第19話王国の罪

「おはよう、きらら。アリシア。よく寝れたかい?」

「おはようございます。エルドロール様」

「おはょござぃます・・」

 鼻水付きのパジャマを着替えて下に降り、食堂に入ってみるとそこにはエルドロールと意外にもそららがいた。

「そら、おはよう!起きて大丈夫なの?」

 まだ寝ているかと思ったのに、意外にも起きてそこそこ元気そうだった。

「おはよ。うん。大丈夫。・・・」

 (ん??)

 そららは何か言いにくそうにしながら調理場の入り口から入ってきてエルドロールの方に歩いた。

 アリシアはテーブルの一番端の席に座っている。

 そららはエルドロールの隣へ立つ。こうやってみると、メイドっぽく見える。

「そららは、おなかがへっちゃんたんだよね。だから、起きちゃったんだよね~?」

 こほん、と咳払いするそららにいたずらっぽく笑うエルドロール。

「え、エル様!それは内緒って言ったのに!!」

「はっはっは!そららも年頃なのかなぁ。昔はおなか減った!って調理場でつまみ食いなんてしょっちゅうだったのに」

「そ、そんな昔の話、いつの話ですか!!いつの!!」

「なぁに、そこにいる小さなお客人と同じくらいのころかな」

 二人の視線がアリシアに集まる。

 私はアリシアをかばうように、二人の前に立つ。

「そらら!ふたりとも、あまりいじめないであげてください」

「いじめているつもりはないんだけどなぁ」

 エルドロールはそららに視線を送ると、そららはアリシアのほうに歩いてきた。

 そららはアリシアの席の隣に座る。

「昨日は話せなかったね。うちはそらら。きららの妹よ。実は、エル様には昨日のこと、まだ報告してないの。アリシアが来てから話そうかと思って。うちは年上みたいだから、お姉ちゃんだと思って話してね!」

 そららはアリシアの手をぎゅっとつなぐ。

 私はアリシアの向かい側の席に座った。

「みんな、アリシアのこと嫌いなんて思ってない、だから、エル様にちゃんと話して?」

「ふぅうん。このような配置では、私がその少女に対しなにか負い目を感じるような配置・・・のようにに見えなくもないなぁ。女の子3人とおじさん一人。娘しかいない家庭っていうのはこういうものなのかね。」

 テーブルの反対側でエルドロールがつぶやく

「もしかして、独りぼっちだと寂しいんですかぁ~?」

 いたずらっぽく私が聞いてみる

 そららが【ふっ】と笑いながら

「エル様、たまにそーゆー可愛いとこありますよね。」

「ほらほら、あまり親をからかうんじゃないよ。今日はあまり時間がなくてね。アリシア、説明できるかい?」

 アリシアの耳飾りが一瞬赤く光ると、ポンっと赤い煙が頭上で弾けてフレイアが現れる。

「アリシアに代わって僕が説明しようか?我が主は人見知りだからね~」

「ほほぉ。フレイアか」

 エルドロールは少し驚いたような顔でフレイアを見る。が、それは一瞬で変化した。

「これはこれは、へる・・・」

 フレイアはエルドロールの表情を見て言葉を失った。

「私に、羊の知り合いはいないのだが・・・人違いだろう」

「えぇ、見間違いでした。お髭の似合うダンディなおじさま。僕はフレイア。火の精霊やってます。以後、お見知りおきを。そっちの髪が紫のお嬢さんも、よろしく」

 フレイアは相変わらずフヨフヨ浮かびながらさっきと同じような調子でしゃべっている。

「赤い羊だ!すごーい!!しゃべってる・・・。精霊なんて初めて見た。」

 そららはフヨフヨ浮きながらアリシアの頭に着地したフレイアに興味津々だった。隣でツンツンしたり、臭いをかいだりしている。

「あの、やめてもらえるかな。そーゆーの。ここの人間は教育ができてない。精霊とはこの世界で崇拝される対象なのに、珍しい動物にでも遭遇したかのようなそのリアクション。けっこう不愉快なんだけど」

 迷惑そうにフレイアが言うと、『あ、』って顔で、笑いながら手を引っ込めるそらら。

「ご、ごめんなさい。珍しくて、つい。」

「まって、最初はアリスが言う。自分で言わないといけない」

 アリシアが席から立ち上がる。見知らぬ人間の中にいる女の子が一人で、頑張って話そうとしていた。

 一緒に住みたい。

 働きたい。

 今後のこと。

 聞きたいことはいっぱいあるはず。アリシアが不安なことは聞いて、みんなで解決すればいい。きっとエルドロールもそれを考えてこの場を作っていてくれてるはず。

「アリスは。・・・きららの妹です」

 一発目がそれか!!空気読みなさいよ!

「え”え”!!」

 そららが一番驚いていた。そりゃそうだろうよ。いきなり、自分以外に妹が出てきたんだから。

「ちょ、ちょっとそれ、いきなりすごいこと言ってるよ!?アリシアはうちの妹のなの!?」

「ちがう。そららの妹ではない。きららの妹」

 なに、このドロドロした姉妹関係・・・。

 私はどうすればいいのかな。

「きららの妹なのに、そららの妹ではないの?」

 うん、と頷くアリシア。

「人間。そららだっけ?アリシアの言っていることは本当。そららはきららと肉体的には姉妹なんだ。でも、アリシアとも姉妹。アリシアは心、記憶の面では姉妹なんだ。」

「心?記憶?」

「そう、簡単に言えば、きららの記憶がないことに関係しているんだ。そして、これは君たちにはあまり関係ないけど、時空魔法。神の世界からの干渉が疑われる。」

「神の世界??時空魔法?」

「まぁ、とにかく、アリシアもきららの妹なんだ。だからきららの記憶が戻れば全部わかるから、そららにも協力してほしい。僕たち精霊は、あまり人間に知識・異世界の情報を与えてはいけないんだ。だから、記憶が戻るまで我慢してほしい」

「そんな。いきなり妹って言われても。・・・」

 そららは困った顔で、驚きを隠せない。そりゃ、人間誰だっていきなり『今日からこの子は家族よ』。なんて言われて納得できるわけがない。

「とまぁ、アリシアはきららの妹。これはそれでいいじゃないか」

 あまりよくないと思うけど、強制的にフレイアによって終了させられた。

 フレイアの言い分だと、まぁ、アリシアはきららの妹だから3人仲良くね。くらいの感じなんだろう。

「それで、ついでに言えば昨日からあの、『ローラ』って人間にも言わなかったけど、ゴブリンがきららに従っていたのは僕のせい。」

『従ってた??』

「そう、アリス、ゴブチンのボス。アリスが一番偉かった」

 ふん!っと鼻息荒く自慢げにポーズをとる。

 たしかに、ゴブリン3体に守られていたように見えたけど。

 ってか、ゴブチンって。そんな可愛くは見えなかったけどな。臭いし。恐いし。

「ゴブリンは精霊、つまり僕たちを神だと思っている。だから、僕がいたからアリシアを神様の仲間。と思ったんじゃないかな。ゴブリンと会ってからは食べるものとかそんなに苦労しなかったね。王国から討伐隊が来るまでは。」

 うん。と頷くアリシア。

「どうしてローラには言わなかったの?」

 そららの問いかけにフレイアは黙っていた。

「アリスは、あの人が恐い」

「恐い?」

「うまく言えないけど、よくない感じがする。・・・ごめん。うまく言えない」

「たぶん、アリシアは記憶の奥にある王国に対しての恨みがあるから、拒絶反応なんじゃないかな」

 あぁ、なるほど。

 住んでる村を滅ぼされたんだもんね。しかも、アリシア曰く『濡れ衣』で。

「悪魔召喚・・・」

「悪魔召喚??」

 私の言葉をそのまま返してくるそらら。

「あぁ、そらは昨日聞いてなかったよね。アリシアの村が滅んだ理由。勘違いかも、なんだって」

「その話は、私がしよう。」

 エルドロールが口を開いた。

 ローラも、聞きたいならエルドロールに聞けって言ってたし、ちょうどいい機会かもしれない。

「これは、他言無用だ。結論から言えば、王国はヘルムの村を滅ぼした。きららの言う通り、王国の勘違いによって」

 ひどい・・・。やっぱり、王国が滅ぼしたんだ。

「噂の出どころは結局わからなかった。ヘルムの村で、邪教の信仰が始まり、悪魔召喚を行い、魔道のみが制する世界へとこの世界を作り変える。と言った噂が流れた。今思えば、あの時は王宮剣術試合が行われた直後。敗者、勝者、地方の人間が入り混じり様々な噂が絶えなかった。そんな中、ローラの所属していた傭兵部隊がもたらした情報の一つに、ヘルムの村の邪教崇拝があった。フランの親衛隊に選ばれたローラが所属していたこともあり、王国も裏を取らなかったのがいけない。傭兵がヘルムの村にあった精霊祭のために集められた輝石を盗むために、王国兵を差し向けたのだと。すべてが終わってからしばらくして気が付いた。村には邪教の崇拝どころか、悪魔召喚の準備なんて見当たらなかった。ただ、精霊に捧げる供物で用意されていた輝石が一欠片もなかったことから、この事実が判明したのだ。」

「うちが思うに、傭兵が悪いのですか?」

「いや、傭兵だけではない。王国も、真意を確かめる前に行動した。その軽率な行為は責任を誰かに転嫁できるほど容易なものではない」

「じゃぁ、だれが?」

「ヘルムの村だ。この場合、国が『傭兵がもたらした情報が間違っていた』。と言っては王国の信用はなくなるだろう。それであれば、初めから王国は間違っていない。王国のやり方を正すには、ヘルムの村を滅ぼし、生き残りを消すこと。そうすれば、国は傭兵の情報により悪しき邪教を滅ぼした正義になる。民も、疑うことはないだろう。それが、ヘルムの村で起きた真実だ」

 食堂には重い空気が充満していた。

 だれ一人、なにかを発することはできない。

 自分の間違いを認めないで、間違えたらすべてなくして、そのままみんな殺して知らん顔。そんなことが許されるの?

 アリシアは、無言で肩を震わせていた。

 フレイアが言う、意識は別人でも、記憶が残っている限り、怖い思いをしたことに変わりはない。

 そららも、アリシアを無言で抱きしめていた。

 フレイアは、何も語らず、宙に浮いたまま。

 私は・・・

「ずるいんじゃないですか。そんなの」

「お姉ちゃん」

 胸の中で、怒りが充満していた

「たくさん人を殺して、盗んで、犯人はお咎めなし。国は知らんぷり。そんなの、最低じゃないですか!」

「・・・」

 言葉が荒くなる私の意見を、エルドロールは黙って聞いていた。

「お姉ちゃん、やめなよ。エル様が悪いわけじゃないんだよ」

「だって、可哀想だよ。ひどすぎるよ。精霊祭を楽しもうと、村の人は6年に一回の精霊祭を楽しみにしてたのに。アリシアだって、こんな小さな女の子だって!・・・そんな国、なくなっちゃえばいい!国が滅べばいいんだよ!!」

「それは、王都に対する反逆罪になるよ」

 涙目に訴えた私。

 それを止めたのは、食堂の入り口にもたれかかっているフランだった。

「フラン!?」

「きらら、それは言ってはいけない。僕も、伯爵もじゅうぶん理解している。でも、どうにもならないことがあるんだ」

 肩を震わせて怒る私に、フランはそっと手を差し伸べた。

「僕らは、二度とこのようなことがないように、王宮に仕えている。同じ過ちを犯さないために。だから、今は信じてほしい。・・・ねぇ?伯爵?」

「私も同意見だ。今までの王国は権力のみの弱い政治しかできなかった。それを、見直すべきだと思う。ただ、国を変えるの時間がかかる。それを理解しないで武力に任せると、また、誰かが悲しむ。きららは、誰かアレクサンドリアに友人はいないか?」

 王都に友人・・・

 私は真っ先にこの世界に来て初めて手を差し伸べてくれたエドたちのことを思い出した。

「いる。大切な友達」

「では、もし、アリシアが精霊の力を使い王都を破壊出来たら?それで復讐はできる。それをやらない強い心が、ヘルムの民にはある。強い心こそが、時代を動かすのだよ。きららが、王都を破壊されて友人が殺されたら、また復讐になるだろう?誰かが、断ち切らなければいけない」

「ヘルムの民にしたらこれは勝手な話だけど、僕たちはその負の連鎖を止めるために努力を惜しまない。ここは、伯爵と僕を信じて、納めてほしい」

 フランに肩をトン、と叩かれて力なく椅子に座る。

「お姉ちゃん・・・」

「きらら・・・」

 二人の妹に心配をさせてしまった。

「はい。わかりました。この件については、これ以上何も言いません」

「物分かりのいい娘ですね。伯爵。それで、この浮いている羊は何だい?」

「フレイア。火の精霊らしいよ。うちも今初めて見たとこ」

 フレイアは何も言わずに宙に浮かんでいる。

「火の精霊か。初めて見た。お初にお目にかかります。フレイア様。どうぞお見知りおきを」

 フランがフレイアに対し話しかけるも、フレイアは何も微動だにしない。そのまま宙に浮いたままクルクルとゆっくり回転している。

 私たち3人はその様子をただ、眺めていた。フレイアは何も言わない。

「ふぅむ。精霊様は気が難しいようで・・・。それで、そちらのお嬢さんは?」

「アリシアだ。例のエルサーナで目撃された少女だ。訳って今はここで保護している」

 エルドロールが気を使ったのかフランにも誤解がないように簡潔に伝えた。

「よろしく、アリシアちゃん。さて、本題だけど、みんなに聞きたいことがある。」

「そういえば、いきなりどうしたの?勝手に入ってきて」

「いまさら聞く?それ。・・・いくら呼んでも返事ないから。それに、まるっきり他人の家でもないし。」

「ふぅん。またお姉ちゃんの下着を見ようと忍び込んできたのかと思った」

「え・・・この人、こんなに清潔感あるオーラ出していて実は変態さんですか?」

「そーよ。この人は変態騎士のフランよ」

「変態騎士フラン。要注意ですね」

 そららがアリシアになにか間違っていることを吹き込んでいる。

「いや、そららちゃん。違うでしょ。だいぶ・・・。そんな役職ないし」

「うち、狙われてるかもしれない!お姉ちゃんがダメなら次はうちが目的!?あの目は獲物を見る目だわ!アリシアたすけてー」

 笑いながらそららはアリシアの裏に隠れる。

 アリシアはけっこう本気で引いている。

 冷たい視線が横で見ているだけでも痛々しい。

「きらら、助けてくれ。これじゃ、誤解が解けない」

 フランが困った顔で助けを求めてくる。

 が、私はあの時にまだ、完全に許したわけではない。

「そーね。このままではあぶないかも。・・・アリシア、この人は変態騎士ではないわ」

「そうそう、僕は王宮に仕えるこれでも、、、」

「むっつり騎士よ」

「・・・だめだ。これじゃ」

 うなだれる騎士様。伯爵は笑いながら手を振って食堂から出ていく。

「さいってい。見た目【だけ!!】かっこいいのに、変態なんて。・・・フレイア、おいで」

 私はどっかの誰かが名付けたむっつり騎士のことをアリシアに伝授した。

 フランはガックリと肩を落とし、伯爵に助けを求めようとしていたが、伯爵はすでにその場にいなかった。

 アリシアは初対面ながらに、その容姿とは真逆のムッツリという変態騎士に本気でいやそうな顔していた。生理的に受け付けない。という現象であろう。この顔は。

「え?アリシア。もしかしてやるの?」

 フレイアがアリシアの頭に着地すると、念のため聞いている。が、止める気はなさそうだった。

「うん。きららの敵」

 敵って・・・。敵ってわけでもないんだけど。

「きらら、これ。大丈夫かな?この子。目が本気だけど・・・」

「ダメなんじゃない?まだ、あなたの誤解解けてないと思うよ?」

 小声でフランと話す私。

「離れてて、きらら」

 アリシアは指先で丸く円を描く。

 一瞬遅れて、円の中からゆっくりと炎の槍が出てくる。

「これ、ゴブリン焼き殺したやつだ」

「まずい!これは冗談じゃすまないって!!きら!そら!早く止めて!!」

 私がポロっと発した言葉にフランが驚き食堂から出ていこうと走り出す。

「火炎フレイ・・・」

「ちょいまち!!」

 そららがアリシアの口をふさぐ。

 アリシアはフガフガと怒ってバタバタと暴れている。

「そのまま、静かに聞いてね?」

 うん、と、うなずくアリシア。

「その槍、飛ばさないでね?」

 うんうん。と、うなずくアリシア

「さっきのは嘘、この人は王国でもえらい王宮騎士のフラン。私たちとは小さいころからの友達なの」

「そうそう、うちらもよくお世話になっているし、こうやって話したりできる信用できる人間なんだよ?王国の人間が嫌いだろうけど、フランはきっと大丈夫。」

「ふんふふ」

 そららがよくわからない顔していた。

「離してあげないと、わからないよ?」

「あ、そっか・・・」

「ぷは!・・・本当に、変態さんじゃないの?」

 私とそららはちらっとフランのほうを見た後に

「本当だよ」

「実は、強くて、優しんだから!」

 とフォローを入れとく。

「ふうん。・・・ムッツリなくせに?」

「それは、うちがからかって、フランに言ってただけ。だから、忘れて?みんな暗かったから、和ませようかと思って」

 アリシアは冷たい眼差しで数秒フランをみていたが、私をチラッと確認した後

「フレイア、これ、食べちゃって」

 フレイアが大きな口で火の槍を吸い込む。

 魔法って、食べれるんだ。

「ふぅ」

 フレイアは煙のげっぷをはくとテーブルの上にコロコロと転がった。

「ねぇねが、そういうなら、アリスは何もしません。」

 アリシアが、そららのところにもたれかかった。

「ん?ねぇね??」

「うん。お姉ちゃんはきららだから、そららはねぇねです。だめですか?」

「ううん!ねぇね大歓迎!アリシアちゃん可愛いーー!!」

「く、苦しい・・・」

 そららがアリシアをむぎゅーっと抱きしめているのだろうけど、アリシアは少し嫌そうだった。

 ねぇね。そららは妹だから、下の子ができると嬉しいのかもしれない。

「一時は燃やされるかと思った。二人とも、あまり意地悪はやめてくれ」

 ドアの向こうからフランが戻ってきた。

「どっかの誰かさんがエッチだからじゃないですか?」

「その件は今度なにか埋め合わせするから。今日は違う用事で来ているんだ。」

「そー言えば、うちらに何の用があるのよ?」

 そららはアリシアをぬいぐるみのように抱え込んで頭をなでている。

「今日は、ローラを探しに来たんだ」

「ローラは今日来てないよ?」

 私は食堂の椅子を片付けながら返事をした。

「今朝の会議に出なくてね。昨日のアンデット。エルサーナに発生したアンデットの対応を決めないといけないんだけど、戦場で戻ってきた当人のローラがいない始まらない。もしかしたら、ここにいるかと思ったんだけど」

「うちは朝から起きてたけど、来客はなかったよ?」

「つまみ食いしにね」

 ボソッと言った私を睨み付けるそらら。

「おなか減ったよ。ねぇね。」

「そうだよね、何かご飯作ろう!うちらはご飯の支度しようね~。お姉ちゃんは忙しいみたいだからぁ」

 アリシアと手をつないで調理場の方へ歩いていく二人。

「んじゃ、あとはきららにおねが~い!」

 扉を閉めながらバイバイと手を振りながら去っていく

 あんなキャラじゃないでしょ。あの子。

「んで、ローラはいつからいないの?昨日、騎士2人と戻ってきたでしょ?」

「ん?騎士?ローラからは全滅だって。アンデットに襲われたって聞いてるけど」

「だって、帰るときには2人・・・」

「城に戻った時も一人だったから、たぶん間違いないと思うけど・・・」

 そんなことはない。確かに、馬車で二人の騎士が待っていた。

 帰り際に、ローラが二人と話していた。

 じゃあ、あの騎士はどこへ?

「今、ローラはどこ?」

「今朝、部屋に行ったらもういなかった。」

「・・・」

「念のため、今日ここに来るときに連れてきた者を護衛でおいて帰るけど、何かあれば、すぐにアレクサンドリアにくるんだ。もし、ローラが来たら何も知らないふりをして僕が探していた。と伝えてくれ。そららとアリシアにも内緒にしてくれ。怖がらせたくない」

 珍しく真剣な顔をするフラン。一応、気は効くらしい。

「外に待たせている兵には残って屋敷の警護をするように伝える。もちろん、アンデット対策として。」

「わかった。もし、ローラが来たらフランが探してた。って伝えるね」

「頼む。また、落ち着いたらくるよ。伯爵によろしく。」

 そういうと私はそのまま玄関までフランを見送った。アンデット騒ぎ、ローラの失踪、彼には彼の気苦労があるようだ。

 私は、フランの見送りが終わると食堂に戻った。

 誰もいないはずの食堂には、調理場へ行ったはずのそららとアリシアが並んで座っている。

 両手にパンを持って、口いっぱいの頬張っている幸せそうなアリシアの姿があった。

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