第2話 巡礼

 田所の半ば「命令」的な指示によって次の週の日曜日から2週間の「失恋休暇」を与えられたが、正直匠は「なにをしていいのか?」わからない。 

匠は両親と実家で暮らしている。両親も仕事やデートで家を留守にしているし、とりあえず「友達を誘って2日ほど夜に飲み歩いた」が飽きてしまった。 

「寝ていても仕方ないしなぁ、、」

ふと匠は携帯を見る。一葉の電話番号はまだ「残っている」


「そういえば。。。別れた日から二人が過ごした場所にいってないな。大学にも。。。そうだいっそ二人の聖地を巡る「巡礼」に行こうか?」

と思い立った。「女々しいやつと思われようと、一葉の事はまだ好きなのだ。」

そう思い立つと車のキーに携帯、財布を持って愛車に乗り込んだ。

車内にエルビス・プレスリーの「ラブ ミー テンダー」を流し出発した。


平日の昼間は道がすいている。

とりあえずコンビニに寄って今日の分の煙草を買った。ライターは車の中にある。

車内でコーヒー牛乳を飲みながら行き先を考える。

まずは「大学」だな。

そう思った。二人の出会いの場である。

「よし」とコーヒー牛乳を一気に飲み干し、エンジンをかける。

今日もいい音だ。曲は「いきものがかり」の「あなた」に変わっていた。



「大学」という場所は不思議な場所だ。基本的に「誰が入っても構わない」小学校や中学、高校は一般人は「受付」で身分を明かさなければならないが、大学という場所は「堂々としていれば」それだけでは入れる。

匠たちが通った大学は自宅から車で30分。広い敷地であり、200台くらいが駐車できる広い駐車場もある。

懐かしい道を相棒でたどりつき、大学の駐車場に着いた。

車から降りると匠は大きく息を吸った。

「若き日」の(まだまだ若き日なのだが)自分のにおいを感じる。

とりあえず、学食に行ってみる。

匠の通っていた時とはだいぶ違っていた。

この学食には伝説がある。「鉄のハンバーグ定食」がそれだ。

なんでも先輩がハンバーグ定食を食べようと割りばしをハンバーグにさして食べやすいように切ろうとした。そして箸に力を入れると「ぼきっ」と割りばしが折れた。というものだ。

今はおしゃれになっていて、ハンバーグ定食も「やわらかい」と評判だった。

 

匠は「ハンバーグ定食」の食券を買ってそれを受け取り、席についた。

まだ11時20分という事から学生の姿はあまり見れなかったが、ちらほらカップルの姿があった。どうしてもそれが「過去の自分」に重なってしまうため、ハンバーグを急いでほおばり、学食を出た。


やがて12時になり学生や教員たちが一斉に学食に集まる。

それを避けるかのように、匠は愛車に乗り込み大学を後にした。



それからデートした公園や、いろいろと話し合った喫茶店などに行った。

喫茶店のマスターは匠の事を覚えていてくれて、コーヒーをおごってくれた。

マスターに「二人が別れた」事を伝えると、残念そうな顔をした。

「一葉ちゃんもこの前来てくれてさ、なんでも君の事が忘れられないんだってさ。

もう一度付き合ってみたらどう?」マスターはこういった。


その言葉を抱えながら愛車を走らせ、海に向かった。

夏の日は傾きかけていた。

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