25 巫女服の下はどうなってる?
「あの、琴さん、間違ってかかったってことは……?」
「そう。私達が止めなければ、明日、反野朱夏と別の男がデートするってことだ」
「えええええっ!」
そんなバカな! じゃあ俺が何のために魔法申請したか分からないじゃないか!
「浅葱さん、なんでそんなことになったんですか?」
眉をハの字に曲げながら、美都が琴さんに訊く。
「ああ。うちの神社、承認システムを少し変えたって話は知ってるだろ?」
「え、ええ」
「バグがあったらしい。時原陽のIDが間違って入ってしまったんだ」
「あーなるほど、そういうことですか」
キッチンで何か調味料を零してしまったような、諦めにも似た脱力で頭を掻く。
「美都、IDって?」
「私達がこの辺りのエリアの人全員に振り分けてる番号ですよ。誰かを対象に魔法をかける場合、申請するときにそのIDを伝えるんです。で、生産部がそのIDをもとに、神様に魔法を依頼するんです」
生産部はたしか、申請を魔法の形にする部門だったな。
「ってことは、陽のとは違うIDで魔法がかかったってことか」
「ああ、何でも正式な申請データを生産部に送る際、IDを四捨五入する仕組みになってたらしい。そりゃ数字も変わるよ……すまないな、タマコン。迷惑かけてしまって」
「あ、いえいえ、そんな」
何だろう、「タマコン」って響きのせいか、とあんまり謝られてる感じがしないけど。
それにしても、別の人かあ…………ん?
「あの、琴さん。もともとかけた魔法って『書店で偶然会ってデートする』ですよね? じゃあ、朱夏の知らない人にかかっても、そもそも『よお!』みたいに出会うことがないような気がするんですけど……」
「おおっ! 頭良いですね、一悟さん!」
炊飯器を開けながら、美都が叫ぶ。いや、もっと心込めて言ってくれよ。
「タマコンの言う通り、通常なら対象者が違っている場合、魔法はかけたものの効力が発揮されずに終わることが多い。ただ、今回は少し事情が違っていてな……」
そう言って、琴さんはスマホに映った写真を見せてくれた。
俺達より少し年上、大学生くらいの男の人の、バストアップ写真。茶髪はワックスでいじってるようだけどそこまで派手でなく、肌も綺麗で、清潔感があった。
「これ……陽に代わって魔法がかかった対象者ですか?」
「ああ、白瀬という名前だ。反野朱夏の家の近くに住んでて、小さいときは彼女の面倒も見ていたらしい。所謂『近所のお兄さん』ってヤツだ」
「そんな偶然……」
隣で覗き込んでいた美都が、溜息とともに一言吐き出した。
「日付が確定してるのが幸いだ。明後日の土曜、魔法の効力が発揮される」
「ってことは、琴さんは明後日、この白瀬さんに張りついて、朱夏に近づきそうになったら阻止するってことですか?」
「ああ、そのつもりだ」
俺達も行っていいか、という前に、美都が小学校低学年のようにバッと手を挙げる。
「一悟さん、私達も行きましょう! 魔法を回避するのは結構大変ですから、人海戦術が有効になるかもしれません。浅葱さん、行ってもいいですよね?」
「ああ、来てもらえるならありがたい。助かるよ」
「よし、陽以外の男がデートするっていうのは不本意だからな。一緒に行くぞ」
そのデート、俺が食い止めてやる!
***
「明後日が楽しみですね、一悟さん!」
「お前は琴さんと一緒にいられるのが楽しみなだけだろ」
結局琴さんも泊まることになり、今は全員で寝る準備。
「いやあ、ありがとうタマコン。さっぱりしたよ」
琴さんがバスタオルを片手に、巫女服で出てきた。天使にはパジャマって概念はないんだな。
「あの、琴さん。その巫女服、なんで青色なんですか? 正装は赤だと思うんですけど、役職で分かれていたりするんですか?」
「ああ、巫女装束か。好みで青にしてるだけだよ。スーツとかも、黒が基本だけどグレーやネイビーのものもあるだろ?」
「あ、それ制服じゃないんですね」
てっきり会社から支給されてるのかと思った。
「一悟さん、天界の巫女服ショップは色とりどりなんですよ。最近はラメを散りばめたやつとか、冬用にウール素材のものもあります」
「そんな巫女さんは何かイヤだなあ」
もこもこしてる巫女さんは神聖感に欠ける!
「浅葱さん、教会ではどんな服着てたんですか?」
「ああ、なんか白のゆったりしたワンピースみたいなヤツだな。私は巫女服の方が好きだけど」
教会の劇とかでたまに見る格好だな。
「ついでに聞きたいんですけど、美都みたいに輪っかついてないんですね」
琴さんがハタハタ揺れる羽をポフッと触る。
「ああ、オプションで輪っかとか羽を選べるんだ。スーツの上からでも装着できる特殊な魔法をかけてある。それにこんなこともできるぞ。よっ!」
羽をカポッと取って、ヒュウッと素早く撫でる。丸みを帯びていた羽は、触れただけで皮膚を破りそうな剣状に変化した。
「これで大抵の人は潰せる」
「潰すなよ!」
なんでオプションが攻撃魔法に特化してるんだよ!
「うはは。桜、タマコンは面白いな」
「ふふ、そうですね。浅葱さんも相変わらずですけど」
羽を元に戻しながら、琴さんは美都と一緒に笑った。
「一悟さん、そろそろ寝ましょうか」
「そうだな。明日も早くから出発予定だし」
友のためなら早起きだってノープロブレム。
「あ、そうだタマコン」
「はい?」
「泊めてもらうからな、お礼だ」
ガバッ!
白衣と襦袢を一緒に脱ぐ。
「ちょ、ちょっと、こここ琴さん!」
と言いながら、ついまじまじと見てしまう。
こ、こんなバスト、グラビアでしか見たことないぞ……っ! やっぱり巫女服は胸の大きさを隠せるらしい。
名前も知らない果物のような、新発売のジャンボお菓子のような。
赤のブラジャーと一緒にほぼ完全に露わになっているその胸に、目は閉じることもよそ見することも拒んだ。ずごい! すごいものを見たぞ!
「あ、あ、ああ浅葱さん、何してるんですか!」
美都が慌てて、近くにあったバスタオルで琴さんを包む。
「ついやりたくなった。高校生男子なんて、からかい甲斐があるじゃないか」
「そういう問題じゃありません!」
バスタオルは琴さんの胸を完全に隠す。うう、道徳的には正しいけど、性欲的には残念。
「桜も大きいが、まだ私には勝てないからな、ふふ」
「もうっ! 浅葱さん!」
ケタケタ笑う琴さんに頬を膨らませる美都。
「でも、桜のお尻は結構好きだぞ。去年の温泉でしっかり見せてもらった」
「もう寝ますよ! 明日早いんですから!」
怒りながら顔を赤くする。聞いてるこっちが恥ずかしくなる会話だ。
「あれから結構成長したのか? うりゃっ!」
琴さんが、緋袴の紐をシュルルッと解いた。
トスッと床に落ちる袴。
「きゃあああああああ!」
白い足と、薄水色のパンツが顔を出した。
やば……上白衣で下パンツってこんな興奮する格好なのか……素晴らしいの一言だ。
これはいつか久瀬さんにもやってもらいたい……。
「ほう、なかなかだな」
しゃがもうとする美都を抑えつけ、お尻に顔を近づける琴さん。
「どうだ、タマコン。結構良いだろ」
「あ……はい、まあ……良いで――」
途中、言葉を飲み込んだけど、時既に遅し。
美都は喚きながら、輪っかを外して手に持っていた。
「あ、悪い、美都。そんなに他意は――」
「一悟さんのバカバカバカ!」
切れ目のできた輪っかは直線に形を変え、やがて矢に変化した。
「一悟さん、ごめんなさい! 貫きます!」
「謝るくらいなら貫くなよ!」
大体貫くってどこからどこを貫くんだよ! 怖いよ!
「お、落ち着け、な! こ、ここ琴さん、止めて下さい! 琴さんのせいでもあるんですから!」
「美都がこうなったら無理だろうな。それに止める気ないよ。私、若い男がいたぶられてるのを見るのが大好きだからさ!」
「そんな殺生な!」
死と隣合わせでパンツを見る。ダメなハードボイルドは、今日も叫び声をあげながら部屋中を逃げ回った。
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