第1章 流されて挑戦
入学と提案
4月も中盤。学園に入ってからは1週間が立った。
「相変わらずでっかいわね……」
あの違和感の正体はつかめないままだけれど、もう入ってしまった。私は気持ちを入れ替えて、今は芸能人育成学園の星創学園の普通科に入学した。
やっぱり、アイドル科とかの本科に入学することにはどこか引け目を感じてしまっていたわけだ。ちなみに水花も学力試験を突破して、今は晴れてアイドル道を突っ走ってる。
私が入った普通科は音楽と体育――というよりストレッチとダンスが少し強めに取り入れられた普通の学校っていうのが一番わかり易いと思うわ。
ようするにアイドルになったり、身体を動かすことができるようにしながら普通に勉強をする。そして素質があったり、本人にその気があるなら別の科への移動も可能としているってことね。
「あ、春香。おはよ~」
「おはよ」
教室にたどり着いて、挨拶してきたこの子は私のこの学園での新しい最初の友達、
「今日も真っ赤だね!」
「私が真っ赤じゃなくなったら、それは世界が終わる時よ」
「スケール大きすぎない!?」
「嘘よ」
「だよね~」
少なくとも冗談を言い合うような仲ではあるわ。
「今日の授業なんだっけ~?」
「日本史Bと英語に現国と体育じゃなかったかしら?」
「うえ~。英語苦手~」
「学年次席が何言ってるのか」
「3位は春香じゃん」
「次席には負けますよ~」
「意地悪いな~。それに音楽と体育の総合入れたら主席は春香って、先生いってたよ~」
「そんなこと言ってたの!?」
「うんうん。本人の意志は大事だから、無理に引き入れることはないけど、芸能科のどこかにきてくれないかな~とかいう、うわさ話を聞いちゃった」
私は教科書をしまい終えて、カバンを教室の後ろに用意されてる個人ロッカーに入れる。学生証に入ってるICチップが鍵の役割になってる。
「そんなこと言われてもね……彩花も知ってるでしょ。私がアイドルとかについて全然詳しくないの」
「そうだね~。どちらかというとバンドとか、シンガーソングライターとかのほうが詳しいよね。あとは、最近ネットではやってるボーカルロイドとか」
「そっちのが距離的に近いからね。アイドルのライブとか私、行ったことないし」
「他のライブは?」
「ゲームのイベントとか、ネットサイトの大規模イベントは一応行ったことあるわね。妹がそっち系が好きだから」
「そうなんだ~。まあ、あたしもそっち系のほうが行ってるけど。どこかで会ってたかもね」
「かもしれないわね~」
「ていうか、あたし動画投稿してるし」
「それ本当?」
席に戻るけど、まだ時間は早いのよね。
「何投稿してるのよ」
「えっと、『踊ってみた』っていうジャンルでボーカルロイド曲とか、著作権的に大丈夫なやつをね」
「一応、普通科でも芸能関係なのに大丈夫なのそういうの?」
「ちゃんと言えば大丈夫みたいだよ? なんなら一緒にやる?」
「……ちょっと考えておくわよ。やることないし」
「えへへ、いいねいいね」
ネットならまあそういう軽い気持ちで最初はやっても大丈夫そうだし。
「やるなら『演奏してみた』とか『歌ってみた』かしらね」
「踊りうまいのにやらないの?」
「私の奴は中途半端なのよ。全部基礎かじっただけだし」
「大丈夫だよ。我流の人だって上げてるんだから」
彩花は笑いながらそういう。この子、妹と似てるタイプなのよね。
「まあ、ボロクソ言われることも多いけど、それはどんな人でも一緒だから!」
「慰めにも弁明にもなってないわよそれ」
「あれ? まあ、そんな感じだから気楽にやっていい場所なんだよ。最近はプロデビューにつながってることもあるみたいだけどさ~」
「とりあえず、今お世話になってるところで楽器とか探してみるわよ……親戚の家だし」
「そういえば、実家じゃないんだっけ。寮でもなく」
「そう。この近くに住んでる親戚の家よ」
「楽しそうでいいね~」
「まあ……気は楽ね」
「まあ、やる気になったら教えてね。あたしが手ほどきして差し上げよう」
「その時は頼むわよ」
そんな話をしているうちに、時間がきたようで扉が開く。
「おら、席つけ~」
今日も授業が始まるわ。
***
お昼前の最後の授業。体育の授業ね。
「それでっ――なんで、アイドル科のDクラスがいるのよ」
「さあねっ――ひどい予想ならつくけど、春香聞きたい?」
ストレッチしながらそんな話をする。
体育は男女分かれてるから女子しかいないけど、体育館の右半分が普通科の私たちのクラスで、左半分をアイドル科がブッキングしてしまっているわ。状況説明終わり。
「ここでは聞きたくないかな。うっかりあっちに聞かれたら気まずさがすごそうだもの」
「それもそうだね――っていたたた」
「あぁ、ごめんごめん」
彩花を背中からおろす。
「今日なんだっけ?」
「基礎チームはヒップホップで、上は自由に自主練習だけど、なんか一曲披露だって。音源はスマホでもなんでもつかっていいらしいわよ」
「じゃあ、一緒に組もうよ。ペアでもいいんでしょ?」
「いいけど、彩花と一緒にやると下手さ浮きそう」
「ブレイクとかできる人に言われたくないな~」
「ブレイク楽しいわよ。スカートの時は絶対できないけど」
「そりゃできないでしょ~。パワームーブなんてそれこそ女子ができるのあたしは初めてみたもん。とりあえず、フットワーク軽いあの~……ヒップホップ風? のやつでいいんじゃない」
「そうね、ヒップホップ風のやつでいいと思うわ」
ダンスの授業は基礎と上級のふたつに分かれてるけれど、私と彩花は上級にいってる。ちなみにどちらも我流で身につけてる部分も多いから、ダンスの種類はブレイクくらいしかわからないので、こんなに曖昧よ。
周りに迷惑かからないように、ワイアレスのイヤホンをつけて、音楽を聞きながら練習を始める。
ただイヤホンに防音機能があるわけでもない。
「もっと、それじゃあいつまでたったって上のクラスに行けないわよ!!」
アイドル科のクラスの方では怒号が飛んでいた。
普通科のクラスはごちゃまぜだけど、アイドル科とかはAから順にランクがクラスで落ちていくとか聞いたことがあるわね。本当かはわからないけれど。
「一緒に聞かされるこっちはたまったもんじゃないけどね」
「本当にね~」
「あれ? 聞こえてたの?」
「もちもちろん~」
抜目のない……まあ、私も聞いてたから人のことは言えないのか。
だけど、Dクラスってどのレベルなのかしら。入試試験でギリギリ合格が《C》か《D》だったと思うから、最低ランクなのかしら。
「春香。考え事はいいけど、ちょっとテンポ早いよ~」
「うっ、ごめんなさい」
「もう少しテンポ早めの曲に変える? まだ間に合いそうだけど」
「いえ、このまま行きましょう。知ってる曲だしやりやすいわ」
この日の授業はそのまま過ぎていった。
何故か最後に踊った時は、Dクラスの子たちまでこっち見ていた気がするけど……気のせいよね。
***
「疲れた……」
「おつかれ~」
体育が終わって、昼休みになった。着替えは体育館の更衣室で済ませてるから問題ないんだけど、午後寝ちゃいそうよ。
「お昼は?」
「私は用意してあるけど。というか持たされたというか」
「ならよかった。購買いきたくなかったしね~」
「混むわよね……アイドル校は幻想だったと改めて思うわよ」
「じゃあ、何でここは入ったのさ。まああたしがいうことじゃないけど」
「友達と一緒に受けて、そのまま流れで? もともとは実家の近くの公立予定だったし」
「あぁ……まあ、でもここも学費的には変わらないのが救いだね」
「それは本当にね。いろんな芸能プロとかテレビ局が投資してるからってきいたけど」
「そりゃね~……でもやっぱり、天然ですごい人も多いから、学校に絶対にスターが入ってくるわけでもないんじゃないかな。いただきまーす」
「いただきます……彩花は何できたのよ」
「うん? 体育の授業がダンス中心だって聞いたから」
「本当に根っからのダンス好きってわけね」
「そそ。だけど、専門学校は高校でてからにしなさいって言われて、それなら普通科でもダンス有名なここに! みたいに言ったら許可してもらえた」
「どっちもどっちよね。この学校だと」
「まあね~」
まあ普通に高卒認可校ではあるみたいだから、ダンス専門にいくよりはたしかに文句は言われないのかもしれないか。
「春香はこの先どうするの? 夢とかさ」
「全く思いついてないわね」
正直、心配とか不安はでてきてる。ここにいる子はやっぱりみんなキラキラしているから。その点、私は目的も何もなく曇っているわ。
「ふふっ、まあまだ1ヶ月も立ってない付き合いだけど。何かに飛び込むなら言ってよ。付き合うから」
「突然、何を言い出すのよ」
「あたしはダンスを好きなんだけど、他のこと何も知らないんだよね。だけど、飛び込む理由もなくてさ……中学でこんなにガチでやってたらひかれちゃうものだから」
「……正直、私も最初は引いたわよ」
「えぇっ!?」
「でも羨ましいとも思った。私にもできると思う?」
「もちろん、誰でもできることなんだから。それが、叶うかはともかくね」
「台無しじゃない」
「そうかな? いいこと言ったと思うんだけど」
「自分で言ってる時点でだめだと思うわ……でも、まあそれなら付き合いなさいよね」
「もち!」
なんか、乗せられちゃってるな~。
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