第20話神様よりも、本当にいざ頼りになるのは目の前の武器ですから

「エルドロール様、どこへいったの??」

 ムッシムッシとパンを食べ続けているアリシアを横目に、私はそららにエルドロールの行方を聞いてみる。

「今日は王都に用事がある。って言ってたよ。毎週、ちょいちょい行くよね。今日は急に決まってみたいだけど・・・。」

「ふぅん・・・。王都へ急に用事、ねぇ。忙しいんだなぁ。」

 私は無我夢中で食べ続けるアリシアに圧倒されながら、ただその食べっぷりを見守っていた。

「それはそうと、フランは結局何の用だったの?」

 ギクリ・・・。

 フランの用事。

【ローラがいなくなったことは二人には内緒】

 彼に言葉が頭に浮かぶ。

 まさか、失踪したローラを探している。とストレートに伝えることはできそうにない。

「アリシアのこと聞きに来たんだけど、なんか急にお城から使者が来て帰らなくなったんだったって、だから、また今度。って」

 あ、今の、上手いかわし方だな。

「あいかわらず忙しいのねぇ。王宮騎士様は・・・。あ、アリシア、ミルクのむ??」

 頷くアリシアにミルクを注ぐ。

「フレイアは??」

 羊の姿がなくなっていた。

「うち知らないけど??」

 相変わらず、新しい妹に骨抜きにされたそららは使い物にならなそうだ。

「あぁ。フレイアは今お休み中」

 ミルクでパンを流し込むアリシア。

「お休み中?私たちみたいに寝るの?」

「うーん。どっちかっていうとアリスの都合かな?精霊を召喚し続けていると魔力を使うから、一回精霊界に戻ってもらったよ」

「精霊界??ここにいるわけではないの??見えないだけとかじゃなくて?」

 持っているパンを5つにちぎってテーブルに並べるアリシア。

「この世界は、4つの異世界に隣接していて、ここが人間界。」

 パンを一つ、テーブルに置く。

「その周りに4つの世界。」

 さっき置いたパンを囲むように、残りの4つを並べる。

「妖精界。精霊界。神魔の世界。神竜界。」

「そんなにあるの?」

「うん。その中でも、一番影響があるのが精霊界。精霊は人間の魔道の源。フレイアは火、他にも5属性の精霊が存在してる。光、闇、水、風、土。魔力は本来無属性。ただ、使う人間の心に一番近い属性が使いやすい。だから、全部の精霊を駆使することも不可能じゃない。ただ、途方もない魔力が必要。」

 5つにちぎったパンを食べ、ミルクを飲むアリシア。完食したらしい。

 そららは後片付けに調理場へワゴンを押しながら向かった。

「アリシアでも無理?」

「無理だと思う。ただ、アリスはまだ魔力の伸びしろがある。」

「あ、そっか。大人になるまで、成長するごとに魔力は大きくなるんだ。」

「そう。だから、まだ可能性はある。全属性は無理だと思うけど。」

 おなかをポンポンと叩くアリシア。苦しそうのテーブルにぐったりしている。

「フレイアが言っていた神魔の世界って言うのは?」

「あまりわからない。文献にも残っていないし、もう村はないし、長老もいないし。・・・。私が知っているのは、俗にいう神様。と、悪魔。魔族の戦う世界。悠久の時の中終わらない戦争。神魔の世界。」

「神と、悪魔・・・」

「うん、悪魔はすべての世界を征服しようとする。神は精霊、妖精たちと悪魔に対抗する。じぃじが昔聞かせてくれた。」

「この世界は、安全なの?」

「わからない。でも、フレイアも『4界のバランスが崩れる』って言っていたくらいだから、今のところは大丈夫なんだと思う・・・。精霊がいる代わりに、弱いモンスターも存在する。ある意味均衡のあるうちは大丈夫だとおもう。」

「なんか、私たちは神様の駒みたいだね・・・」

「駒?」

「だって、人間も戦えってことでしょ?精霊の魔法を使って、モンスターを倒せって。」

「・・・そうかも、知れない。」

「人間には善も悪も存在する。ヘルムの村を陥れた人間。フランやエル様みたいな人間。神様たちの戦争の道具にされているような気がする。」

「その考えは危険だよ!」

 再び煙の中からフレイアが現れる。

「あんた、けっこう自由に現れるのね。」

「アリスも、魔力を提供しているので困りますね・・・」

「な、なんだよ!その言い方!!もう少し精霊をありがたく思ってくれてもいいじゃん!」

 私たち2人の冷たい視線に耐えられないフレイア。

「まぁ、とにかく、今のきららの考え方は神に逆らう考えだよ。それは反逆とも取れる内容だよ。あまり、そういったことは考えない方がいい。」

「また、反逆?」

「人間は、人間のできることを、神の意志を尊重し精霊の導きを受ければそれでいいんだ。記憶がないのはわかるけど、この世界のルールがあるから、それ以上は詮索しないように!まだ用があるから今日はこれで帰るけど、僕の召喚は控えてね!!」

 と、言いたいことだけ言い残しフレイアは消えていった。

「お姉ちゃん。ここは私たちのいた世界とは違うから、黙っていよ?そのうち帰れるかもしれないし。ねぇねには内緒にしておきましょう。」

「うん・・・」

 釈然としない。納得できない。人間の生き方まで、神様に決められる。そんなの、納得できない。

 どうしようもない怒りがこみあげてくる。


 バタン!!


 食堂の扉を勢いよく開ける音が響く。

 そららが慌てて入ってきた。

「ど、どうしたの?」

 アリシアは椅子を持ち上げて身構えている。

「しょ、食材がない・・・。買い出し、ぜんぜん行ってなかったから」




 王都アレクサンドリア。ここはいつも賑わっている。

 他の国からの商人、交易はもちろん、交通の便の良さが売りで商人たちの拠点にもなっている。

 今日はフランの置いていった護衛の方1名に馬車を出してもらい、3人で王都までの買い物。

 お屋敷には3人の護衛の方が残ってくれていて、二人は待機してもらっている。アリシアがいればどうにかなりそうだったから、護衛はいらない。と断ったのだけど、フランの名前を出されては断り切れない。

 ついてきてくれたのはフランの親衛隊の一人。重騎士アーク。フランより少し年上。全身に重たそうな鎧を着ていて、大きな剣を持っていた。さすがに馬車にそれは厳しいので、今はロングソード1本、楯だけにしてもらっている。最後まで抵抗してたけど、街の買い物に不釣り合い!っとそららとアリシアにギャーギャー言われて根負けしたようだ。まぁ、馬も可哀想だしね。

 そんな道中、馬車の中で私たちはアリシアにゴブリンに出会ったこと。そららがよだれ出して寝ていたこと。そららが走るの遅いこと。

 など、おもにそららのことで笑っていた。

 そららはキーキー怒っていたけど、アリシアとそららは本当の姉妹のように楽しそうに笑っていた。

 私たちは護衛の方に市場のそばにある馬車を置く停留所に待っていてもらって、買い物に行くことにした。

 一人増えたアリシアの分。護衛の方の分と食材が全く足りなかったらしい。

 そして今回のお目当ては、武器の上達。まず、私はアンデットの中に弓を置いてきて矢は使いきった。そららはレイピアがあるけど、もしほかに何かあるのなら・・・。と言っている。アリシアは基本何も持っていない。ゴブリンのいた街、エルサーナであったときも魔法をぶっ放す大砲娘だったし、魔導士なら杖くらいあっても。と話題に上がったのだ。エルドロールは反対かもしれないが、近所にアンデットがいるかもしれないのだから、非常用として持っておく分には怒られないだろう。

「また、ここにくるとは」

 東の市場にはこの世界に来た初日の武器屋がドン、と構えていた。

 あの時みたまま、何も変わりない。

 ズッスリした雰囲気のダークブラウンの店。中に見えるのは剣と鎧、弓、などの武器のかずかず。小さな入口には鎧を着た人(?)が2人。今日も大木のようにずっしりと構えている。

 前回はここで引き返した。でも、今日はこの先へ進む。

 そららとアリシアは早く!早く!といった感じ手を引っ張っていく。

「ちょ!、まだ心の準備が!」

 大木のような2人の間を通り過ぎ、狭い入口を抜けると中には乱雑に武器が売られている。お客さんは多くはなさそうだ。

 そららはすぐに剣売り場へ行ってしまう。アリシアはなんとなくフラフラ。見ていて危なっかしいので私はアリシアと回ることにした。

 棚と呼べるものはほとんどなく、壁に杭?のようなもので

 弓、剣、盾、槍、杖、斧、でっかいハンマー、、、

 それはそれは、今まで見ることもなく、触ることもなかったようなRPGの世界の武器がたくさん並んでいる。どれでも一撃で死にそうな武器ばかり・・・。

 アリシアは一通り店内を見終わるとそららの方に戻っていった。

「ねぇね、何みてるの?」

 アリシアはそららが手に取ったロングソードを後ろから眺めている。

「お、おもい、、」

 持ち上げてはみるものの、構えたり右手で振り上げようとすると、かなりの重量があるようで辛そうだ。

「うちには、やっぱりこれが一番なのかなぁ」

 棚にロングソードを戻すと、棚の端にあるレイピアを手に取る。

 こうやってみてみると、一言に剣と言っても色々な種類があるようだ、刀身が長いロングソード。レイピアも2種類ある。突くのに特化している少し長めのモノ。突くではなく、刀身は短いけど、普通の剣のように斬るモデル。小さい、包丁よりも少し長い程度の短剣、他にもいくつかある。

「アリスも、剣使おうかなぁ」

 そららが戻したロングソードを手に取り、構えてみる。

「どぉ?強そうにみえる」

 左手で包丁を上げ下げするかのように、簡単に扱っている

「重くないの?」

「ちょっとは重いけど、まぁ、別になんてことないかな。少しなら使えそう。」

「あはは、さっきのは、ちょっと女の子っぽくしてみただけだよ!うちだって、ホントは持てるけど、使いなれた武器が一番?だと思うから、それを実践してあげたのよ」

「実践、ねぇ。」

 アリシアは飽きてしまって他の武器を見にまたどこかへいってしまった。

「と、に、か、く!お姉ちゃんの弓を探さないといけないんだから、早くいこ!アークも馬車の番でずっと待ってもつまらないだろうし!」

「はいはい。そーですね~」

 そららが私の背中を押しながら弓が並ぶところへつれていく。

 アリシアは杖を見ているようだ。

 魔法使いらしく、何か欲しい物でもあったのだろうか。

 特に魔法が使えない私にはちょっと太い枝にしか見えないんだけどなぁ。




 帰りの馬車へ向かう途中、珍しい人とすれ違った。

「あ!きららー!!」

 それは何日かぶりにあったこの世界でできた初めて出来た友人だった。

「あら、エド!久しぶりねー。まぁたお手伝いさぼってるんでしょ?」

「えへへー。」

 なにも悪びれす様子がない正念。この感じではやはり手伝いをさぼったな。

「母ちゃん、最近頑張ってて、リンゴがあれから売れてるんだ。きららが作っていたりんごのピザも、母ちゃん一生懸命練習して売ってるよ!」

「あぁ、うちが見つけたときに作ってたあれですか」

「お姉ちゃん、そんなもの作ってたの?」

「あ!!そららだ!それに、その小さい人だれ?」

 小さい。って言葉に反応してアリシアの顔がひきつる。

「だ・れ・が?小さいのかなぁ?アリスは君よりお姉ちゃんなんだから、そういうこと言ったらダメなんだけど」

 アリシアがエドの頭を小さい手で鷲掴みにする。つかめていないけど・・・。

「エド、ごめんね、この子はアリシア。私たちの妹よ。お屋敷で一緒に働いているの。リーヤもみんな元気?忙しくなっちゃって、会いに行けなくてごめんね?」

「だいじょうぶ!・・・それより、この二人どうにかしてよ!!」

 そららもアリシアの味方だってことで、エドのことを二人して左右から持ち上げている。その姿はどこかに連れて行こうとでもしているようだった。

 ジタバタと暴れる少年を左右からニヤけた顔で持ち上げている二人の姿は怪しさ以外何も感じなかった。

 この二人、性格的にはよく似てる気がする。

「二人とも、やめなさい。子供をいじめてどうするのよ」

「アリスは売られたケンカを買っただけ」

「そららはただよばれただけ」

「あんたはアリシアのマネしないの!」

 チェッと舌打ちしてエドを開放する二人。

 エドは勢いよくこっちに走ってくる。

「本当にきららの妹なの!?あんな凶暴だよ!!」

「まぁ、一応二人とも妹・・・かな」

 妹なのか聞かれると、なんかちょっと違うような気も・・・。

 私もあの二人と同類?なのかな。

 二人は相変わらずエドを見ながらコソコソ話したりニヤッと笑ったり。身内なのに、なぜか不気味だ。

 エドに至っては本気で嫌がっているようで、私の裏に隠れている。

「あんたたち、不気味すぎ・・・。ほら、先にアークさんのところへ行ってて!恐がっちゃてるじゃん!」

「お姉ちゃんは?」

「エドともう少し話してから行くから。すぐ行くから馬車で待ってて」

『ぶー!』

 アリシアはふてくされがらもそららと手をつないで市場の人込みの中に消えていった。

「ふー。ほんとに、イタズラにもほどがあるんだから。ごめんね?エド。大丈夫?」

「うん、大丈夫!きららは兄弟がいっぱいいるんだね!」

 兄弟・・・。姉妹なんだけどな。このくらいの年齢だとわからないのかな。

「そうよ、毎日うるさいんだから!でも、今度お祭りがあるときは、みんなで行きたいねって話したり、本当はいい子なんだけどね。小さい子と関わることがないから楽しかったんじゃないかな」

「ふーん。まぁ、僕は大人だからいいけどさ。」

「よしよし、エドは大人で偉いね~。それで、今日はお手伝いさぼって何やってたの?」

「あぁ!父ちゃんを呼びに行くんだ!怒られちゃうから、これで行くね!今度、また店に来てね!」

 手を振りながらその場を走り去るエド。

 小さい少年は市場の人の隙間を縫うように走り去る。

 時折振り返ると少年は元気よく手を振って人混みへと消えていった。

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