思わぬ結果


「赤坂と和田。ちょっと、この後職員室こい」


 あの試験日から2日たった火曜日の帰りのホームルーム後、教室から出ようとした時に担任からそう伝えられる。私こと赤坂春香あかさかはるか和田水花わだすいかは顔を合わせて首を傾げた後に、職員室に向かった。

 職員室に座っている担任のもとにいくと、それぞれ封筒を渡される。


「なんですかこれ?」


 私はもちろんそう聞く。突然、教室でじゃなくて職員室で封筒を渡されても、そんな悪いことをした覚えなんてないもの。


「えっと、どこだったか……そう、星創学園の受験結果だ。学校に届いたんだよ。だから、お前たちにな」

「そういうことですか」


 これはここで見たほうがいいのかしら。先生は結果を知っているかどうかもわからないし。


「先生は知ってるんですか?」

「結果は知ってる。別途で合否だけ教えられてるからな。ただ、中の細かい採点とかは知らない」


 なるほど、封筒でまとめられているのも合点がいった。

 つまりはあの実技審査を数値としてだしたものと、合否についてがこの封筒の中に入っているってわけね。


「ほら、水花固まってないで行くわよ」


 私は封筒を受け取ってからずっと固まってた水花の腕を強引に引っ張って、職員室を後にした。

 そして、人気のない空き教室の中に入って、


「で? どうする?」

「え、えっと、何がですか?」

「私はまだ入るかもわからないけど、ここで合否だけでも教え合うかどうかってことよ。あんだけ、強く誘ってきたんだから、そっちのほうが水花にいいと思ったんだけど?」

「そ、そうですね。えっと……まず、自分が合格しているか」

「自信持ちなさい! 夢なんでしょ!」

「は、はい!」


 この前は私が押されっぱなしだったのに、なんて立場が逆転してるのかしらね。

 私が強く言ったので決心して、封筒の中身に目を通す。私もちらっと、自分の結果を見る――受かってたりはしないと思うんだけど。


「…………ん?」


 なんか合格の文字が見える気がするけど、気のせいよね。

 気のせいのはずよね……いや、だって完全な素人だし、そんなに周りと比べて「絶対なってやる!!」みたいな欲はなかったのよ?

 それで受かったらすごい申し訳ないというか、そういうのって良くないと思うのよ。

 改めて、封筒から結果を一気に出す!


  歌唱力《A+》 タレント力《B》 ダンス《A》 音楽力《A》 総合《A》


 ――あれ?


「は、春香! やりました、受かってました! 評価は低めな気はしますけど……」

「そ、そう! やったわね!!」

「春香はどうでした?」

「え、えっと……い、一応受かってたけど、本当にギリギリだったみたいで……」


 基準とか最低ランクをさっぱり知らないけれど。


「わたしは総合評価が《B》でした」

「そ、そう……私も《B》だけど、ちょっと《C》とかも混ざってたから、ギリギリだなって」

「そうなのですか? でも、合格はすごいです!」


 すごい言いにくいわよこれ。ていうか、審査員も何を考えてるのよ。

 もっと熱意とか情熱とか夢への熱望とか審査に入れなさいよ!


「それで、春香はどうするんですか?」

「にゅ、入学の話?」

「は、はい!」

「……もう少し考えさせてもらえないかしら? ちょっと、突然だし受かってると思ってなかったから」

「わかりました」


 さすがに無理にこれ以上引き入れようという考えがないのは水花らしいし、良かった。


 ***


「……さっぱり決まらないわね」

「何してるの、はる姉」


 家のリビングのこたつで資料を広げて悩んでいると、帰ってきた妹の夏菜がきた。


「進路悩み中よ」

「ふ~ん。ここって、近くのあそこだよね」

「そうよ~」

「部活の先輩はここ行くって言ってたけど、はる姉は違うの?」

「うぅん……ちょっとね」


 私も正直拘りはないのよ。でもなんか、よくわからない感覚的なもやもやが残ってすごい悩んじゃうのよ。

 あぁ、もうこのもやもや一体何なのよ。


「もうひとつのほうは……ってここすごい有名校じゃん!! はる姉入れる可能性あるの!?」

「学力試験に受かれば入れるのよ」

「えっ、実技あるって書いてあるじゃん」

「事前試験で受かっちゃったのよ……もう、どうしよ~」


 頭を抱える私の肩に妹の小さな手が置かれた。


「はる姉こういうときは……うちの馬鹿な精神を見習って!」

「自分で言うんじゃないわよ……」

「でも、悩んだってしかたないじゃん。結局決めるようなんだから……特にやりたいこともないならやってみたらいいのに」

「だって、この学校入る子ってやっぱり夢を持って入ると思うのに、そんなところに勢いだけの私がいっていいのかって――あぁ~!!」

「じゃあ、もう入っちゃえばいいじゃん」

「へっ?」

「はる姉はたまには勢いに任せるべき。大事なことだから2回目言わせてもらいました」

「…………あんたのその精神たまに羨ましくなるわ」

「えっへん!」

「半分しか褒めてないからね……でも、ありがとう」


 なんか、考えすぎてる自分が馬鹿らしくなってきちゃったわ。

 こんな見る人から見ればくだらないし、わけがわからないって言われそうなきっかけだけど――それでも私はこれをきっかけに進路を決定した。

 その後は、順調そのもの、学力試験も合格して卒業式を迎え、そして桜が咲きはじめた――。

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