【太陽の女王】5
「さ。怖がらなくていい。かかっておいで」
巨神の一部が変じた大鎌を携えたフラン。彼女と対峙するのは手に拳銃を構えた燈火だ。
拳銃は玩具の銀玉鉄砲。
「―――行きますわよ!」
その構えは堂に入ったもの。神格に肉体を乗っ取られた際、基礎的な戦闘プログラムは脳内に書き込まれたためだ。
フランの踏み込みは時速百八十kmにも達する。
音速にも届こうかという鎌は、空を切った。
「え?」
こてん。
足を引っかけられ、見事に大地へ転がるフラン。
ぽすん。と間抜けな音を出して、銀玉鉄砲はフランの額に命中した。
「レッスン1。神や神格は銃弾だって見て切り払える。刃物なら言わずもがな。
だからやるなら意表を突くんだ。相手の死角を突くことが出来れば当てる事はできる。今みたいにね。まあ対人用の武器じゃ効かないんだけど」
「は……はいっ!もう一度お願いしますわ」
「いい子だ。じゃあもう一度」
そろり。そろり。
今度のフランは慎重だ。
じりじりと間合いを詰め、あと一歩、というところまできて、襲い掛かり―――
待ち構えていた燈火の振るう銃床がおでこをごっつん。
「ふぁあああああああああぁぁぁ!?」
フランは盛大にひっくり返る。
「レッスン2。
銃は撃つばっかりの武器じゃない。どんな武器でもそうだ。固定観念は捨てよう」
「ふぁ……ふぁい……」
その様子を見る双子は微笑。
「いやぁ……懐かしいねえ」
「そうですね、姉さん」
二人を見たヘルは不思議顔に。
「昔もあんなことがあったんですか?」
「ええ。……燈火さんと出会ってすぐの頃、燈火さんに『戦い方を教えて欲しい』と言われまして……」
「燈火さん、あんな風にやられてた時期がやっぱりあったんですね」
今の様子からは想像もつかないが、やはり彼も少年時代はあった、という事だろう。
「いやいや、逆よ逆。戦い方を教えるはずの私たちがもうね。模擬戦じゃボッコボコなの。回避の余地がないような相を使った時以外、勝てたことないの。だから武器の構え方とか整備の仕方とかしか教えようがなかったな……」
エススの言にヘルは微妙な顔となった。
「え……?でも身体能力は神格の方が上なんですよね?お二人とも、何年も神格として経験積んでらしたんですよね?」
「ええ。でもあれはなんというか、私たちの動きが全部わかっていて、かつ自分がどう動けばいいのかもすべて、最初から知っているとしか言いようがないんです。一種の超能力ですね、あそこまでいくと」
「そうなんだ……」
「あ、でもあの頃は射撃下手だったね。だから接近しないと当てられないの。いやまあ無造作に歩み寄って来て頭に拳銃突きつけてバーン! ってあっさりやっちゃうんだけどさ。むしろそのせいで上達しなかった気はするなー。頑張ってなおしたけどね、そこは」
「そういえば、拳銃ってどこで手に入れてるんですか?」
ヘルの素朴な疑問。
「練習に今使っているのは燈火さんの手作りですね。機械工作の練習をした時に作ったんです」
タラニスが説明するあとを継いで、エススも答えた。
「本物の拳銃の方は、武器を密造してるガンスミスいるのよ。偏屈でさー。まあ需要あんまないから儲かってないみたいだけどね。神や神格の脳を一撃で吹っ飛ばせる特殊炸裂弾なんてあっても、まず常人じゃ当てるのが無理だし。ま、そのうち会う機会もあるでしょ」
フランのトレーニングは何週間もかけて行われ、その間隠れ家では平和な生活が続いた。
ずっとずっと続けばいいのに。
皆がそう思っていた。
研鑽の時は終わりを迎えた。
代わりに、旅立ちの時が訪れた。
「目的地はどこなんですか?」
「南緯47度9分 西経126度43分。
―――世界初の門が開かれた場所」
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