天使狩り

清々しい朝、と言えよう

バイトも学校も家の用事もない一日なのだ、これ以上なく清々しい

久しぶりに24時間を好きに使えるようであった

逆に、そんな時間が24時間しか無いのが残念ではあったが

「グアアァァァ・・・ンンン・・・」

若者らしくない熊の鳴き声のようなアクビを一発

部屋のカーテンを開けて、パジャマのままキッチンへ向かう

今日は、出掛けようと思っていた

なんと、アイドルのライヴが清仁の住む県で行われるのだ

それも、最近話題の『lucky☆7』のライヴだという

シングルCDを平均数十万枚売る、今をときめく美少女アイドルグループのライヴである

キャッチコピーは『幸運を呼ぶ☆7人の天使たち(*^O^*)遠征ライヴで降臨♥!』

若者興奮ファン感涙信者狂喜の、生歌生ライヴである

興味が沸かない

全く食指が働かない

志田清仁はヘソ曲がりだった

流行りものを大いに嫌い、人気のものには毒を吐き、やや古くて根強いファンのいる物を好む

今回の物だってそうだ

アイドルは結成20周年になってから、というのが清仁の無意識の意見だ

周りの雑談には着いていけないこともあるが、それはそれ

最近流行りのルックス重視安売り量産型アイドルのゴミ歌詞クソ曲調シングルなど、タダで貰っても聴かない

中古屋で数百円と交換すれば良い方だろうか

なので、他人の命よりも大切にしたいこの素晴らしい休日を使ってまで行くことは、ない

本来ならば、だが

「・・・コイツか」

テレビでたまたま見た生放送中のlucky☆7のメンバーの中で、ある一人にある感覚を覚えた

人間を見て覚える不思議な感覚など、清仁には一つしか覚えがない

アイドルグループのメンバーに、異形になれる奴がいる

答えはそれだけだ

テレビスタジオに乗り込んで潰し合いに向かうのは流石に無理なので一時は無視することにしたが、此度にこのライヴだ

初めて神を信じたくなった

このチャンスを逃す手はない

そして次はタイミングだ

ライヴ前はライヴ本番で怪しまれる

かといってライヴ中など論外だ

ライヴ直後に楽屋を襲撃することも考えたが、これも他のlucky☆7によって騒ぎになる公算が高い

それに楽屋で片方が死んで爆発したら他のメンバーもタダでは済まない

それはそれで悪くはないが

なら、ライヴが終わったあと人がいない場所で戦うことにしよう

同じ異形であれば、向こうからやってくるだろう

アイドルという職業上動き回って他の異形と戦う時間などあるはずもない

なら相当『溜まっている』はずだ

ライヴ後に観光と言い訳をして、清仁の居場所を感覚で突き止め、やってくる

あとは場所だが、たまたまライヴ会場の近くに廃ビルがあるので、そこにする

お膳立ては簡単に揃った

週刊誌一本釣りのお忍びデートだ

ワクワクしてくる

着替えを済ませ、財布と家の鍵と自転車の鍵とスマートフォンを持ってドアノブに手を掛ける

これで清仁が返り討ちに合って死ぬ可能性も、勿論ある

そもそもアイドルと殺し合いを行うなど尋常な思考ではない

だが、もう、異形と戦いたいこの欲望は止められない

餓死しそうな時にぶら下げられた食い物にかぶり付かずにいられないのと同じだ

このままでは、欲求不満で、死ぬ

面白いことに相手もそうだ

仕方ないとは言わない

しかし、生きるためだ

生きるために、戦うのだ

だから凶行に及ぶためにドアを開けて家から出るのも、その一環だ

「・・・行ってきまーす」

さて、ライヴが終わるのは何時だっただろうか

ラーメンでも食べて待つとしよう

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変身願望ブルゥス アルファるふぁ @alpharfa1111

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