわ」


 すごい明るくて社交的というか。話しやすい雰囲気がある……彩花とちょっと似てる?


「友達ときてたんだけど、思いの外1人で盛り上がって見失っちゃって」

「それ、放っておいて大丈夫なの?」

「LIME送っておいたし、落ち着くかアタシがいないこと気づいたら見ると思うから大丈夫」

「そう……それで、なんで私の隣に?」


 周り少し見ると、開いてるスペースいっぱいあるんだけど。


「なんか頭抱えてて、放っておけなかったっていうの?」

「私そんなにやばかった?」

「結構、見てて不安にはなったかな」


 さすがに、家で考えるべきだったかも。


「何悩んでたの?」

「ちょっと、夢とか希望とか?」

「ヒーローか何かかな?」

「ごめん……まあ、あんまり人には言えないことなのよ。ただ、私の選択が本当にこれでいいのかみたいなことが不安になっちゃって」

「なにそれ」

「なんていうか、本気でやってる人が評価されてなかったりして、流れてやってる人が評価されていいのかなみたいな?」

「そんなのいいに決まってない?」

「へっ?」


 即答で返ってきたその言葉に思わずそんな声を出してしまった。


「いや、だって結局、人を評価してくれたりするのは周りの人なわけだし。その流れてやってる人が流れてやってるように見えないから、その人は評価されたんだと思うから」

「流れてやってるように見えない?」

「流されてやってるように、その人が自分で評価してても、実は無意識的にそれが本当にやりたかったこととか、本気でやっていたみたいな? そうじゃなきゃ、評価なんてされないよ。まあ、モデルさんとかみたいな外見だけで全部格付けされるものは別だけどね」


 なんか全てを見透かされたようなこと言われてしまった。

 だけど、なんとなくその言葉に私は納得もしてしまった。

 自分でいくら評価しても意味なんてないんだという気持ちになってしまった。


「うぅん……そっか。そうよね」

「解決できた?」

「なんとなく光は見えたわ。ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして……ところで、その制服ってあの芸能高校のだよね?」

「うん? そうね。普通科だけど」

「普通科でもレベル高いな~」

「な、なにいってるのよ!」

「いやいや、お世辞抜きにね。それにあの学校の人とかって、結構おかたかったりしそうなイメージあったけど、全然話しやすいし。アタシ、火狩奏!」

「私は赤坂春香」

「春香……つまりはるだね!」

「そうなるのかしら」


 やっぱりコミュ力すごいわね。

 でも、なにかしら。なにか大きなことを見逃しているような。


「ついでに連絡先交換なんぞもしませんか」

「構わないけど……その制服ってことは、えっと、何年生?」

「今年で1年生!」

「ってことは同い年かしら。美原桂っていない?」

「あぁ、いるよ。同じクラス同じクラス」

「あれ、一応、私の昔なじみ」

「おっと、意外な関係性はっけーん。じゃあ、あとで根掘りはぼりはるのことを聞くとしますかな」

「そこまであいつ知らないわよ」

「ふふっ……おっと、連絡きた。じゃあアタシ行くね。またねー!」

「またね」


 嵐のようだったな。

 私は自分のスマホの画面に映る交換したばかりの連絡先を見てそう思う。

 火狩奏。

 すごい元気で社交的で、話しやすくて、緑髪の女の子で、それで私のことをはるって突然呼び出して――


「あー!!」


 私はそこで重大なことに気づいて、大声を出してしまった。

 幸い外だったので、そこまで響くことはなかったけど、噴水近くにいた人たちに驚かれてしまったので小さくお辞儀して謝る。

 そうよ。あの見た目に名前に私の呼び方で、桂と同じ学校って――夢の中にいた奏とすべて一致してるのよ。

 でも、それってどういうこと!?


 ひとつの悩みを解決したと思ったら、新たな謎が浮かび上がってしまった。

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