第六章【ヒトを守る化け物たち】
【ヒトを守る化け物たち】1
銀の女神が目覚めたとき、そこは彼女が知らない世界になっていた。
まず目についたのは天井。
パイプが通り鈍色の、金属でできたもののように見えた。
体にかけられいるのは柔らかい布団。後頭部のふわりとした触感は気持ちいい。
視線をぐるりと右にやるとそちらは白いカーテン。
ついで足元を見ると、金属パイプのベッドに己が横たえられている事がわかった。
そして、左に視線をやると―――
随分と心配そうにこちらを見る、ヒトではないものの姿があった。
「あ―――目が覚めたんですね」
英語での呼びかけ。
異形だった。
柴犬に似ている。けれど、遥かに利発そうで、そして二本の脚で立ち、右の手には太い親指と四本のそうでない指とがあった。尻尾はふさふさだ。
だが、その全身には幾つもの治療痕があった。頭には包帯を巻き、目には眼帯を当て、尻尾は不自然な長さにギブスのようなものをはめていた。左腕はなかばからなく、袖が垂れている。
身に着けているのは軍服。カスミとしての記憶が、自衛官の制服に似ていると訴えていた。
彼女―――直観的にそう理解した―――は、こちらへにっこりとほほ笑むと。
「どこか痛いところはありますか?」
痛いところ……ない。快調そのもの。ただ、頭の中で混ざり合ったみっつ―――下手をするとよっつの心がグチャグチャになっていて、思考がうまくまとまらない。
だから、現在の主人格であるところの"ヘル"が、代表して答えた。
「平気です。……ここは?」
回答は、衝撃的だった。
「地球です」
跳ね起きた。
周囲を見回す。隅には棚。並んでいる幾つかのベッド。腕には点滴。
清潔な部屋だった。ハイテクを駆使して建造された病室―――いや、医務室だろうか?
「ここは神格支援艦"かが"―――先の戦争で生き残った数少ない護衛艦"かが"です」
そして、呆然とする銀の女神の前で、異形の獣人は名乗った。
「私は日本統合自衛隊、神格部隊所属、"九尾"級"はるな"。知性強化動物、はるな。あなたと同じく神格です。どうぞよろしく、お願いしますね」
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