新たな挑戦

 そして放課後。

 今日は新曲の作成中よ。最近やっとキーボードとシンセサイザどっちも使えるようになってきて、打ち込みも覚えたからね。

 ちなみに彩花も、もちろん一緒にいるわ。


「どんな雰囲気の曲作るの?」

「ボカロを考えると結構ジャンル広いんだけど、インディーズ見るとやっぱりポップとかロック系が多い気がするのよね」

「まあ、親しみやすいから仕方ないんじゃない?」

「そうなるわよね……となると、やっぱりそっち系かしらね」


 キーボードとか中心にしてギター入れつつ、ベースとかは目立たせすぎずってバランスで曲を作っていくことにするわ。

 曲の方向性は決まった。歌詞はなんかこうインスピレーションでどうにかなると思うわ。

 ダメだったら、その時に考えるとして――。


「これ、彩花残ってる必要あるかしら?」

「視聴係!」

「そんなすぐにはできないわよ。いや、まあワンコーラス分くらいなら、仮メロだけなら作れるかもしれないけど」

「まあ、いろいろ感覚的な質問なら受け付けるから! 帰っても暇なんだよね」

「そう……まあ、そういうことなら気にしないけど」


 レコーディングルームが意外とあいている日多くて、借りながら曲作りを完全下校時間までやってたわ。


「動画伸びてんじゃん」

「まあ、ぼちぼちね」

「いやいや、ランキング載ってるならすげえって」

「身内に知られて、その話題でもりあがるのがすごい複雑よ」

「身内つっても、血はつながってねえし」

「ていうか、なんで私があんたのマッサージしてるのよ!」

「いでェッ!? いや、だって、せっかく本場の知識を持っている娘がきてるんだからいいじゃねえか」


 夜は続きの作業とかはせずに、リビングでなぜか桂をマッサージしてる。


「まあ、こってるけど。荷物でも運んだの?」

「夏休み前に体育祭の荷物、奥からだすつって手伝わされた」

「なんでそんなに奥底にしまってるかが不思議ね」

「本当になー」

「はい、終わり」

「あんがとよ~」


 桂は体を伸ばす。

 私はテレビをつけてソファに座る。


「ふぅ……」

「なんで隣りに座ってるのよ」

「別にいいだろ。今更恥ずかしがるような関係でもないし」

「いや、まあそうだけど……はぁ……相変わらずマイペースね」


 昔っからそうだった。

 こうして夜は静かに過ぎて――いってくれたらよかったのよね。

 寝る前にパソコンのメールアドレスをチェックしたら一通のメールが届いていたわ。

 迷惑メールでもなく、動画サイトの連絡用メールアドレスからのメールだったから、中を開いたら――驚きの内容が書かれていたわ。

 これ、どうすればいいのかしらね……。


 ***


 翌日の放課後。

 私は職員室へと足を運んでいた。

 理由は、昨日の夜に運営経由で届いた一通のメールである。


「ふむ……ようするにボーカルロイド曲のカバーCDの歌い手としての誘いが来たというわけだな」

「まあ、そうなりますね。それもレコード会社経由なので、同人ではなく公式企画ってことになるんだと思います」

「まあ、最近だと案外珍しくはないとは思うが……それで、赤坂はどうしたんだ?」

「私ですか」

「まあ、うちの学校はもともと芸能関係だし、念の為に確認は取るが、聞いたこともないレーベルなり会社ってわけじゃなければ許可は降りるから、あとは本人次第ってことだ。まあ、明日くらいまでに考えておいてくれ」

「は、はい」


 私は「失礼しました」と挨拶して職員室をでて、自分の教室へ荷物をとりに戻る。

 その道中、頭の中ではいろんな考えがめぐる。

 私がどうしたいかって言われても、もともと活動も流れに乗るように初めて、あれに自分の意志がどれだけあったのかしら。

 いざ大きな話がきて、それを私がしていいの? なんか受験の時も似たような悩み方、渡ししてたわよね。

 成長してたと思ったのに、それは外面だけで、実際の根っこは一切変わってない!?

 なんかへこみそう。

 とにかくボーカルCDのお誘いなのよね。動画サイトで人気がでたボーカルロイド楽曲を歌い手がカバーする。


 ――そういうのって普通ランキング常連に誘いが来るんじゃないのかしら。

 私、初投稿以外だと、100位以内には何度か入っても、動画サイトで見やすい位置に乗るベスト5になんかいってないわよね。


 ますます、選ばれた理由とかがわからなくなってきたわ。

 考えているうちに教室にたどり着いてしまって、思わず荒く扉を開けた。


「うおっ!? お、おかえり春香。どうしたの?」

「……どうもしないわ」


 さすがに、こういうのって機密的な守秘義務だったかしら。それがあると思うから、言えないわね。


「そ、そう? それにしては、なんかすごい眉間にしわよってるよ?」

「うぅ……ちょっと、人においそれといえない悩み事なのよ」

「それは信頼的な意味で? それとも別の意味で」

「別の守秘義務とか、なんかそういうバラしてはいけない系の意味よ」

「それなら、無理には聞かないけど。まあ濁しての相談くらいなら乗るよ?」


 これを濁す……どうやって濁せば伝わるのかしら。


 相談前提みたいだけど、ちょっと考えてみましょう。

 とりあえず「もしも突然プロになりませんかって、メールきたらどうする?」これはちょっと大きく出過ぎてるし、もろいってるわよね。

 そうなると他に何があるかしら……こ、これなら大丈夫かしら?


「例えば何だけど、体育の授業とか書道の授業あるじゃない?」

「うんうん、それで?」

「そういうのをクラスも違う人が、どこかで見てて、突然部活とかに勧誘されたり、試合の助っ人頼まれたりしたらどうする? それも決勝戦とか大きなコンクールの」

「ただの助っ人じゃなくて、大一番のってことか~……それはたしかに悩んじゃうかな。チカラを必要としてくれるのは嬉しいけど、やっぱりプレッシャーとか本当に私でいいのかってなるし」

「やっぱりそうよね」

「でも……やっぱり、力になってほしいっていうならあたしはやるかもね。自分でも、それなりにできてるって自覚出来てることなら。逆に自分ではできてないって思ってることだったら、お断りするかも」

「……そっか。そうよね。ありがとう、参考にさせてもらうわ」

「力になれてたらよかった。っと、そうだ。今日は待ち合わせがあるから、学校で時間つぶしてたんだ。そんじゃ、春香またあした~」

「また明日」


 私はどうしようかしらね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る