スタート・マイ・ドリーム
Yuyu*/柚ゆっき
プロローグ 入学準備
不思議な夢と水花の誘い
『冬休みあけたらすぐセンター試験だね』
『へっ? 私はもう推薦で受かっちゃってるわよ?』
赤髪の――多分高校生と、緑髪の高校生がそんな会話をしている。
その後もとりとめのない会話が続いて、夢物語になっていく。
『もし過去に戻れたとしたら、どうする?』
緑髪の人がそう言うと、赤髪の人は、
『夢を見つけるとか? 流れ流れて過ごしてきちゃったからね。私は』
『ほほう、いいね。でもそうなったら、専門学校とか学校変わっちゃう可能性もない?』
『そうかもしれないわね。でも、そうだったとしても運命捻じ曲げてあなたに会いに行くわよ。それくらいにそりは会うしね』
『ほほう。ならアタシももしそんなことがあったら、意地でもはるに会いに行くよ!』
誰だろう。赤髪の方は私に似てる気がする――クリスマスみたいな装飾が周りのお店にされてるけど、どこだったろう。
そんな夢を見ていた私は、友達の声で目を覚ます。
「春香。寝てる場合じゃありません」
「んぅ……あれ?」
「もう、先生がいない時間だからって、居眠りは感心しませんよ」
ぼやけた視界が戻ってくると、目の前には水花がいた――私の一番の友達。
手元にあるプリントとか、周りを見ると多分――高校受験の進路というか、受験先を決めてるところだったみたいね。
でも、さっきの夢何だったのかしら?
「どうしたんですか、もう……寝てる間もうなされてはいなくても、冴えない表情して寝言まで言ってましたし」
「へっ!? 本当……恥ずかしいわ」
「じゃあ居眠りしないことです」
「何言ってた?」
「センター試験とか言ってましたけど……気が早すぎますよ。まずは高校受験です」
「……そうね。どこにしようかしら」
体を起こして資料に目を通してみる。基本的に近くの高校の資料だけれど……どこもピンとこないのよね。
「今日決めないと駄目なのかしら?」
「駄目ってことはありませんが、手続き上来週中には決めて欲しいって言ってましたよ」
「全然聞いてなかったみたい」
「熱でもあるんですか?」
私自身なんて、こんなに忘れてることが多いのかはよくわからないけど、たまにそういう日くらいあるわよね。
「とりあえず、ここかここかしらね……」
「この近くの公立高校ですね。まあ、春香の成績なら問題なさそうです」
「水花はどこいくのよ?」
「わたしは……まだ少し悩んでいます」
「……てっきり、公立のいいところ行くと思ってたけど、違うのね」
水花はクラス内ではトップ、学年内でも3位の成績を誇っている――私はそんなイメージから、県内でも名門の公立校に行くと勝手に思ってた。
「でもまあ、水花にも夢とかあるものね。ゆっくり悩むほうがいいわよ」
「へっ? ……あの、春香に話したことありましたっけ?」
「何を?」
私は行く気のない学校の資料をまとめながらそんな風に返す。
「いえ、わたしの夢のこと……」
「……そういえば聞いたことないわね」
「ですよね……?」
水花は呆気に取られたような顔をしてしまった。
そういえば、聞いたことなんてないのになんで私こんなこと言ったのかしら?
私はそのまま使わない資料は、教室の前に戻して席に戻る――教室内を見渡すとみんな結構悩んでるかと思えば、男子は遊びだして女子も半分くらいは手持ち無沙汰になっていたわ。まあ高校時点で、そこまでやりたいこと決まってる人は少ないわよね。
そうしたら、公立高校が安牌な気もするし、そうよね。
「あ、あの!」
「は、はい? どうしたのよ、いきなり」
席に戻った矢先、水花があんまりださないくらい声を張ってきたから、ちょっと驚いてしまう。
「春香。明後日の日曜日は時間ありますか?」
「なんでそんな告白みたいな勢いになってるのよ……まあ、暇よ?」
「ちょっと、一緒に行って欲しいところがあります!」
「……う、うん」
そう言う水花の青い瞳は観たことがないくらいまっすぐで、私の印象に強く残った。
***
そしてきた日曜日。私は水花と一緒に都心の外れの芸能総合高校に来ているわ。
正式名称・
。
今日はそのオープンキャンパス件・入学特別テスト日らしいわ。
なんでも普通の受験で受けることも可能だけれど、表舞台に立つ人に関しては実技審査が必須になるらしいわ。その実技審査を事前に挑戦することができるのが今日みたいね。ただ今日落ちたとしても、本当の受験日に実技を受けることも可能だから、あえて言うならチャンスが増えることになるわ……でも水花が興味あるのって表舞台なのかしら?
「い、行きましょう!」
「へ? そ、そうね」
オープンキャンパスの応募は水花がしてくれていて、試験に関しては校舎見学終了後に受付が行われるらしいけど、水花の緊張ぶりがすごくて、私は緊張が解けちゃったわ。
校舎はすごい大きさの、言ってしまえばもうビルよね。中には最新鋭の教室とレッスンルームやスタジオがいくつもあって、外には専用のホールも持ってると説明された時には、規模の大きさに茫然としてしまったわ。
そして時間がお昼になったところで、校舎見学が終わったわね。オープンキャンパスとしては最後に学食体験ということで、お昼を食べられることになったけれど、水花の様子がさっきからずっとおかしいわね。
「大丈夫?」
「な、何がですか?」
「いや髪ほどじゃないけど、顔青いわよ」
「髪ほど青かったら、どこかの大ヒット映画ですよ。世界歴代興行収入が1位の」
「テンパりすぎよ……というか、良くそんな知識あったわね」
「うぅ……すみません」
「私を誘ったのは水花なのに、何で私よりガッチガチになってるのよ」
「そ、それは……そうですね。ここまできたら言うしかないですよね」
「何の話よ」
私がカレーを食べながら話してると、水花はコップの水を飲み干して、深呼吸して話しだした。
「わたし、小さい子ころからの夢があるんです」
「前にも、それっぽいこと言ってたわね……まあ、芸能関係なんでしょうけど」
「はい……そ、その、アイドルにずっと憧れていて」
「………………」
予想外の答えに、無言になってスプーンまで空中で静止させてしまった。
水花の落ち着いたイメージとかもあって、モデルとか女優とかそっちかなって思ってたら、ものすごい表舞台の代名詞のひとつとも言えるアイドルだと聞いて、驚愕してしまったわ。
「あ、あのなにか言ってください」
「あ、あぁ……そう。アイドルを目指してたのね」
「はい……それで、今日もここにきて」
緊張なのかオドオドしてしまってるけど、水花の目か真剣そのものだし、多分本当よね。
「……いいんじゃない?」
「え?」
「だって、夢をおえるってすごいいいじゃない。ちょっと、驚いちゃったけど、私は応援するわよ」
「は、春香! そ、それでなんですが……」
「うん?」
水花はまた話しづらそうにしてる。これ以上に何かあるのかしら?
「一緒に試験受けませんか!」
「…………へっ!? わ、私!?」
「は、はい! 春香はアイドルの素質があると思うんです!」
「ちょ、ちょっとまってね……ちょっとまって」
「は、はい」
食べ終わった更にスプーンを置いて、私が一旦考えなおすわ。
水花の夢がアイドルで、それ自体に私は問題はないと思うし、むしろ微笑ましいと思うのよ。だから応援したいと思ったわ……でもその後なんて言ったの?
私がアイドルって言わなかったかしら。あの表舞台第一線で、最近ではドラマなどにもでる人までいるっていうアイドルに誘われなかったかしら?
「いきなり言っても困惑しますよね、すみません」
「い、いえ。たしかに困惑はしたけど、えっと、なんで私なのかしら? それこそうちの学校にはクラス内のアイドル的な存在の、袋小路さんとかいるじゃない」
「いえ、あの人は性格が……というか、キャラ設定を作りこんであるじゃないですか」
「まあ、たしかにあざとさはすごい感じるけど……でも、私っていうのはおかしくないかしら? それこそ、私別にモテたりすることもないじゃない」
「でも、歌もダンスも上手いじゃないですか」
「体育の創作ダンスとかHIPHOPレベルじゃないのよ……さすがに覚悟もなくやれるほど、アイドル界って甘く無いと思うのよ……水花みたいに決意がないと」
「で、ですが。向いてると思うんです!」
「う、うぅ……そんなに言われると勘違いしちゃいそうじゃない」
私って乗せられやすい自覚はあるんだから。
「今日受かったとしても、絶対に入らなければいけないわけではないらしいので……テストだけでも受けてみませんか?」
「…………まあ、それくらいならいいけど。もしかして、このために私のこと誘ったの?」
「そうですね! わたし自身もテストを受けにきましたが、よく友人に応募されてなどで大きくなった方もいますし、春香にはその可能性があると私は思っています」
「中学の授業レベルですごい可能性ね……」
その後は、受付を済ませて実技テストも受けたわ。結果は後で郵送されてくるらしいけれど、さすがに受かってることはないと思うのよ。
ダンスと歌と自己PRがテスト内容だったけど、そんなに上手くないもの――ただ、ちょっと気になったのは、オーディション会場であった先生を、どこかでみたことがあった気がすることくらいかしら……初めてのはずよね?
「ここ普通科もあるのね……」
家に帰って、改めて星創学園のパンフレットを私は眺めていた。半年に一度、希望者には学科の移動が可能らしくて、つまり強く何になりたいって気持ちがなくても、移動できる普通科も存在するらしいわ。
でも、普通科なら公立高校も変わらないと思っちゃうのよね。それになんとなく、こっちの公立高校に私は行く気がするし。
ただ――どうしてか、こっちの高校を選ぶことをためらってる私もいるのよね。
「ま、結果がきてから決めればいっか」
***
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