第16話ゴブリンのちアンデット。
「意外と、大丈夫そうね・・・」
私はゴブリンを倒した後にそららのもとへ駆け寄った。
彼女は魔力を使い果たしたせいで身動き一つせずに寝ていた。いつかの馬車の中のように・・・。
前回よりもあれだけ魔法をたくさん使っていたから、もしかしたら、
もっと苦しそうで、
辛そうで、
死んじゃうんじゃないか。
なんて思っていたけど、案外ケロッとしていたものだったわね。
あの時と違うのは、死んだように寝ていること。今回のほうが大変だったのだろう。
「この子、おでこにホクロがあるんだ。いつも前髪で隠してたから知らなかった。」
いつもは絶対に見せてくれないおでこにはホクロがひとつ。右眉毛の上にあった。
顔をつついてみても起きない。
前回よりもかなり限界だったようだ。これは当面起きないだろうなぁ。
そう思うと、先ほどの女の子が急に気になる。声が全く聞こえないし、姿も見えない。
(やばい、ちょっと忘れてた・・・。もしかして、瓦礫の下敷きになったりしてないよね?・・・)
私は気になり、近くで女の子を探すことにした。
とりあえず、そららのレイピアを借りて先ほど弓で頭を射貫いたゴブリンの元に戻ってみる。
レイピアと言えど、ちょっと重い。
剣先で、ゴブリンをツンツンしてみる。
・・・
大丈夫そうだ。これで生きていたらちょっと留守の間にそららが殺されてしまう。この子の場合、死んだら化けてきそうで恐い。呪われる。なんて概念があるかしらないけど、とにかくゴブリンは死んでそうだし、少しくらい離れても大丈夫だろう。
あの子を担ぐか、おんぶしたままの移動は正直私には無理だと思う。
レイピアを借りたまま、私はそららを残し女の子がいたであろう方角へ向かった。
瓦礫の隙間や、建物の中も覗いてみるがそれらしき姿は見当たらない。
「おっかしいなぁ。逃げちゃったのかな。」
通りの曲がり角まで来たけど、姿は見当たらない。
そららのほうは何も変化がない。もう少し離れても大丈夫だろう。私はキョロキョロとあたりを見回しながら散策を進めた。
コン!・・カン!!・・
「いたっ!!?」
突然私の頭に何かが落ちてきた。そして何かが近くで落ちた。
突然の痛みで頭を押さえてぶつかってきたモノを見ていたので、この瓦礫の中、何が落ちたとか、些細な変化ではちょっとわからない・・・。
とりあえず、私にぶつかったそれを拾い上げてみる。
ちょっと黒くなっているけど、金色に輝く輪っか。
「・・・指輪??よね。これ」
そこには宝石が取れてしまっている指輪があった。
どこから飛んできたのか?
空を見上げても鳥はいない。
(昔、カラスは光物が好きって聞いたことあるけど。ここにカラスって・・・)
あたりを見回しても人もいないし。
(ま、もらっとこ)
こっそりポケットに入れてそのまま散策開始!
だって、廃墟で拾ったんだから誰のかわからないし。誰もいないし。・・・。
気にしない、気にしない!
・・・いや、気にするかもしれない。目撃者がいる!!私は別に、盗んだとか、そんなつもりは・・・。
遠くのほうに、歩き方が不自然な何か・・・。
(なに?あれ。・・・ん?)
さっきの少女が焼き殺した兵隊がいるあたり。それに街の向こうのほうから何かがフラフラと歩いている。
ザシュッ!!
私から離れた地面に矢が刺さった。
どうやら、あれが放ったものらしい。
(もしかして、あれのせい?・・・さっきのも??)
あ、あそこ。
遠くのそれに目が行っていて気が付かなかったけど、木の陰にさっき女の子が来ていた赤い服がチラっと見えた。
女の子はどことなく、私に似ていた。
ふにゃふにゃと波打つ髪はきれいな銀色。そららより気持ち短いような感じ。
小顔でとても可愛らしい女の子だった。
大人になったら男子から【可愛い!】とか、【守りたいキャラ】とかでモテそうだなぁ。と思った。
身長はけっこう小さい。そららよりも小さい。14歳・・・いや、12歳くらいかもしれない。
私は女の子に駆け寄り、声をかけた。
「大丈夫?怪我はない?」
と、言ったそばから女の子は頭から血を流していた。
「ちょ!、大丈夫?」
私は女の子の体を軽く揺さぶってみる。
「生きてる?わかる?」
頭の怪我を見てみると、大したことはなく、瓦礫の破片か何かがぶつかったのか、少し切れている程度だった。
体を調べてみたけど、心臓の音もしてるし、他に怪我らしきものはなかった。
私は破れたスカートを手で引きちぎって女の子の頭に巻いてあげた。何もないよりはいいでしょ。
「うぅぅぅ・・・・。」
頭に布を巻くと、女の子は自分で目を覚ました。
まだぼーっとしているようだ。
「起きた?」
女の子は目をこすりながら私を見る
「助けに来たのよ。女の子がこの街にいるって聞いたから。とにかく、怪我をしてるし早くここを出て治療しましょう。私はきらら」
「・・・アリシア」
「え?」
「ア・リ・シ・ア!名前よ」
なにか小声で言っていたが聞き取れなかった。女の子。アリシアは不機嫌そうに答えた。
「よろしく、アリシアちゃん」
私が手を伸ばすと彼女は不機嫌そう、から怒りながら私の手をはじいた。
「本気で言ってるの?」
怒っている顔、なんだけど大きな目には涙が溜まっている。
「本気で、・・・って?なんのこと?どうして泣いてるの?」
本当にしらないし、私には心当たりがなかった。
「知らない。わからないよ。・・・そんなこと。」
限界までせき止められていた涙をこぼしながら、泣いてしまった。
「ご、ごめん・・・ごめんね?泣かせちゃって。とにかくここは危険だから一緒に・・・」
ザシュ!!・・・
再び私から少し離れたところに矢が刺さった。
「あの!!もう、たたか・・いは・・・」
私はいい加減に危なかったので文句を言ってやろうと立ち上がると遠くのほうに人影らしきモノがチラホラ・・・。歩き方が明らかに人間ではない。ふらつきながら、倒れそうな歩き方だった。
人数がさっきよりも増えている。
私は、とにかくここにいてはいけないような気がした。
アリシア、と言った少女はなにかブツブツと不満を漏らしていたが、そんなのお構いなしに
「逃げるよ!!」
私はレイピアとアリシアの手を取り、走り出した。正直、体力はけっこう限界。体もトコロドコロ痛い。でも、ここにいては危ない。
「急にどうしたの??痛いんだけど」
「なんか、様子がおかしい。戦いは終わりなのに。私たちがわからないのかな。」
そららのレイピアが重い。
急いで倒れているそららのもとに駆け寄り、グッタリとした重たい妹を背負う。
「お。・・お゛も゛い゛」
目が覚めていたら殴られていただろう。
でも、グテッとしてるせいかとても重い。
「その人は?」
レイピアはアリシアに持ってもらって精一杯早く走る。
走っているつもりなんだけど・・・。アリシアは余裕でついてくる。
「この子は、・・私の・・妹の・・そららよ。・・魔力が・・・なくて・・・寝ちゃったの」
「ふうん。妹か」
走りながら説明すると納得できなそうな顔でいる。
妹・・・妹・・・
考えながら走り続けていると耳に聞きなれない何かが聞こえた。
ううぅぅぅう・・・
低い唸り声をあげながら、片手がなかったり、内臓がでているゴブリンが3体瓦礫の間から這いつくばって出てきた。
「っひ!!な、なによこれ!!」
私は急ブレーキをかけて止まった。
目の前になにか、日常生活ではありえないものが立っている。
「ううぅぅ・・・」
目はこちらを見ているのだか見ていないのだか・・・。虚ろな。濁ったような感じ。
全身に力が入っていないように見える。
大きく体を揺らしながら、グラグラと歩いている。
「アンデットだね。こいつら。」
「ア、アンデットって、死んでからも動くあれ!?」
「そう。どう考えても生きてないよ」
こんなところでゾンビに出会うなんて。・・あぁ、しかもゴブリンゾンビ。
「趣味が悪いな。こんな、死んでる奴を駒のように使うなんて。」
アリシアは一歩前に出てレイピアを地面に突き刺す。
ゴブリンゾンビはゆっくりアリシアに近づいてくる。
「ううおおぉぉ・・」
3体はただ、何も考えずにアリシアに歩み寄る
「ごめんね・・・」
アリシアはボソッと呟くと片手を前に突き出す
「火炎鎗フレイムランス」
指先で軽く円を描くと円からオレンジ色に燃える炎の矢が現れ、ゴブリンゾンビを襲う
『うがあぁぁあああ!!』
炎に包まれてゴブリンゾンビは叫びながら、焦げていき、倒れる。
一度は死んでいる肉体だからか、腕や足がもろくなっていて、燃えている間に取れるのも見た。
肉の焦げる臭いが充満する。
「どっかに、こいつらを操っている奴がいる」
(この子、強い。)
後ろで見ていたけど、さっき私たちが必死に倒したゴブリンを一瞬で3体も倒した。
「死人を操るなんて。・・・許せない」
「操るって・・・死んでいる人を誰かが操ってるの?」
「うん。闇魔法でもけっこう上位だよ。死霊使い(ネクロマンサー)。こうゆう陰険な奴がアリスは嫌い。大っ嫌い!!」
「と、とにかく今は馬車まで行こう!屋敷に戻らないと。エルドロール様の所に行けばどうにかなると思うし。」
私は再び走り出す。アンデットやゾンビは嫌いなのよ。しかも、今は大きな荷物背負っているし・・・。これ以上危険なことは勘弁してほしい。アリシアは黙ってついてきている。
ふと、後ろを見てみると、私たちの背後にはさっきよりも明らかに多くなった【アンデット】の群衆。移動スピードが遅いので追いつかれることはないとは思うけど・・・。
もうすぐ街を出る。入り口が見えてきた。
「あ、アリシア!!もう少し!!」
入り口が見えてきた。街の外には馬車が止まっているはず。なんとか、街から出られそう!
「まって!!」
アリシアが私に声をかけた。もうすぐ街の出口なのに。
「どうしたの!!?馬車はすぐそこだよ!?」
立ち止まり、入り口のあたりにある建物に視線を送り、何かを気にするアリシア。
「そこに、・・・誰かいるの?」
アリシアの問いかけは宙に投げられ、しばらくは何も起きないように見えた。
しかし、私たちが進む道には見慣れた赤い髪の女剣士が立っている。
入り口のそばにある建物の陰から現れたのは、ローラだった。
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