第15話ゴブリンって、ザコだというけど実際にいたらちょー強いと思うんだよね

 瓦礫が崩れる中で、奇跡的に私たちは無傷だった。

 正確に言えば、そららの風魔法で空気の壁をつくり、瓦礫の落ちる方向をコントロールした。というべきだろうけど・・・。

 ちなみに、精霊と契約をしていない彼女が魔法を使うことは結構な重労働で、軽い運動をした時のように呼吸が少し乱れている。

 王国の騎士たちがいた場所からは声や、物音が聞こえない。おそらく、全滅したとみて間違いないだろう。

 なぜわかるのか不思議って?それは、兵士たちがいた方向には、【なにもない】から。

 なにもない。と言ってもわかりにくいと思うけど、本当に・・・何もない。あるものと言えば、地面にできた大きな穴が何個も何個もある。その他には、焼け残った木と、【人間だった肉片】と【溶けた元人間】のみ。

 他の騎士や魔術師たちは骨すら残らず燃え尽き、あのオレンジ色の塊は大地をえぐりとっていた。

 それにしても、さっきの強烈なのも魔法なの?そららでも、あんなの使ってなかったし、威力がすごすぎる。

「あ、・・あんなのくらったら終わりよ。うちも今まで見たことない。あんな魔法。上級魔法だと思う。炎系の」

「もしかして、女の子が使ったのかな・・・」

「たぶんね。精霊もいたんじゃないかな。契約者だと思う。」

 そららは大きく深呼吸をしながらつづけた。

「それに、さっきから爆発してた煙。あの魔法もあの子のせいだとしたら・・・。すごい魔力を持ってると思う。それこそ、宮廷魔術師様クラスかもしれない」

「強いの?」

「フランでも勝てないよ。あんなの使われちゃあね。」

 フランでも勝てない。王宮騎士の人間もあの魔法の前では無力なのか。

 騎士よりと強いのかぁ。宮廷魔術師・・・実は最強なのかな。

「あぁぁ!これ、ダメなんじゃない?あんな魔法、私たちが勝てるわけない!」

 そららが諦めモードになって自棄やけになり始めていた。

(だぁから、死亡フラグ立てるなって言ったのに。)

 心の中で言いながらも、おそらくこの子に言っても通じないのでここはスルーしよう・・・。


 グルルゥゥアアァァァ!!


一瞬、ビクッと体が動く。不意に聞こえた獣の声で驚いてしまった。

 目の前にはゴブリンが2体!!

 静かだったから忘れてた!よく瓦礫の中よく生きてたわね。でも、さっきより1匹少ないのは瓦礫にやられたのかしら。

 手には剣、斧を持っている。

 間違いなく、あれでも一撃食らえば即死亡だろう。

 ・・・さっき、少しでもかわいそう。だなんて思った自分が甘かったのかもしれない。

 話して通じる相手ではない。

 そららはレイピアを左手に、私の前に立ちふさがる。

「お姉ちゃん。へっぽこだからなぁ。でも、今日は信じてるよ?うちは一匹絶対に倒す。それまで持ちこたえてね・・・」

「死なないでね?」

「そっちこそ!うちはゴブリン相手で一対一ならまけないもん!」

 私はそららが離れて行く姿を見ながら、弓を構えた。


 シュ!・・・カン!!


 私の放った矢は斧を持つゴブリンに向かい空を走る。

 が、あっさりと矢は斧にはじかれてしまう。

 だけど、私の狙いは成功した。まずは、2体のゴブリンがそららに行かないようしないといけない。

 斧のゴブリンは、視線が私にまっしぐら。

 剣を持っているゴブリンはそららを睨み付けたままジリジリとせまる。


 ギゴァアアァァ!!


 狂気じみた叫びをあげると、ゴブリンがそららに迫る。


 私は定期的に斧を持つゴブリンへ牽制をしなければいけない。そららのサポートは難しそうだ。

 ゴブリンの剣が、そららへと振りかざされる!!

 キン!!シャァアアー!!・・・・

 そららがレイピアを使ってゴブリンの剣を受け流す。

 刀身同士が激しくぶつかり、金属音が響く。

「こ、の…馬鹿ぢからぁあぁああ!!」

 そららがゴブリンの剣を横に流しながら、すり抜けて斬りつける。

「グガガウアァア!」

 悲鳴?のような声をあげてよろめくが、致命的な攻撃にはなっていないようだ。

 そららはゴブリンの右足の付け根から斜めに斬りあげた。

「手ごたえはあるんだけど・・・。レイピアじゃこのくらいか・・・」

「ウゴアアガアァア!!」

 再び斬りかかるゴブリン。

 ギン!!

 思いっきり振りかざされた刀身を両手で構え細い刀身で受け止めるそらら。

「ウゴアァア!!」

 ゴブリンが顔を前に付き出しながらそららに威嚇する。

 そららは片膝をついてしまったが、そのまま剣先を下に向けて再びゴブリンの剣を受けながし、斬りつける。

「ゴガァア!!」

 ゴブリンは血を流し、その場に剣を落としてしまう。

「やった!!そら!今のうちに!!」

 そららはレイピアを握りなおすと、ゴブリンへと走りこんだ。が、次の瞬間。ゴブリンの激しい頭突きを腹部に受けてしまう。

「ぅっくふ!!・・・」

 軽く後ろに吹っ飛ぶそらら。

「そらら!!」

 私は牽制を続けながら、そららに方に向かった。

「大丈夫?そら!そらってば!!」

「いたた・・・。あれは効くわ・・・」

 そららは仰向けに転がって呼吸を整える。

 私はゴブリンたちに数発矢を打ち込む。

 相変わらず斧ゴブリンには弾かれてしまうが、剣では防ぎきれないようで、右肩、左足に一本ずつ命中した。


 ゴォオルルゥゥ・・・


 ゴブリンの低い声があたりに響く。私の矢ごときでは頭か心臓を撃ち抜かないかぎり、トドメをさすことはできない。

 のらり、と立ち上がるそららの腹部には赤黒い血が滲んでいた。

「そら!その血・・・」

「ん?あぁ。これはうちのじゃないよ。たぶん、あいつの。さっきの頭突きの時についたんじゃないかな。こんな血が出てたら、うち今頃立てないし。」

 こんな時でも、【汚い】と言いたそうな顔でパンパンと服をはたいている。

「離れてて・・・。倒してくるから」

 そららはゴブリンに向かって歩き出す。レイピアを地面に突き刺すと目を閉じた。

「風よ。わが身を守護せよ」

 そららの周りに空気が集まるように風が吹く。

「神風壁ウォール」

 ゴブリンが空気の流れに変化が起きたことでソワソワし出した。何かを本能的に感じているのかもしれない。

 大きなため息をつくとそららは続けた。

「わが身に纏まとえ。精霊の息吹!」

 足元から、全身が薄緑の光に包まれていく。

「天翔風バイドアーク」

 そう言ったのが早いか、そららは地面に突き刺したレイピアを抜き、ゴブリンに斬りかかる。

 人の早さとは思えないくらいのスピードだった。私の目の前にいたのに、20M程度離れたゴブリンのもとへ1秒、いや、もっと早かったかもしれない。緑の光が動いたようにしか見えなかった。

 ゴブリンは右手を斬られ、剣を地面へと手放すと次の一瞬で首を刎はねられた。

 そららは首を刎ねた後に全身に纏っていた光を失い、その場に倒れるように座り込む。

 ゴブリンの体は、数秒の間首がないまま、切り口から一定のリズムで血を吹き出しながら徘徊していたが、バタン、と崩れ落ちた。

「あと、よろしく・・・」

 もう限界のように見える。さっき瓦礫から守るために魔法を使って、今もまた使ってしまった。

 このままだとこの間のように寝てしまうだろう。

「よし、任せて!」

 私はそららを心配させないように、何も倒せる当てがないのに返事をした。

 ここまでやった妹に、情けない格好は見せられない。

 矢は、後10本くらい。これで、あいつを射る。

 力いっぱい弓を引き、ゴブリンの頭。心臓を狙う。

 カン!!・・・

 カン!・・・

 キン!!・・・

 鈍い音を立てて矢が弾かれる。


 手が、汗で滑る。体中の、心臓の音が響いている。

 あと、数本しか残っていない。


 ゴブリンは気味の悪い笑いを浮かべて近づいてくる。

 少しずつ、後退してしまう私。

 カン!!

 あと少しのところで弾かれてしまう。

「っあ!」

 矢を放った瞬間。汗で少し感覚がずれてしまった。

 矢は波打つように飛んでいき、ゴブリンの斧をすりかわし、右目に突き刺さる!


 グゴアアアアガァアア!!!!


 痛みで暴れ出すゴブリン。赤い瞳からは鮮血が流れ出している。

 シュー・・シュー・・シュー・・

 ゴブリンは鼻息荒く、目に刺さった矢を引き抜くと投げ捨てた。

 足で矢を踏み折ると、鋭い眼光で私を睨む・・・。


 ガアアァアアァアア!!


 怒りに震えて突進してくる。私は弓を捨て、近くにあったゴブリンの使っていた剣をとっさに拾い上げて身構える。

 ゴブリンは大きく右手を振りかざし、真横から斧を振り払う!!

「ウ゛ウ゛!!・・・」

 私はそのまま勢いよく吹っ飛ばされる。


 ザ!ザザ!ザザザザザザーー!!


 地面の上をゴロゴロと転がってしまう。矢はすべて散らばってしまった。手に一本の矢とさっき捨てた弓がそばにあるのみ。

 目の前には怒り狂っているゴブリン。

 体中が・・・痛い。

(痛い・・・。やっぱ、無理だったのかも)

 ゴブリンは鼻息荒くゆっくりとこっちに向かって歩いてきていた。

 心が折れる一瞬手前だった。

「風の・・・精霊、シルフ。我は・・汝の加護を受けし、者。我が魔力と引き換えに・・・彼の者を捕らえろ!!」

 今にも倒れそうなそららがかなり不機嫌そうに、苛立った声をあげながらレイピアにしがみつきながら立ち上がり最後の力を振り絞っていた。

「お姉ちゃん。ラスト、チャンスだよ!!・・・。風縛捕蛇バーグハンド!!」

 そららが手を伸ばすと一筋の空気の塊がゴブリンをめがけて走る!私は最後の力で弓を拾い、ゴブリンの頭を狙って構える。

 そのとき、ゴブリンも私に向かって斧を振り下ろしていた。


 ゴン!


 鈍い音を立てて、ゴブリンの斧が私の目の前に落ちた。スカートが切れて、うっすら太ももに線ができ血がにじむ。

 そららの放った魔法が見える。透明で見えないはずの空気の塊。光を屈折させたその姿はまるで大蛇のようにゴブリンに絡みつく・・・。

 風に捕まったヤツは見下しながら、鋭い視線で私を睨みつける。

 もう、怖くはなかった。

「終わりよ」

 私の放った矢はゴブリンの頭を射貫いた。

 ゴブリンは風に抱かれたまま、命を落とし、魔法が消えるとそのまま倒れた。

 私の妹も、レイピアの横で魔力を使い切り倒れていた。

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