最終話 助手席
初めて匠が運転したのは父の「ムスタング」だった。最初がアメ車だったから匠は何でも乗りこなすことが出来た。もちろん助手席には一葉がいた。
「特別に」都会でもなく、かといって田舎でもないこの地で暮らすには「軽自動車」が最適である。
時折、風に吹かれて車体がゆれることもあったが、最近の軽自動車ではそういうことは少ない。
この愛車とはいろいろ出かけた。一葉とも。。。
最終的に「巡礼」の最後の地となったのが、近くの海岸だった。
駐車場に車を止めて、浜辺に歩いた。
ここで匠は一葉に「告白」してふたりは付き合うようになった。
キスもこの場所だった。
匠は先ほどの「マスター」の言葉が忘れられなかった。
携帯を手に取ると、一葉の電話番号を探した。
電話しようとしたが、躊躇(ちゅうちょ)する、自分がいた。
「えい」と匠は思い切って電話番号をタップした。
電話は二回ほどなった、匠の鼓動も高くなった。
「はい、」と一葉の声が、聞こえる。
「あ、、、俺だけど。。。」
「う。。うん。」
「元気。。かな?」
「元気だよ」
たわいもない話が続いた。
「あのさ、、、今から例の海岸に来れないかな?」
しばらく時間が流れた。
「うん。大丈夫。。。。」
「じゃあ、待ってる。」
しばらくして一葉は歩いて海岸の駐車場までやってきた。彼女の実家はここから近い。
「やあ」と匠が手をあげる。
「こんにちは」と一葉が答える。
しばしの沈黙の後。
匠は車の助手席に回り
「また助手席にのってくれないかな?ナビがついてないんだよね。この車」
「うん」
「いいよ、、、。ただし安全運転でね。。」
こうして「元さや」に戻った二人だった。
次の日連にそのことを伝える。
「よかったじゃないですか。今度こそ逃がしちゃだめですよ。」
と連は言ってくれた。
それからしばらくして、見慣れない電話番号から電話が届いた。
取引先かもしれないのでとりあえず出てみる。
「あ。。匠君?」声は田所だった
「蓮君に聞いてさ、、言いにくいんだけどね。。。「失恋手当」は「元さや」に戻ったら半分になってしまうんだよ。。。だけど有給がたっぷり残ってるから、消化してね。あと、一葉ちゃんにもよろしく。」
「はい。」
連はふと助手席を見ると、一葉が微笑んでいる。
コンビニで買い物を終えた直後の電話だったため、車は駐車してある。
「レッツ ゴー」
一葉の声は明るかった。
蝉の声が遠くから聞こえてきた。
完
「あの日」助手席にいた君を想って。。 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます