始まりの一歩

 次の日。私は普通に起きて、普通に準備して、普通に登校したわ。

 ただ、内心ものすごくドキドキしていたのよね。


「春香。おは~」

「おはよう。彩花」

「なんかすごい表情になってるけど、大丈夫?」


 そんなすごい表情になっちゃってたかしら。あくまで普通を装っていたはずなのだけど。


「まあ、デビューおめでとう! 今日のうちに、学園に申請を出しておくといいよ。なんなら、あたしが教えるから」

「そうね……うぅ」


 実は、未だにコメントも再生数もチェックしていなかったりする。

 とにかく、心がズタズタになるんじゃないかと心配が先行してしまうのよね。アイドル目指してる水花はこれ以上のプレッシャーとハードルに挑戦してると思うと、尊敬しちゃうわね。


「まあ今日の放課後にだね!」

「そうね。もうチャイムなるわよ」

「怒られたくないので、あたしは席に接着剤するよ! またね!」


 朝から元気な彩花を見て、なんか少しだけ気は紛れた気がする。


 時間は飛んで放課後。

 授業はいつもどおりに進んだわね。

 彩花ととりあえず、芸能活動許可願を出したわ。許可は簡単に降りて、拍子抜けしちゃったけど。

 それと、誰も残ってない夕方の教室で2人でノートパソコンを開く。


「ちょ、ちょっと、本当に大丈夫なんでしょうね」

「大丈夫だよ。春香、らしくないよー!」

「私らしいって何かしら」

「これは重症……ほら、早く見てみてー!」


 私の意思とは別にマウス操作によって、自分の動画がブラウザに開かれる。少しのロード時間を経てコメントと動画が読み込まれた。

 最初は目をつぶっていたけれど、動画が進むに連れて色々なコメントが流れてくる。それに私は気づけば釘付けになっていた。

『うぽつでーす』『初投稿きた』『新人がくるとは』『うぅん、なんか違う』『期待の新人キタコレ!』『MIXが微妙とゆかもったいないきがする』『マイリス安定!』

 褒めと貶しが6対4くらいの割合だった。しかし、正直こうやってもらってみると、貶しのコメントに関しては私は気にならない程度に図太かったようで、褒めの嬉しさが勝っていた。


「初投稿でこれはすごいと思うよ! あと日刊のランキングで100位以内に入ってる!」


 再生数を見ると5000を超えていた。私もこのサイトはよく見ているからこそ、5000再生のハードルの高さもなんとなくはわかっていた。

 だからこそ、夢のようで本当に現実か一瞬、疑いそうになった。けれども、貶しがあるから夢じゃない……都合よくそんな気がした。


「多分、ランキングがもっと上がったら。1万再生はすぐいっちゃいそうだね」

「そ、そんなに上手くいかないわよ」

「そんなこといいつつにやけてるぞ~」

「うっ……いいじゃない! こんなに褒められたりするの久しぶりなんだから!」

「へへっ、それで次の動画はやる?」

「こんな結果になったらやらないわけにはいかないわよ。やってやるわ!!」


 予想外の成功だったけど、私にとっての初めての自主的な活動。これが夢への一歩になるかはまだわからないけれど、少なくとも私の人生において、自分から踏み出した初めての一歩になったことに変わりはなかった。

 ここから私の物語が始まることを願いたい――そんな気持ちを抱いてしまうわね!

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