14 これが天使の思い描くお洒落カフェ!
「ふうん、イチゴ、良い趣味してるな。前オレもこの近く来たけど、全然気付かなかったよ。結構最近じゃない、できたの?」
「あ、うん、そうだね。結構最近、だったと思う」
築4分とかだよきっと。
「よし、入ろう。アタシもうお腹空いて死んじゃうー!」
ワンピースのお腹を押さえながら、朱夏を先頭に店に入る。俺はもちろん最後尾。
美都がガッツポーズするのを見つつ、幾ばくかの優越感に浸りながら。
「……………………………………………………な、なんかスゴイね、イッちゃん」
「……………………………………ああ、ある意味オシャレっていうか、なっ」
無言でごまかしたくなる衝動を抑え、なんとか返事した。
エンジェルカフェのオシャレ具合と言ったら、そりゃもう半端じゃなかった。
入口ではマーライオン5体が口から水を吐いてお出迎え。玄関には虎の敷き革の絨毯。
部屋には季節外れの暖炉が4つもバラバラに配置されていて、熱くはないものの煙をモウモウとまき散らしている。
壁にはありとあらゆるサバンナの動物の首がコレクションのように飾られ、すっかり頭部動物公園。
ところどころに置いてある植木鉢からは観葉植物に見せかけた紅葉が天井まで背をのばし、季節外れ甚だしい赤色の葉を揺らしている。
片側の壁に投影されたスクリーンには、京都の寺社仏閣が映しだされていた。
「……………………………………………………なかなか味のある店だな、イチゴ」
「………………………………ふ、ふふっ、吾妻君、面白い店好きなのね」
今の「ふふっ」は苦笑いだーっ! 久瀬さんに苦笑いされたーっ!
そりゃ俺だって言ってないよ! こんなカフェだって知ってたら「良いカフェ見つけた」なんて言ってないよ! どうすんだよこの状況!
「ごめん、もう1回家に電話入れてこないと。みんな、適当に座ってて」
「あ、ああ」
「美都、ちょっと一緒に来て」
「へ? 分かりました」
まったく罪の意識を感じてない天使を呼び出し、洗面所へ。
「一悟さん、どうですか、この内装。溜息が出るでしょ?」
「違う意味で溜息だよ! 俺はオシャレなカフェを頼んだんだ!」
「はい。申請の時に『オシャレなカフェって具体的にどんな感じですか?』って聞かれたんで、私のデザインセンスをフルに使って申請しました」
「お前がプロデュースしたのかよ!」
「テーマは『海外セレブリティーと日本文化の折衷』です!」
「溶け混ざってない! お互いの主張が強すぎる!」
なんでそんな自信たっぷりなんだよ! あの3人の表情見て察せよ!
「まあまあ、造ってしまったものは仕方ありません。料理食べて機嫌直して下さいよっ」
「そう言われてもよ……」
美都に押されて席に戻ると、3人が首を捻りながらメニューを見ていた。
「おう、ごめんな。みんな決まったの?」
「あのさ吾妻君、前来たとき、何頼んだ?」
お、久瀬さん困ってるな。
よし、テキトーにさらっとオススメ料理紹介しちゃおう。
「んー、何だったっけな。ちょっとメニュー貸して」
映画に出てくる魔法書のような装丁のメニューをもらう。くそう、美都、こんなところまで変に
「えっとね、前は――」
・本日の日替わり定食
・そば(きつね、たぬき、かきあげ)
・うどん(きつね、たぬき、かきあげ)
・カツ丼
・ラーメン(半ライスセットできます)
・カレーライス
なんだこのメニューは……!
オシャレなカフェってアレじゃないの? チキングリルの何とかソースとか、季節の野菜蒸しとか、シフォンケーキ&マカロンセットとか、そういう感じなんじゃないの?
「アナタ達、メニュー決まった?」
なんでこんな恰幅のいいオバさんが店員なの? もっとこう、可愛くて、エプロンが似合ってて、家ではアロマオイル焚いてる23歳が接客してくれるんじゃないの?
「あ、あの、本日の日替わりってなんですか?」
「アジフライだよ」
「……そうですか」
討ち死に覚悟の質問への回答は、どう取り繕ってもオシャレには近づけない代物だった。なんだよ、アジフライにメキシカンソースでもかけてオリーブでも添えてくれよ。
「おい、美都」
超絶小声で隣の席のアホ天使を呼ぶ。
「なんですか、オススメですか?」
お前どんだけポジティブなんだよ。
「なんだこのメニューと店員は!」
「いや、結局人事部とカフェ店員の調整がつかなくてですね。うちの社員食堂に協力してもらったんです」
「あれ社員食堂のメニューなの!」
「イッちゃん、何コソコソ話してるんだよー!」
朱夏が威嚇するように歯をカチカチ鳴らす。
「わりぃ、ちょっと今日の夕飯を決めてからメニュー選ぼうと思って」
ごまかしつつ、相変わらず罪悪感ゼロの美都に話しかける。
「ひょっとして、あの食堂のおばちゃんも天使なのか?」
「はい。仕事柄、巫女服は脱いでますけど、ベテラン天使ですね」
天使は若いっていう幻想はいつ植え付けられたんだろう。
「まあ、味は保証しますから。それに社員食堂ですから、値段も格安です。そばは220円!」
「逆に怪しいでしょ! 立ち食いそばよりも安いとか怖いでしょ!」
もうお前にカフェの相談はしない! 自分で検索する!
***
「うん、結構美味しかったね、陽ちゃん」
「あ、反野もそう思った? 食堂みたいなメニューだからちょっと不安だったけど、なかなかだったよな。カレー270円って聞いたときはちょっと驚いたけどな」
店を出て、大通りを散歩。
朱夏と陽の会話を聞きながら、ピクピクと頬が引きつる。
「ミッとん、おいしかったよね!」
「はい、カツ丼おいしかったです」
「でもまあ、今日一番の収穫はイッちゃんのセンスが良く分かったことだな! アレで『オシャレ』はないない!」
「ふふ、でも面白かったから良いじゃない」
朱夏ああああ! それは言わない約束だろおおお!
久瀬さんもちょっと同調しちゃってるじゃないかああああ!
「イチゴ、センスなんてものは少しずつ磨いていけばいいんだからな」
「ああ、ありがとな……」
陽にまで憐れまれてる……なんて可哀想な俺。
「一悟さん、大成功でしたね。センスに関しては気にすることないです!」
お前が気にしろよ!
「よし、陽ちゃん、せっかく町出たから、色々見よう!」
「だな。雨も降りそうにないし!」
こうして、ウィンドウショッピングで新作の夏服に足を止め、朱夏の希望でペットショップを覗き、ゲームセンターでは5人協力プレイでオンラインクイズに小銭を費やす。
なんてことない半日だけど、好きな人と一緒だと時間は弾むように楽しく、転がるように早く過ぎていく。
「あー、遊んだね!」
西日も眩しくなってきた夕方。電車に揺られ、俺達5人の最寄駅へ。
でも、今日のデートはまだ終わりじゃない。まだまだ終わらせない。
ずっと温めていた作戦が、今卵から孵ろうとしていた。
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