第14話殺して・・・殺されて・・・。

街の中はひどい有り様だった。

 王国の騎士たちは、ゴブリンの住みかとなったエルサーナの地をドンドン進行していく。

 私たちは進撃から約2時間後に街に入る形になったが、討伐隊が進行した後は破壊と殺戮の限りだった。

 街は建物、草木など進行の妨げのなるものはゴブリンごと・・・、いや、建物ごと魔法で破壊するような印象を受けた。

 そららと慎重に歩き続けること数百メートル。

【もと】メインストリートらしき通りも、今では過去の面影はない。

 木々は燃やされ、凍りつき、突風なのか無理やりなぎ倒されたようなものもあった。

 建物については、窓ガラスは割られて、廃墟のような印象を受けた。

 ところどころには・・・。

(・・・)

 そう、ゴブリンの死体が転がっている。

 いや、横たわっている。と言ったほうが正確だろう。

 それはまるでゴミのように、雑に道端に捨ててあった。

 切られ、血まみれのモノ。

 焼かれ、焦げているモノ。

 凍らされ、砕けているモノ。

 相手はモンスターとはわかっている。自分たちにとっては害のある生き物。しかし、一方的すぎるような気がした。

「ねぇそら、ここ、たまらなく臭くない?」

 私は鼻をつまみながらそららに話しかけた。

「ぶうぅん・・・。ふはぁい」

 間抜けな答えが返ってきたのでちょっと振り返ってみると、そららは口を開けて口で呼吸していた。しゃべるのが大変そうだ。手にはレイピアが握られているせいで鼻をつまむのが面倒なのかな。片手空いてるのに

 ・・・。

 ちなみに先ほど私も試したが、口を開けたまま歩いたけど、どうやっても臭かった。

 この【におい】を気にせず行くなんて、兵士の方々はどんな嗅覚してるんだか・・・。

 討伐隊が過ぎた後なので当然、あたりは血の臭い、ゴブリンの臭い、ヘドロ?の臭い、焼かれ、焦がれた肉片の臭いが充満している。

(ドブの横でバーベキューしてるみたいな感じかしら・・・)

 と、くだらないことを考えていた私。実際にはご遠慮したいバーベキューだ。

 いつまでも、臭いを気にしている訳にもいかないので、覚悟を決めて普通に呼吸してみる。

 ・・・くさい。

 そー言えば、ローラの姿を見ていない。もっと奥に言っているのだろうか?

「女の子、いないね。」

 そんなことを考えてあたりを詮索していると、そららが急に話しかけてきた。

「戦闘区域だから、もっと奥なのかな。」

 街の入り口から結構歩いてきたと思うのだけど、未だに騎士とも魔導士とも接触はない。争っている音もあまり聞こえない。

 街は静かなものだった。

 ほとんどのゴブリンは逃げ出したところを殺されたのか。もしくはすでにほぼ討伐が終わっているのか・・・。

「どのへんで見かけたのか、もっと聞いておけばよかったね・・・」

「・・・うちのせい?」

「ううん。私も気がまわらなかった。興奮してたみたいで・・・」

 初めて入る街は勝手がわからず迷子状態だった。

 ただ、後ろ向き歩けば入ってきた入り口があることだけはわかる。

「でも、ゴブリンが出ないだけよかったね?」

 そららはちょっと余裕ぶって、レイピアを傘のように両手でクルクルっ、とまわして手持無沙汰だった。

「まぁね。街に入っていきなりバトル!なんてなったらどうしようか。と思ったけど案外無事に来れるものね」

「いい仕事するわね。あの騎士たち」

「でも、少しやりすぎなんじゃない?」

 私は燻っている肉片を見ながら少し、かわいそうに思ってしまった。

「わかるけど、なにもしなければうちらが殺されちゃうんだよ?人間とモンスターは、共存できないんだよ。お姉ちゃんの言いたいことはわかるけど。・・・」

 そららはあまりゴブリンの死骸を見ないようにして進んでいた。

 戦とは、考えたり、憐れんだり・・・。感情がでたら負けなんだと思う。

 街を歩いていて思ったことは、意外と単純なことだった。

(女の子がいる。なんて聞かなかったら私はここにいなかったんだよなぁ。)

 そらを見上げてそんなことを考えている時だった。


 ・・・・カラカラ・・・カランカラン・・・


 瓦礫が少し崩れた!

 カン!・・・

 そららは遊んでいたレイピアを地面に落としてしまい、慌てて拾い上げると私のほうにくっついてきた。

「ちょちょちょちょちょ!!・・なに?来た!?どこ!!」

 あたりには人影らしきものは見当たらないのだけど、私の横には余裕ぶっていた時とは嘘みたいな女の子が一人・・・。

「ちょ、痛いってば!!そんなので大丈夫なの!?」

「だってぇー。心の準備が・・・」

「どこの世界に、『これから行きまーす』なんて言ってくれる敵がいるのよ!」

 一気に不安になってきた。

 この子、大丈夫かしら。

 肩で呼吸してる彼女も、少しづつ冷静さを取り戻してきたようで、

「も、大丈夫。初めての実戦で、油断してたから。・・・次は平気!」

 そんな今更言われても・・・。めぇっちゃ頼りない気がする。

 初陣とは、こんなものなのだろうか。


 ボォゴォォォォォン!!!!!!!


 そんな話をしていると、近くで爆発音が轟く。

 同時に粉塵、小さな瓦礫、煙が周囲へ飛び散りながらも、上空へと舞い上がる。

 《ォォオ!!・・・・そっち・・・・グゥゴォォ・・・≫

 通りの向こうから罵声と叫び声が聞こえる。

 おそらく兵士だろう・・・。それもかなり大勢の。

 そして、あの声はゴブリンがいるはず。

「来るよ」

「・・・わかってるよ」

 身構える私たち。

 次の一瞬、建物の向こう側からゴブリンが現れた。

 その数3体。手には剣や斧を持っている。

 そして

「いたっ!」

 そららが指差すほうには少女がいた。

 私は息をのんだ。目の前にはゴブリン。交戦中。

(今行くのはあぶないんじゃないか)

 一瞬、出遅れた瞬間

「炎の・・フレ・・。我が望・・・き届・よ。紅・・炎を・世へ。・・・みは世・・・び。我が・・・世界・・沌」

 少女がなにか言うと、少女の前に何か小さな生物?らしきモノが浮遊しているのが見えたような気がした。が、その姿を確認する間もなく私たちの目の前には恐ろしいものが現れた。

「紅蓮爆砕陣フレアボムズ!!」

 次の瞬間に少女の周りの空間にオレンジ色に輝く炎の塊がいくつも現れる。

 炎の塊は渦を巻きながら空気を取り込み、ドンドン大きくなって最初の2倍くらいの大きさになった。

「滅せよ!!」


 ドゴォォォォォォォォン!!!!


『た!!!、退!・・・』

 少女の声と同時に炎の塊は四方へ飛び散り、至る所で黒煙が舞い上がり、空気を揺らしながら凄まじい轟音が鳴り響く。


『ひぃぃぃやあぁぁぁぁぁ!!』


『あぁあぁぁぁぁ!』


『うぅいぃいぁぁあ!!』


 王国騎士たちは退避する間もなく、次々に炎に飲まれていく。

 瓦礫に一瞬に潰されるもの。

 声を上げる間もなく炎に押しつぶされるように燃え尽きるもの。

 パニックになり転倒し、他のモノに踏まれ圧死するもの。

 熱で火傷のようになり、皮膚が溶け出すもの。

 ・・・。

 それは、人間がゴブリンに対して行った虐殺の報いのような光景だった。

 私たち二人はその場から動くことができなく、ただ、ただ、その光景を瞳に写すのみだった。

「ひ、ひどい・・・」

 悪夢のような光景だった。

 人間が焼かれ、炭のようになっていく。

 皮膚がただれ、まるで腐ったようになり、激痛で悶えながら死んでいく。

 中には熱で鎧が溶けて体に付着しているような者もいる。

 魔導士たちは魔法で応戦したように見えた。しかし、一瞬だった。、私たちの目にはシャボン玉が割れるかのような感じで【なにかが弾けた】のは見えた。そして弾けた後は、すべての人間が燃えていった。

 木々は焼け、葉は赤茶色になり水分を失い。幹は焦げてしまっている。

 直撃を受けた木は葉は熱で瞬時に粉砕され粉になり、幹や枝は【そのまま炭】になっている。

 私が、無意識に一歩後ろに下がった瞬間。ゴブリンの赤い目と視線が合った。


 ゴルゥゥゥアァアァァァァ!!!


 ゴブリンの咆哮が木霊し、私たちに視線が向けられた瞬間―


 ズズズ・・・ズズズ・・ズガガァァァァァン!!!!


 爆風の影響か、轟音のせいか。

 どっちにしてもさっきの魔法の影響で建物が倒壊した。

「お、おねぇ!!!・・」

 呼ばれる声に視線を送るよりも早く、瓦礫の崩壊が始まる。

 私とそららの隣にあった建物をはじめ、周囲のモノはすべて・・・。雪崩のように崩れ去った。

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