【太陽の女王】4

 異様な神格だった。

 顔は美しい。

 黒髪は長く、前髪は額で綺麗にカットされている。

 鼻梁も顎のラインもすっきりとしており、その唇はほんのりと紅く、艶めかしい。

 だが、その眼窩。

 眼球を持たぬだけではない。

 両の目は空洞で、それどころか瞼の裏側には細かい歯が生え並び、奥には舌も見えた。

 胸板は薄く、まるで少年のようであったが、肩のラインが強烈に少女であることを主張している。

 下腹部はほんの少し、カーブを抱いていた。まるで新たな命を宿しているかのように。

 そして何より、下着でも隠し切れない股間の膨らみは、男の証たるもの。

「ヒトとは美しいものよ―――」

 神王は―――着衣を脱ぎ捨て、神格を傍に侍らすこの異形の怪物は、自らが横になっているベッドより身を起こす。

 広い―――とてつもなく広い寝室であった。

 床は美しく青いタイルで覆われ、天井は神話を描いた不可思議な技法の絵画が刻み込まれている。

 外の光景―――陽光に照らされた雲海が一望できた。

「その美しさは、こうして磨き上げる事で、より輝きを増す―――」

 まるで自らが作り上げた至高の美術品を見るように―――実際にそうなのだろう―――大神は、男とも女ともつかぬ眷属をただ、見つめていた。

「きなさい」

 眷属が歩み寄る。

 息もかかりそうな近さ。

 大神の人差し指が、眷属たる両性具有者の肌を下腹部から、喉元まで撫で上げる。

 魂と肉体を徹底的に弄ばれた哀れな道具は、己を襲う官能をこらえた。

「ふむ。アスタロトよ。お前を作ってから何年たつ?」

「はい。三十五年です。お父様」

 アスタロト、と呼ばれた眷属は、わずかに感情を―――悦びを含んだ声で答えた。

 その股間の膨らみは大きくなっていく。

「そうか。もうそんなに経つか―――あの日から」

 神が何を考えているのか、アスタロトには分かった。それは彼女自身をもいまだに縛り付ける忌まわしき事件であったから。

「先日の事件。十五柱もの神格が破壊され、首謀者は未だ逃走中のあの事件。―――気になるものがあった」

 神が虚空へ向けて手を振ると、空間に映像が表示される。

 何らかの分析図であろうか。

「"音"だ。この巨神は音響兵器で破壊されている」

「―――音」

「単なる偶然かもしれん。音響兵器など幾らでもこの世界にはある。だが―――」

「まさか、お父様」

「そうだ。

お前の姉が、我が肉体を持って逃走したあと。いまだに捕まったとも、どこぞでのたれ死んだとも報告は入らぬ。

ならば―――どのような形であれ、生きてはいよう」

 神の手は幽鬼のように動き、アスタロトの頬へと置かれた。

「我が娘よ―――最高傑作よ。今度こそ裏切り者の不良品を破壊し、我が肉体を連れてくるのだ。ここへ」

「―――はい。お任せくださいませ。お父様。必ずやご満足いただける結果を持ち帰りましょう」」

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