7/26 知らない男

わたしは、彼を見ていた。


知っているけど、知らない男。


どこかで会ったことがあるような。


とっても好きでたまらなかったような。


知っているけど、知らない男。


彼も、わたしを見ていた。


何を会話するわけでもなく、ただひたすら見つめ合い


まわりの人だけが、動いていた。


たぶん、ここはカフェ。


薄暗い、赤いレンガの壁。


木のテーブル。


ブラックのコーヒー。


おしぼり。


二人分。


何分、何時間 見つめ合っていたかわからない。


突然、彼は席を立ち、お金を払わずカフェを出る。


わたしも追いかけるが、財布が見当たらない。


お金を払わないと。犯罪者になってしまう。


財布。財布。わたしの財布はどこ。


ぶつぶつ呟きながら財布を探す。


でも見当たらない。


そのうちに彼はどこかへ消えてしまい、


二度とあうことが出来ないと感じる。


ああ、こんなにも好きなのに。なぜ。


カフェで冷めた二人分のコーヒーを見つめながら


財布を探すのを諦め、時間だけが過ぎてゆく。



今日もいつもの時間に目覚ましが鳴る。


わたしは、冷めた二人分のコーヒのことを時間と共に忘れてしまう。

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